
マッサージに行ってもすぐにぶり返す肩こりや腕のしびれ、背中の痛み。そして慢性的な眼精疲労、頭痛。「年だから」と放置すると、やがて症状の重篤化を招くことに。だが、1日5分だけ「首トレメソッド」を行えば不調を解消し、姿勢もよくなり、体も動かしやすくなるという。さっそく始めよう。
悪い姿勢とストレスが全身の痛みと不調を招く
「肩こりを解消するには、実は首の重点的なケアが必要。それをしないと抜本的な解決にはなりません」と整形外科医でカイロプラクターの竹谷内康修さん。
その理由は、首にかかる過酷な負荷にある。
「成人の頭の重さは5kg前後。そんな重い頭を、細い首が支えています。首は、7つの頸椎(首の骨)がS字のカーブを描くように連なっていて、カーブがあることで、体を動かすときに背骨にかかる負担や衝撃を和らげています。

しかし、猫背で首が前に出たストレートネック、いわゆる『スマホ首』になると、本来のカーブが崩れる。その結果、首だけでなく肩や背中など上半身にこりや痛みが現れます。加齢とともに背中が丸まりやすくなり、ストレートネックになる人は増えています」(竹谷内さん・以下同)

30度うつむくだけで頭の重量の3倍以上の負荷が頸椎にかかる(※)というから、猫背がいかに首を傷めつけているかを痛感する。
(※Hansraj K.K,: Assessment of Stresses in the Cervical Spine Caused by Posture and Position of the Head. “Surg. Technol. Int.” 25:277-279, 2014)
「もうひとつ、ストレスも首を悪くする要因です。人間関係、仕事、冷えなどによる不快な感情で交感神経が活発になり、筋肉の緊張も高まって首や肩がガチガチに固まります。すると呼吸が浅く、姿勢も悪くなるという悪循環になるのです」
治療にも限界がある。
「病院や整体などは、投薬や理学療法(牽引やマッサージなど)の対症療法。一時的に痛みが消えても、やがてぶり返すことになる。
そこで、私は患者さんに毎日固まった首の状態を少しずつほぐしていくセルフケアの指導をしています。これが実践的で根本的な解決策だと思います」
顎関節症や食いしばり、睡眠時無呼吸症候群なども首に力が入るため、首のケアをすることで症状を軽減する効果があるという。
筋力が低下し、悪化が加速する前に首トレを!
1日1回でOK!「首トレ」にトライ
肩こりなどの不調を解消する第一歩は、姿勢を整えることにある。首トレには、首や肩のこりをほぐすとともに、姿勢を改善する効果も。コツは姿勢を正して行うこと。1日1回でもOKだが、朝晩行えば早い効果が期待できる。





姿勢の矯正なくして首トレの効果はない
こりから痛みに悪化するとき、体にはどんな変化が起きているのだろうか?
「まず、首の筋肉が緊張すると『こり』が起こります。この段階では自覚症状のない人も多いですね。
さらに、体を動かすことで筋肉が収縮し、引っ張られると頸椎部分が押しつぶされて関節や椎間板に炎症が起き、神経を圧迫して痛みとなって現れます。圧迫される頸椎の位置により、肩や腕など痛みの場所が変わってきますが、この状態ならセルフケアで改善します」
まっすぐに立って首を左右に倒したり、後ろを振り返ってみよう。どちらかが動かしにくい、痛いという場合はケアが必要だ。
「ケアには『首トレ』(記事内の画像で【1】~【5】の首トレを紹介)がおすすめです。首トレ【1】〜【3】で首や背筋を伸ばし、筋肉をしなやかな状態に戻します。重要なのは、筋肉の緊張をゆるめること。これにより痛みが緩和され、関節や椎間板の炎症が治まり、神経への圧迫も軽減します」
首トレ【4】と【5】はほぐしから踏み込んだ「筋トレ」で、首や背中の強化を目指す。
「運動習慣がなく、首を伸ばすことがやっとという人は、まず【1】〜【3】のみを続け、ほぐれてきたら【4】と【5】にトライしてください」
いずれの首トレも、背筋を伸ばしたよい姿勢で行うことが必須。
「土台となる姿勢が悪いままでは効果が見込めません。正しい姿勢で首トレを行えば姿勢もよくなり、体も動かしやすくなります」
「枕が合わない」「いつも同じところを寝違える」という人は、慢性的な首や肩のこりを抱えていることが多い。
「首の不調を改善させなければ、いつまでも合う枕に出合えないでしょう。ぜひ、首トレを生活の中に取り入れてください」
首トレの効果を保つためには、座る、立つ、歩くといった日常動作にも気をつける必要がある。
「いすは背もたれが高く、座面にクッション性があるものが理想。座るときはあごと両肩を引き、背もたれにまっすぐ寄りかかります。腰が反ってしまう場合は、腰の部分にクッションやバスタオルをはさみましょう。沈み込みやすいソファにもおすすめです」
よい姿勢を意識するほど肩に力が入ってしまい、逆にこってしまうことも…。
「そんなときは、背筋の中心線上で、肩甲骨のいちばん下あたりに『ボタン』があるとイメージして立ってみてください。力まずに背筋が伸び、頭と首の位置も安定します。そのボタンを押すように足を前に出せば、美しい姿勢で歩けます」
バッグの選び方も重要だ。
「痛みやこりの症状が出ている側でバッグを持たないこと。リュックは重さを分散できるといわれますが、おすすめは、症状がない方の肩からかける『斜めがけ』。これだと両側の首と肩に力が入りません」
重要なのは、首や肩をこわばらせないこと。そして、ストレスをためないよう、運動や趣味で発散させよう。
◆整形外科医・カイロプラクター・竹谷内康修さん
竹谷内医院院長。整形外科医として臨床に携わった後、米国でカイロプラクティックを学び、手技療法専門のクリニックを開院。首のスペシャリストとして雑誌やテレビなどでも活動中。近著に『頸椎症の名医が教える 竹谷内式 首トレ 5分の体操で首の痛み・肩こり・腕のしびれが消える』(徳間書店)。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2025年5月29日号