《腸内環境を整えて長生きするための食生活》善玉菌のえさになる水溶性食物繊維が重要 漬ものやぬか漬けなどを取り入れた和食が最適、腸のバリア機能を強化する効果も

日本の「100才以上の人口」は9万5119人(2024年)と、54年連続で過去最多を記録している。最新研究で明らかになったのは、日本人の長生きを支えているのは、ズバリ「腸」だということ。つまり、腸を整えれば、ただ長生きするだけでなく、人生の最期の瞬間まで元気で幸せに生ききることも夢ではないのだ。一方で、日本人の腸内環境にも変化が生じているという。100年ずっと元気な腸、すなわち“ご腸寿”に近づくための、腸の秘密を解き明かす。【前後編の後編。前編から読む】
大腸がん患者が倍増、女性の半数が便秘に
日本人の平均寿命、健康寿命が延び続けている一方で、腸内環境の悪化は進行しており、この約20年の間で大腸がん患者が2倍以上に増加していることがそれを表している。医学博士で管理栄養士の岩崎真宏さんは、日本人の食生活の急激な変化が要因だと指摘する。
「この20年で、日本人の食事は欧米以上に欧米化しました。腸内環境の悪化の大きな原因は、動物性脂肪の摂取量の増加、すなわち肉の食べすぎです。
20年間で魚の摂取量は大きく減少しており、国立健康・栄養研究所の国民健康・栄養調査によると、2010年以降、日本人の肉の摂取量が魚の摂取量を上回っています」(岩崎さん)
魚の脂肪にはDHAやEPAなどのオメガ3系脂肪酸が豊富で、動脈硬化や心疾患の予防に役立つ一方、肉の脂肪は腸内の悪玉菌のえさになりやすい。「腸内フローラ」という言葉の生みの親でもある、辨野(べんの)腸内フローラ研究所理事長で腸内細菌学者の辨野義己さんによれば、肉の食べすぎは寿命にも影響する可能性が高いという。
「もちろん、肉はたんぱく質が豊富で、バランスよく食事に取り入れることは必要です。特にシニアになるとたんぱく質の摂取は重要なので、控えすぎてはいけない。
ただし、過剰摂取や質の悪い油との組み合わせは腸内環境を悪化させ、寿命を縮めることにつながりかねません」(辨野さん・以下同)

腸内環境が悪化すると全身にあらゆる不調を招くことは前述の通り。そのもっともわかりやすい症状は「便秘」だ。
「女性の48%が便秘だといわれており、ひどければ5日に1回しか排便がない人もいます。“女性は便秘になりやすいものだから”と気にしない人もいますが、便秘は体質ではなく、れっきとした病気。
便が腸内にたまったままだと、有害物質が発生します。腸内環境を悪くするばかりか、腸壁から血液に溶け出した有害物質が体全体に広がるリスクが指摘されており、そうなると認知機能や免疫力にも影響を与えます。腸内環境がよければ、1日1回、ほぼ同じ時間に排便があるのが普通です」
便秘を治すのに手っ取り早いからといって、下剤を乱用するのは控えよう。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんが言う。
「刺激系の下剤は、乱用することで腸の炎症を引き起こし、善玉菌を減らします。また使い続けると次第に薬が効かなくなり、下剤をのまないと排便できない状態になってしまうケースもあるため、できるだけ薬には頼らず、生活習慣の改善で治してほしい」
便秘を解消し、腸内環境を整えるには、食物繊維の摂取が基本。ただし、やみくもに摂っても効果は期待できない。
「肉を断つ必要はなく、魚、大豆製品、野菜、海藻類も積極的に食べましょう。肉:野菜を1:3の割合で意識して食べることをおすすめします」(辨野さん)

