健康・医療

《腸内環境を整えて長生きするための食生活》善玉菌のえさになる水溶性食物繊維が重要 漬ものやぬか漬けなどを取り入れた和食が最適、腸のバリア機能を強化する効果も

腸内に棲む“生き物”にえさをあげ、共生する

健康長寿のためには、乱れた腸を元に戻すだけでは不充分。

腸内環境を底上げし「長寿菌」を増やしてこそ、死ぬまで元気でいられる「100年腸」を目指すことができる。慶應義塾大学医学部予防医療センター特任教授の伊藤裕さんは、100才を超えて元気な人には、「食」に対する共通点があると話す。

「腸が元気で長寿のかたは、いくつになっても食に対する興味を失わず“もっといろんなものが食べたい”と、肉も野菜もお米も、なんでもよく食べます。食欲が旺盛なだけでなく、誰かと一緒に楽しく食事をすることも好んでいる印象です。

腸内に1.5kgも存在している腸内細菌の主なえさは食物繊維。子猫や子犬くらいの重さの“生き物”がお腹の中にいて、毎日えさを欲しているわけです。幸福に長生きできている人は、自分の体に棲んでいる〝生き物〟に、毎日いろいろな種類のえさをあげて、仲よく共生できているということ。これこそが、健康長寿の秘訣だといえるでしょう」(伊藤さん)

「食物繊維」は便秘解消だけでなく、ビフィズス菌をはじめとする善玉菌のえさになり、長寿菌を育ててくれる。『新しい腸の教科書』の著者で江田クリニック院長・消化器専門医の江田証(あかし)さんが解説する。

「食物繊維は、大腸内で便のかさを増す不溶性食物繊維と、大腸内で水分を吸収して便を排出しやすくする水溶性食物繊維の2つに分けられます。

腸内環境を整えるためにはどちらも必要ですが、善玉菌のえさになるのは水溶性食物繊維。わかめ、もずく、ひじきなどの海藻類のほか、ごぼう、れんこん、納豆などに豊富です」

納豆は水溶性食物繊維が豊富に含まれている(写真/PIXTA)
写真8枚

1つの食材だけで食物繊維を摂ろうとしてはいけない。多様な菌を育てるためには、食物繊維にも多様性が大切だと、岩崎さんは続ける。

「それぞれ性質の異なる食物繊維が含まれているので、ごぼうやれんこんなどの『根菜』、ほうれん草やケールなどの『葉物野菜』、トマトやなすなどの『果肉野菜』の3種類を複合的に、毎日食べるのが理想です。

併せて、玄米や雑穀などで、同じく善玉菌のえさになる難消化性でんぷんを摂るのもおすすめ。ポイントは1食でまとめて食べるのではなく、朝昼夜の3食に分けて、毎日食べ続けること」(岩崎さん)

もちろん、ヨーグルトなどで善玉菌をそのまま食べるのもいい。口から入った菌がそのまま腸で定着することはないが、すでに腸内にいる菌を活性化させる働きがある。

「ビフィズス菌は乳児のときがいちばん多く、年を重ねるほど減っていく傾向にあるので、ビフィズス菌入りのヨーグルトは有効です。

特に高齢者はビフィズス菌の中でも『ロンガム種(BB536)』が減少しやすいことがわかっているので、ロンガム種が含まれているヨーグルトがおすすめです」(辨野さん)

食物繊維や善玉菌はサプリメントで摂取するのも有効だが、長期間のみ続けたり、何種類ものむのは腸への負担になりかねない。

「のみ続けることでかえって腸内細菌の多様性が損なわれる可能性もある。また異なる複数のサプリを組み合わせてのんだ際の効果や安全性は検証されていないため、場合によっては腸内環境が悪化する可能性も考えられます」(岩崎さん・以下同)

