社会

《トランプ関税政策の影響》想定される“アメリカ産食品の輸入受け入れ拡大”、日本が“反発する中国の尻拭い”をさせられる可能性 大豆やトウモロコシだけでなく米も対象か

トランプ氏によって世界経済は大混乱に陥っている(時事通信フォト)
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終わりの見えない値上げに、高止まりを続ける物価、備蓄米が放出されてなお値段が下がらず市場に充分な数が並ばないままの米。海外に目を向ければ、トランプ米大統領が拳を振り上げる関税政策で世界経済は大混乱に陥っている。一見すると関連のないように思えるこの事象は実はつながっており、国内外のピンチが掛け合わさって私たちの食の安全を脅かしている。アメリカ産食品に潜むリスクに迫る──。【全3回の第1回】

スーパーの肉売り場でじっくり値札を見比べて、国内産の牛肉よりも安価なアメリカ産の牛肉を手に取る。

続いて足を向けたベーカリーコーナーでは、国内産小麦ではなくアメリカ産小麦を使ったパンを選ぶ。理由はやはり安いから。

国内では物価高や食品の値上げがとどまらず、米の価格高騰も解消されない。そんな苦しい状況が続く中、国産食品ではなく、つい比較的安価な輸入食品に目が向く人は多い。加えて、世界を混乱させているトランプ関税政策の影響で、私たちの食卓は大きく変わりそうだ。

トランプ関税といわれても「株価に影響があるらしいけど、生活にはいったいなんの影響があるの?」とピンと来ない人が多いだろうが、実は私たちの食と命に大きくかかわっている。なぜなら、トランプ大統領の関税政策は、アメリカへの輸出品に高い関税をかける政策であり、食を通して私たちの暮らしに大きな影響を与えるからだ。

「トランプ大統領の政策には、大きく3つの目的があります」

京都大学大学院人間・環境学研究科准教授の柴山桂太さんはこう語り、政策の狙いを解説する。

「まず、アメリカに対する貿易黒字が大きい国に高い関税を課すことで、自国の製造業を復興させる。加えて、鉄鋼や造船などの基礎的な生産能力を回復させて国力を高める。そして、輸入を減らして貿易赤字を削減する狙いです」(柴山さん・以下同)

対して日本は、赤沢亮正経済再生担当相が何度も海を渡って対米交渉を続けているがこの先、政府は何らかの譲歩を強いられそうだ。

「トランプ大統領としては、対米輸出が多い日本の自動車に25%の高い関税をかけたい。でも日本は、裾野の広い自動車産業に高い関税がかかると国民生活に大きく影響するので、“自動車だけは何とかしてほしい”が本音です。その流れで対米依存度が高い日本政府は、中国やEUのように強硬な対抗措置を取るのではなく、米政府に譲歩する可能性が高い」

アメリカに輸入量拡大を提案し交渉する日本

そこでいま、「アメリカ産食品」に注目が集まっている。

5月1日の日米閣僚会議では、日本に農作物の市場開放を要求する米政府に対して、赤沢大臣がトウモロコシや大豆の輸入拡大を提案した。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんは、「この先、アメリカ産食品の輸入受け入れが増えることは大いに想定される」と語る。

「『自動車関税を25%に引き上げるぞ』と“脅され”、『それだけは許してほしい』とひるんだのが日本政府です。アメリカと対立し、大きく関税を引き上げられた中国が対抗措置としてトウモロコシと大豆を買わなくなる分、日本が“尻ぬぐい”させられる可能性があります。すでに政府内では対米関税交渉において、アメリカ産トウモロコシの輸入拡大が検討されています。

事実、第一次トランプ政権でも中国が買わなくなったトウモロコシを安倍晋三首相(当時)が“肩代わり”してトランプさんを喜ばせましたが、この先は大豆やトウモロコシだけでなく、市場で不足している米についても輸入を迫る圧力が増すかもしれません」

とうもろこしの追加輸入を求めたトランプ氏と握手を交わす安倍元首相(2019年。写真/時事通信フォト)
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そもそも日本にとってアメリカは最大の食品輸入相手国だ。農水省の「農林水産物輸出入概況」(2024年)によると、その輸入額は「トウモロコシ」「大豆」「牛肉」「豚肉」「小麦」の順に多い。

アメリカ産食品に対する依存度の高さも際立つ。2024年に日本に輸入されたトウモロコシの77%、大豆の65%、輸入牛肉の37.9%、輸入小麦の38.5%がアメリカ産だった(いずれも金額ベース)。食の安全に詳しいジャーナリストの小倉正行さんが指摘する。

「トウモロコシは食用のほか家畜の飼料用としても多く使われ、大豆は食用油の原料や納豆などに加工されます。また、アメリカ産の牛肉や豚肉は国産よりも安いので人気が高く、アメリカ産小麦はサンドイッチやトーストなどのパン製品全般やホットケーキなど洋菓子類に使われます。

この先、これらのアメリカ産食品の輸入が増えると依存度が増し、日本の食料自給率はさらに低下するはずです」

ただでさえアメリカ産食品は私たちの口に入る機会が多いが、トランプ関税により今後さらに食卓に並ぶ機会が増えそうだ。

アメリカ産「食べると危険」な食品リスト
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アメリカ産「食べると危険」な食品リスト
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(第2回に続く)

 

※女性セブン2025年6月19日号

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