腸内環境が注目されるに伴い、「腸活食材」を意識して食事に取り入れる人は増えたが、同じものを食べ続けるのは逆効果だ。
「同じものばかり食べていると、腸内細菌に偏りが出て、多様性が失われかねません。かといって、食べすぎもよくありません。
食事は毎食七〜八分目を意識し、必ず3食食べること。特に朝食は抜いてはいけません。朝食を摂ることで体内時計がリセットされて自律神経が整い、同時に腸の動きを促すからです」(小林さん・以下同)
腸を休ませて“リセット”するプチ断食やファスティングも一大ブームを過ぎて“健康法”の1つとして定着している。だがこれも、たまに腸を休めるために行うのはいいが、必要がないならやめた方がいい。
「食べすぎた翌日などに腸を休ませる意味で食事を控え目にするのはいいですが、腸は休む時間が長いほど、次に動くときにストレスを感じます。
断食は食物繊維や発酵食品を含めたすべての栄養を一時的に断つため、腸内細菌のえさが不足してしまうので注意が必要です」
下剤に頼らずとも、食事に気をつければ、乱れた腸内環境は1か月ほどでリセットできるという。“マイナス”の状態の腸が正常になったかどうかは、便を見ればわかる。
「黄土色で、バナナのような形のある便が理想的です。また、食後にお腹が張る感じや疲れやすさ、イライラ、肌荒れ、体臭などが軽減することでも、腸内環境が整ったことを実感できるでしょう」
腸内に棲む“生き物”にえさをあげ、共生する
健康長寿のためには、乱れた腸を元に戻すだけでは不充分。
腸内環境を底上げし「長寿菌」を増やしてこそ、死ぬまで元気でいられる「100年腸」を目指すことができる。慶應義塾大学医学部予防医療センター特任教授の伊藤裕さんは、100才を超えて元気な人には、「食」に対する共通点があると話す。
「腸が元気で長寿のかたは、いくつになっても食に対する興味を失わず“もっといろんなものが食べたい”と、肉も野菜もお米も、なんでもよく食べます。食欲が旺盛なだけでなく、誰かと一緒に楽しく食事をすることも好んでいる印象です。
腸内に1.5kgも存在している腸内細菌の主なえさは食物繊維。子猫や子犬くらいの重さの“生き物”がお腹の中にいて、毎日えさを欲しているわけです。幸福に長生きできている人は、自分の体に棲んでいる〝生き物〟に、毎日いろいろな種類のえさをあげて、仲よく共生できているということ。これこそが、健康長寿の秘訣だといえるでしょう」(伊藤さん)
「食物繊維」は便秘解消だけでなく、ビフィズス菌をはじめとする善玉菌のえさになり、長寿菌を育ててくれる。『新しい腸の教科書』の著者で江田クリニック院長・消化器専門医の江田証(あかし)さんが解説する。
「食物繊維は、大腸内で便のかさを増す不溶性食物繊維と、大腸内で水分を吸収して便を排出しやすくする水溶性食物繊維の2つに分けられます。
腸内環境を整えるためにはどちらも必要ですが、善玉菌のえさになるのは水溶性食物繊維。わかめ、もずく、ひじきなどの海藻類のほか、ごぼう、れんこん、納豆などに豊富です」

1つの食材だけで食物繊維を摂ろうとしてはいけない。多様な菌を育てるためには、食物繊維にも多様性が大切だと、岩崎さんは続ける。
「それぞれ性質の異なる食物繊維が含まれているので、ごぼうやれんこんなどの『根菜』、ほうれん草やケールなどの『葉物野菜』、トマトやなすなどの『果肉野菜』の3種類を複合的に、毎日食べるのが理想です。
併せて、玄米や雑穀などで、同じく善玉菌のえさになる難消化性でんぷんを摂るのもおすすめ。ポイントは1食でまとめて食べるのではなく、朝昼夜の3食に分けて、毎日食べ続けること」(岩崎さん)
もちろん、ヨーグルトなどで善玉菌をそのまま食べるのもいい。口から入った菌がそのまま腸で定着することはないが、すでに腸内にいる菌を活性化させる働きがある。
「ビフィズス菌は乳児のときがいちばん多く、年を重ねるほど減っていく傾向にあるので、ビフィズス菌入りのヨーグルトは有効です。
特に高齢者はビフィズス菌の中でも『ロンガム種(BB536)』が減少しやすいことがわかっているので、ロンガム種が含まれているヨーグルトがおすすめです」(辨野さん)
食物繊維や善玉菌はサプリメントで摂取するのも有効だが、長期間のみ続けたり、何種類ものむのは腸への負担になりかねない。
「のみ続けることでかえって腸内細菌の多様性が損なわれる可能性もある。また異なる複数のサプリを組み合わせてのんだ際の効果や安全性は検証されていないため、場合によっては腸内環境が悪化する可能性も考えられます」(岩崎さん・以下同)
食物繊維と善玉菌を理想的なバランスで摂取するには、漬けものやぬか漬けなどを取り入れた和食が最適だと、岩崎さんは推奨する。

