水道水だけじゃない…家の中の「PFASほこり」のリスク 家具やカーテンなどの“表面加工”に含まれる化学物質が揮発しほこりと付着、衣服や電化製品から放出される可能性も

過去何度も本誌・女性セブンでその危険性を報じてきた、発がん性が疑われる化学物質「PFAS(ピーファス)」。各地の水道水の汚染ばかりが注目されているが、それよりも深刻なのは家庭内のほこりかもしれない。海外の最新研究や専門家を徹底取材し、「PFASほこり」のリスクをレポートする。
4月25日、環境省は健康への影響が指摘されている「PFAS」の2023年度の最新調査結果を公表した。
調査によると、全国の河川や地下水2078地点のうち242地点で暫定の指針値(1L当たり50ng)の超過が確認され、実に全国の1割以上の水源が汚染されていることになる。
本誌でも複数回にわたりレポートしてきたように、専門家や市民団体はかねて全国にPFAS汚染が広がっていることを警告してきた。今回の発表はそれを裏付ける結果となった。
PFASとは人工的に作られた「有機フッ素化合物」の総称で、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)など1万種類以上ある。PFAS研究の第一人者で、京都府立大学大学院・食環境安全性学研究室教授の原田浩二さんが解説する。
「水や油をはじく性質を利用し、こげつきにくい加工を施したフライパンやレインウエア、紙コップや紙皿などのコーティング、揚げ物の包装紙、さらには化粧品などあらゆるものに含まれています。消火器などに使われる泡消火剤にも大量に使用されてきました。
分解されにくく、長期にわたって自然環境中に残ることから『永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)』と呼ばれ、人体に入っても排出されにくい。そのため体内に蓄積し、悪影響を与えることがわかっています。国際がん研究機関は2023年に、PFASのうちPFOAの発がん性を『可能性がある』から『発がん性がある』に2段階引き上げました」

発がん性以外にも、さまざまな健康被害が報告されている。科学ジャーナリストの植田武智さんが言う。
「アメリカの汚染地域での健康調査では、妊娠高血圧症及び妊娠高血圧腎症や精巣がん、腎細胞がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症との関連が確認されました。
さらに、子供や胎児への影響も指摘されており、北海道大学の調査では、新生児の出生体重の減少や甲状腺・性ホルモン異常、免疫力低下、神経発達の遅延、脂質代謝異常などのリスク上昇の可能性が指摘されています」
さらに、命を奪う病気につながる可能性もあるという米ハーバード大学らの研究結果もある。研究によればPFASの血中濃度が高い人は低い人に比べて全死因死亡率で1.57倍、心臓病死亡率で1.65倍、がん死亡率は1.75倍高いという結果が出た。
「最近になり、日本の研究によって判明した人体への影響もあります」
そう話すのは、環境脳神経科学情報センターの木村-黒田純子さんだ。
「妊娠中の母親の血中PFAS濃度が高いと、生まれてくる子供の染色体異常の発生が多い傾向が見られたという環境省エコチル調査の研究発表があります。今回得られた結果をもって、すぐにPFASと染色体異常の関連性を結論づけることはできないとの注釈がついていますが、注目すべき報告です」
私たちの体を蝕むPFAS汚染は、主に水道水や土壌がメインだとされてきた。しかし、恐ろしいことにこれらの脅威は別のルートから私たちの家に潜り込んでいる。
何に使われているか誰にもわからない
《ハウスダストによるPFASへの暴露が、成人の総暴露量の最大25%に寄与する可能性が示された》
これは米オークリッジ科学教育研究所らが昨年末、学術誌に発表した論文だ。
つまり、家の中の「PFASほこり」によって、PFASを相当、体内に取り込んでいることになる。
なぜ、ほこりにPFASが含まれるのだろうか。
「防汚加工されている家具や撥水加工のカーテン、じゅうたんなどの表面加工に含まれる化学物質が揮発して、ほこりと付着するとされています」(植田さん)

木村-黒田さんが続ける。
「そのほかにも室内の壁紙や床材、天井材、電気製品、合成繊維の衣服などさまざまなものからPFASほこりが放出されていると考えられています」
身近なあらゆるものにPFASが含まれると指摘するのは原田さんだ。
「発生源がいまいちピンとこないという人も多いでしょう。というのも、PFASが何に使われているかは誰にもわからない。家電や家具、カーテンなどのインテリアや建材などはもちろん、ウオータープルーフをうたう化粧品にもPFASが使われているものもありますし、スマホ画面のフィルターにもそういった加工がされているものがある。もちろん撥水加工がされた衣服がこすれて微粒子になり、ほこりになることもあります」(原田さん・以下同)
古くなったものからはがれ落ちてほこりになるイメージがあるが……。
「古くなってはがれるのもそうですが、新品からでも放出されたり、微粒子になります。もちろん劣化すれば多く出ることは考えられますが、いちがいに“古いものは危険”ということではありません」

