
結婚、子育て、家のローン、旅行や教育費など、人生にかかるお金はさまざまある。年を重ねてから考えたいのは、介護や看取り、葬儀や相続などをこれまでの貯蓄や年金収入でどうまかない、何を残すかという、まさに“総決算”だ。人生最後に大損しないための最新情報をまとめた。
「遺言書さえ書いておけば安心」に潜む落とし穴
子供や孫のためになるつもりが、相続のルールは複雑。だからこそ、誤った知識は正しておく必要がある。
その代表格が、遺言書に関するものだ。もっとも大きなウソは「遺言書さえ書いておけば安心」というもの。相続実務士で夢相続代表の曽根惠子さんが言う。
「遺言書が無効になることは少なくありません。“仲よく分けてください”といった曖昧な書き方や、日付の書き忘れなどは無効。また付言事項で財産の使い道などを指定するのも無効。付言事項には法的効力はありません。一方、“実印でなければならない”というのは思い込みで、認印や拇印でも有効です。
公正証書遺言は、はんこを押した原本を公証役場で保管するため家にある遺言書ははんこがないから無効と早合点して破棄しないように気をつけて」
遺言者の死後、封印された自筆証書遺言は「開けたら無効になる」というわけではない。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが言う。
「家庭裁判所での検認の際に開封され、そこで遺言内容が無効だったと知るよりは、偽造や変造などのトラブルの可能性さえなければ遺言書は封をせず、相続人が見られる状態にしておく方がいいでしょう。遺言書は書き直せないというのもよくある誤解で、状況に合わせて何度でも書き直せます」(明石さん・以下同)

法的に有効な遺言書なら、必ず従わなければいけないとも限らない。内容が遺留分を侵害している場合は、遺留分侵害額請求が行われることもある。遺留分とは、法律で定められた最低限度の相続割合のこと。
兄弟姉妹には遺留分がない一方、「きょうだい間では相続権がない」というのは勘違い。亡くなった人に子供と両親がおらず、別の誰かに遺贈する内容の遺言書がなければ、兄弟姉妹にも相続する権利がある。
「遺言書がない場合、“法定相続割合で分けなければいけない”というのも勘違いで、遺留分も法定相続割合も関係なく、相続人同士で話し合い、自由に分けることができるのです」
たとえ義両親の介護を引き受けたとしても、嫁は相続人ではないので、「介護した人が多く財産をもらえる」と期待してはいけない。
「特別寄与料を請求できる法律はできましたが、それでも嫁の立場からはなかなか請求しにくいうえ、受け取れる額も微々たるものです」(曽根さん)

相続税対策として生前贈与を考えても意味をなさないこともある。基礎控除によって、3000万円+600万円×法定相続人の数の額までは、相続税はかからないからだ。
「生前贈与には相続税がかからず、贈与の方がお得なイメージがありますが、同じ財産額なら、贈与より相続の方が圧倒的に税金が少ない。年間110万円までの暦年贈与分が相続財産に持ち戻される(課税対象となる)のは“亡くなる3年前”と思っている人も多いですが、2024年以降は順次7年前まで延長されました」(明石さん)
生前贈与をしたからといって、相続と無縁になるわけではないということだ。プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが解説する。
「暦年贈与以外の相続の先渡しは“特別受益”として、遺産分割で考慮されることがある。時効はなく、10年以上前の贈与も対象になります」(三原さん)
孫への贈与は持ち戻しはないが、孫に財産を渡せば節税になるとは限らない。遺言書で遺贈したり、死亡保険金の受取人に指定すると相続人と同じ扱いになり、持ち戻しが発生する。