「特にぬか漬けは、発酵食品であり、食物繊維も豊富です。現代人は食べる機会が減ってきているので、ぜひ積極的に食事に取り入れてほしい」
和食を食べ続けることは感染症予防にも効果的だということが、最新研究で明らかになっている。
「100才以上の長寿者の腸内を研究したところ『オドリバクター菌』という善玉菌の一種が多いこともわかりました。オドリバクター菌は『イソアロリトコール酸』という特殊な胆汁酸を分泌します。これは“天然の抗生物質”とも言うべきもので、悪玉菌の増殖を止め、腸のバリア機能を強化し、腸内環境を整えて全身の感染症を予防する働きがあるのです。
オドリバクター菌を増やすには、水溶性食物繊維を積極的に摂取すること。1日につき、ぬか漬けを大さじ2(30g)、具だくさんのみそ汁を2杯、そこにおくらを3本、アボカドを2分の1個が目安です。またブロッコリーや納豆、魚もおすすめです」(江田さん)
眠りの質が腸内環境を左右する
腸を整えるなら食事だけでなく、睡眠、運動にも気を使うことを忘れてはならない。
「激しい運動は逆効果。気づいたときに階段を使うなど、あくまでも適度に、毎日続けられる程度の運動が必要です。ウオーキングなら20分程度、スクワットも1日10回程度で充分です。
ウエストをひねるストレッチもおすすめです。あお向けに寝て片ひざを立て、立てているひざとは反対側に体をひねります。また、立ったままお腹の両わきを手でもむだけでも、大腸への刺激になります。いずれも腸が刺激されることでぜん動運動が促され、便秘の解消につながります」(小林さん・以下同)
睡眠は1日7時間前後を目指すこと。腸内環境が睡眠を左右している一方で、眠りの質も腸内環境を左右するからだ。
「良質な睡眠のためには、心身をリラックスさせることが重要です。脳を覚醒させないよう、寝る前にスマホやパソコンを見るのは避けて。夕食は寝る3時間前までに終わらせましょう。
入浴は腸を温めることで副交感神経を優位にし、リラックスに役立ちます。ただし、熱すぎるお湯や長時間肩までつかると水圧がストレスになるので“39〜41℃のぬるめのお湯に15分以内”がポイントです。“5分間肩までつかったら、残り10分は半身浴”などと調整するのもいいでしょう」

伊藤さんは「腸のいちばんの敵はストレス」と話す。
「睡眠不足や食生活の乱れだけでなく、人間関係などの精神的なストレスも、腸の炎症を引き起こし、さまざまな病気を招きます。健康で幸福に長生きするには、ストレスを減らす生活がいちばんの腸活です。
ある103才の女性は、毎日決まった時間に起きておしゃれをし、自分の足で歩いて雀荘に行き、自分でつくった弁当を食べながら仲間と趣味の麻雀を楽しむのが日課だと話していました。このかたの暮らしには、充分な睡眠、人目を気にする美意識、適度な運動、バランスがよくおいしい食事、趣味とそれを共有できる仲間、刺激のある趣味と、健康長寿を保つ要素がすべて揃っています。長寿を支える腸内細菌は、こうした暮らしを好むのではないでしょうか」(伊藤さん)
岩崎さんは「和食を中心とした食事を毎日3食、健康的な生活習慣を10日も続ければ、腸は確実によくなる」と強調する。たった10日で、100才までの元気が手に入るなら、いますぐ始めない手はない。人生100年時代、最期の瞬間まで元気に生き抜こう。


※女性セブン2025年6月26日号