食物繊維と善玉菌を理想的なバランスで摂取するには、漬けものやぬか漬けなどを取り入れた和食が最適だと、岩崎さんは推奨する。

ぬか漬けは食物繊維が豊富に含まれている(写真/PIXTA)
写真8枚

「特にぬか漬けは、発酵食品であり、食物繊維も豊富です。現代人は食べる機会が減ってきているので、ぜひ積極的に食事に取り入れてほしい」

和食を食べ続けることは感染症予防にも効果的だということが、最新研究で明らかになっている。

「100才以上の長寿者の腸内を研究したところ『オドリバクター菌』という善玉菌の一種が多いこともわかりました。オドリバクター菌は『イソアロリトコール酸』という特殊な胆汁酸を分泌します。これは“天然の抗生物質”とも言うべきもので、悪玉菌の増殖を止め、腸のバリア機能を強化し、腸内環境を整えて全身の感染症を予防する働きがあるのです。

オドリバクター菌を増やすには、水溶性食物繊維を積極的に摂取すること。1日につき、ぬか漬けを大さじ2(30g)、具だくさんのみそ汁を2杯、そこにおくらを3本、アボカドを2分の1個が目安です。またブロッコリーや納豆、魚もおすすめです」(江田さん)

眠りの質が腸内環境を左右する

腸を整えるなら食事だけでなく、睡眠、運動にも気を使うことを忘れてはならない。

「激しい運動は逆効果。気づいたときに階段を使うなど、あくまでも適度に、毎日続けられる程度の運動が必要です。ウオーキングなら20分程度、スクワットも1日10回程度で充分です。

ウエストをひねるストレッチもおすすめです。あお向けに寝て片ひざを立て、立てているひざとは反対側に体をひねります。また、立ったままお腹の両わきを手でもむだけでも、大腸への刺激になります。いずれも腸が刺激されることでぜん動運動が促され、便秘の解消につながります」(小林さん・以下同)

睡眠は1日7時間前後を目指すこと。腸内環境が睡眠を左右している一方で、眠りの質も腸内環境を左右するからだ。

「良質な睡眠のためには、心身をリラックスさせることが重要です。脳を覚醒させないよう、寝る前にスマホやパソコンを見るのは避けて。夕食は寝る3時間前までに終わらせましょう。

入浴は腸を温めることで副交感神経を優位にし、リラックスに役立ちます。ただし、熱すぎるお湯や長時間肩までつかると水圧がストレスになるので“39〜41℃のぬるめのお湯に15分以内”がポイントです。“5分間肩までつかったら、残り10分は半身浴”などと調整するのもいいでしょう」

「長生き腸活」10か条
写真8枚

伊藤さんは「腸のいちばんの敵はストレス」と話す。

「睡眠不足や食生活の乱れだけでなく、人間関係などの精神的なストレスも、腸の炎症を引き起こし、さまざまな病気を招きます。健康で幸福に長生きするには、ストレスを減らす生活がいちばんの腸活です。

ある103才の女性は、毎日決まった時間に起きておしゃれをし、自分の足で歩いて雀荘に行き、自分でつくった弁当を食べながら仲間と趣味の麻雀を楽しむのが日課だと話していました。このかたの暮らしには、充分な睡眠、人目を気にする美意識、適度な運動、バランスがよくおいしい食事、趣味とそれを共有できる仲間、刺激のある趣味と、健康長寿を保つ要素がすべて揃っています。長寿を支える腸内細菌は、こうした暮らしを好むのではないでしょうか」(伊藤さん)

岩崎さんは「和食を中心とした食事を毎日3食、健康的な生活習慣を10日も続ければ、腸は確実によくなる」と強調する。たった10日で、100才までの元気が手に入るなら、いますぐ始めない手はない。人生100年時代、最期の瞬間まで元気に生き抜こう。

腸はすべての臓器と密接な相関関係にある
写真8枚
“長寿の島”の人には「ビフィズス菌」が多い
写真8枚

(前編から読む)

※女性セブン2025年6月26日号

関連キーワード