特にプラスチック類の危険性を指摘するのは木村-黒田さんだ。
「プラスチック製品には、劣化防止のための紫外線吸収剤や安定剤などさまざまな添加剤が使われていますが、これらには内分泌撹乱作用(内分泌に影響を与え、正常な働きを乱す)や有害性が報告されている化学物質があります。しかし、それら化学物質がプラスチックの中に、何がどれくらい入っているかは“企業秘密”として明らかにされません。
紫外線はプラスチックを劣化させてもろくさせるので、日当たりがいいところに置き続けているプラスチック製品からは、より有害物質を含むほこりが出ているかもしれません」
しかも、「PFASほこり」は水道水より身近なもので、摂取しやすいともいえる。原田さんが続ける。
「ハウスダストに含まれるPFASについては2003年頃から調査がされていました。大阪の研究所の調査ではPFOSとPFOAが、1g当たり合わせて平均500ng入っていたと報告されています。乳幼児であれば1日50?ng口にしていたと推計されます」
冒頭で述べた通り、水であれば1L当たり50ngを超えれば「汚染」とされる。単純比較はできないものの、報告の通り、ハウスダスト1g当たり500ng含まれているとすれば相当な量だ。
子供への影響が懸念される研究結果
木村-黒田さんはPFASほこりが体に入る危険をこう指摘する。
「ほこりは鼻から吸い込むと肺経由ですぐに血中に入り込み、全身を循環します。口から取り込む経口経由では肝臓で解毒されるので、毒物を肺から取り込む経気経由はより危険性が高いと考えられます。また、ほこりの中に含まれる、大きな粒子は肺内部にたまるかもしれません」
ひとたび吸い込んでしまえば、さまざまなルートで私たちの体内に吸収される。特に小さな子供への影響が懸念される。

「新生児や子供は、体内に備わっている生理的化学物質(ホルモン)や外部からの情報を受け取って発達していきます。子供には特定の機能や能力が最も効率的に発達する『臨界期』があり、その時期に有害な化学物質に暴露すると、取り返しのつかない影響を受ける可能性があります。
脳の発達は有害物質にさらされると、その時期により、生命維持にかかわる部分や社会性を担う高次機能の神経回路など、さまざまな部分に悪影響を及ぼすことが指摘されています。特に赤ちゃんは何でもなめたり口に入れるため、PFASほこりを摂取する可能性が高いです」(木村-黒田さん・以下同)
今年2月に発表された米カリフォルニア大学バークレー校の研究でも、子供への影響を懸念する結果が出た。7才以下の子供のいる家庭を調査したところ、ほこり由来の8種類のPFASにさらされた子供は、暴露が少ない子供に比べて白血病にかかるリスクが60%も高かったのだ。
「家のほこりには多種類の有害化学物質が含まれており、暴露すると発がんなどのリスクが上がると想定されますが、それだけですぐ死に至るとは言い切れません。ほとんどが急性毒性を起こすのではなく、何らかの慢性影響や多種類の物質の複合毒性がかかわっていると考えています」

少しでも自分や家族の体にPFASほこりを入れたくないが、できる対策としてはどのようなものがあるのだろうか。
「こまめな掃除しかないですが、ほこりを舞い上げるハタキはNG。水に濡らしたタオルで拭くのがいいでしょう」(植田さん)
木村-黒田さんも、掃除の仕方に注意を促す。
「消臭スプレーをかけるのは化学薬品を増やすばかりか、ほこりが舞い散ってしまい逆効果です」
ほうきではなく、水拭きなどでほこりが空中に舞い上がらないようにする工夫が必要だ。
原田さんは、最新家電に期待したいと話す。

「花粉やウイルス、微細なほこりなどを除去するHEPAフィルターを搭載した空気清浄機は一定の効果があると考えられます」
家庭内にあるもののほとんどにPFASが使われているだけに、家から一掃するのは難しい。
だからこそ、「ほこりにはPFASが含まれている」ことを認識し、掃除への意識を高めよう。それが、自分と家族の命を守ることにつながるのだ。
※女性セブン2025年6月19日号