健康・医療

《本当に必要か?》見直すべき“検査”の数々…「脳ドックは下火」「バリウム検査は進行がんでないと発見できない」「世界的に肺がん発見のための胸部X線検査は行われていない」

無意味な医療を避けるために、自分の目で必要な医療を見極める必要がある(写真/PIXTA)
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年を重ねるとともに不調が増え、病院へ行く回数ものむ薬の量も若い頃とは大違い。それに伴い、家計に占める医療費の割合も大きくなる。人生100年時代といわれるいま、医療費は右肩上がりで、2023年度の総額は47.3兆円と、3年連続で過去最高を記録した。1人あたりの年間医療費はこの20年で13万円も増え、75才以上の後期高齢者でも一定以上の所得があれば、窓口負担割合が1割から2割になった。

医療費増加の理由として指摘されるのは、高齢者の増加だ。しかし、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは「“無意味な医療”の蔓延も医療費拡大に拍車をかけている」と言う。

「医療機関で行われる治療や検査の中には、医療者側が自身の利益追求のために行っているものがあります。私たちが患者としてできる対策は、健康やコストを考えてデメリットがメリットを上回る“無意味な医療”を避けること。そのためには、自分の目で必要な医療を見極める必要があります」

そこで「受けても意味がない医療」、むしろ「危険を及ぼす医療」を取材した。

偽陽性が出て無駄な治療を受ける

埼玉県在住のパート・Aさん(52才)は、今年も人間ドックで異常がなかったと笑顔で話す。

「年に1回、人間ドックで全身チェックするのが恒例行事。オプションは毎年少しずつ変えますが、脳ドックやPET検査、女性向けの腫瘍マーカー検査などを組み合わせると、費用は15万円くらい。でも次の検査までは安心して暮らせるから、必要な出費ですよね」

だが、室井さんは「無意味な検査によって、病気の発見が遅れることもある」と警鐘を鳴らす。

「“人間ドックで問題がなかったから大丈夫”と健康に対する意識が低下して、何か症状が出ても無頓着になってしまう。最悪の場合、手遅れになる可能性もあります」(室井さん)

もちろん人間ドックの検査すべてが無意味というわけではないが、オプション選びには注意が必要だ。室井さんは脳のMRIや頸部超音波検査をする「脳ドック」を挙げる。

「脳卒中などを予防する目的で行われますが、健康な人が受けても病気の発見や延命につながるというデータは少ない。脳ドックを行っていた医療機関が倒産するなど下火です」

人間ドックの検査では、オプション選びに注意が必要(写真/PIXTA)
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産業医・内科医の森勇磨さんは「心臓ドック」も受けるメリットがないと話す。

「カルシウムスコアという血管の石灰化がわかるので、心臓の現状を把握したいなら受けてもいい検査です。

しかし、血管が石灰化しているとわかっても治療法はなく、減塩食や運動で改善するだけです」

がんについても早期に発見して治療につなげたいと思うものだが、やみくもに検査を受けるのは誤り。森さんが無駄ながん検査として真っ先に挙げるのは、「PET検査」だ。

「全身をスキャンしてがんの治療の進み具合の測定をする検査であって、早期発見の目的で行うものではありません。1回数万〜10万円と高額ですが、がんの早期発見につながるエビデンスはない。正常なのにがんの疑いがあるとされる『偽陽性』が出てしまうと、体に器具を入れるなど負担のかかる検査が必要になり、有害事象が発生するリスクもあります」