健康・医療

不適切に使われる”ダイエット薬”の危険性 吐き気、下痢、栄養失調、倦怠感、依存性…手軽さの裏にある重大な健康リスク

若い女性に人気のダイエット薬には危険が潜んでいる(写真/PIXTA)
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その薬さえあれば何もしないでも驚くほどやせていく──そんな声とともに若い女性を中心にブームが続く“ダイエット薬”。しかし、そんな夢のような魔法の薬には、もちろん危険が潜む。手軽さの裏にある“健康被害”を徹底取材。

「週1回の注射で簡単にやせる」「3日で4kgも減った」──SNSを中心に話題の“ダイエット薬”がある。大阪府在住のKさん(21才/女性)も昨年秋にSNSで薬の存在を知り、現在も使っている。

「『マンジャロ』という薬を自由診療で処方してもらいました。1か月間、週1回の注射を続けただけで、159cmで56kgだった体重が50kgまでスルスルと減った。うれしかったですね。きっかけは、細くてきれいになりたかったから。いまは46kgまで落ちていて、目標は40kg。友人も4人使っていますよ」

女性たちを夢中にさせているのはどのような薬なのか。糖尿病専門医でたいや内科クリニック院長の加藤大也さんが解説する。

「2型糖尿病の治療薬である『GLP-1受容体作動薬』『GIP/GLP-1受容体作動薬』の2種類が“ダイエット薬”として多くの人に使用されています。前者は体内のGLP-1受容体に作用し、消化管ホルモンの働きを強めて食欲や血糖を調整する作用を持っている。少ない量の食事でも満腹感が続き、食べすぎを防いで摂取カロリーを減らします。注射薬の『オゼンピック』やのみ薬の『リベルサス』が有名です」

一方、Kさんが使用している「マンジャロ」は、後者の「GIP/GLP-1受容体作動薬」に属する。

ダイエットに使われている「マンジャロ」(写真/アフロ)
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「GLP-1だけでなくGIP受容体にも作用して、インスリンの分泌を助けて脂肪の代謝を促進するので、より体重減少効果が大きい薬です。また、オゼンピックやマンジャロは週1回の注射なので、毎日空腹時に服用するリベルサスと比べると、のみ忘れがなく効果が得られやすい印象です」(加藤さん・以下同)

こうした薬の作用により、食事制限も運動も行うことなく単なる“ダイエット薬”として需要が高まっているのだ。しかしこれは本来の正しい使用法ではない。

「どれも糖尿病治療薬として、有効性と安全性の両面で充分に検証されており、医師の管理のもと適切に使用すれば、有効な薬です。しかし、最近はインフルエンサーなどがダイエット目的の使用を公言し、美容クリニックなどで簡単に処方される傾向にあります。そのため、自己判断での使用による健康被害が懸念されます」

過剰なダイエットは見た目にも影響を及ぼすと指摘するのは、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。

「健康な人が急激にやせると、肌がたるんで顔がげっそりするなど不自然になります。海外でも話題で、SNSではこうしたやせ方をした著名人の顔は薬の名前から “オゼンピック・フェイス”と呼ばれています」

「体重が戻るのが怖い」と依存する

何より怖いのは、医師の指導を受けずに使用した場合の副作用だ。

「吐き気や下痢など消化器症状が多く、放置すれば脱水や栄養失調につながる危険性があります。まれに急性膵炎や胆管炎といった重篤な病気が起こることもあり、定期的な診察がなければ見逃されるリスクがあります」(加藤さん)

室井さんは、副作用で筋肉が失われると指摘する。

「血糖値が低下して倦怠感が続き、体重が減るだけではなく筋肉が減ることがわかっています。結果として足腰が弱くなると身体機能が低下して、将来的な認知症リスクも生じます」

メンタルにも影響を及ぼす。加藤さんは「やめるとリバウンドする」という不安から依存しやすいと言う。

「糖尿病、肥満治療薬として使用する場合は、医師の管理のもとで栄養・運動指導を行い、定期的に筋肉量のチェックを行っていますが、それでもやめどきが難しい薬です。自己管理で使うと、筋肉が落ちてやめたときにリバウンドする可能性が高く、再び薬に頼るという悪循環に陥りやすい」

加藤さん自身も臨床現場で「やめどき」の難しさに直面したことがある。糖尿病に加えてBMI35以上の高度肥満症だった42才の女性に、保険適用でマンジャロを使用したところ、体重は20kg減少したものの問題が発生したのだ。

「診察時は調子がよさそうで、体重も無事に減ってきたので薬の減量を提案したところ“体重が戻るのが怖い”と嫌がり、しばらく減薬せずに続けることになりました。しかし別のクリニックから連絡があり、実際はひどい吐き気で、そのクリニックで毎週点滴を受けていたことが判明したのです。リバウンドの恐怖があったのだと思います」(加藤さん)

外見を気にしすぎて、思いつめてしまう可能性も(写真/PIXTA)
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加藤さんはそこから女性患者とじっくり話し合い、薬を減らすことができた。医療機関同士の連携で異常に気づくことができたが、美容目的で医師の対面での診断もなく処方される場合は医師の目が届きにくい。室井さんは、強迫観念から精神的に追いつめられることもあると話す。

「ささいな外見の欠点を気にしすぎて心が病んでしまうケースもあります。摂食障害などを招けば命の危険すらある。まだ新しい薬なので、10年、20年と使い続けた際に、どんな副作用があるのかわからないのも問題です。もちろん糖尿病患者にとっては必要ですが、健康な人がのむべきではありません」

副作用による健康被害があったとしても、国内で承認されている医薬品であれば医療費や年金など救済給付を受けられる公的な救済制度(医薬品副作用被害救済制度)がある。しかし、それさえも受けられない恐れがあると加藤さんは言う。

「適正に使った医薬品によって健康被害が生じた場合に救済する制度です。適応外・不適正使用の場合は、対象外となることがあります」

冒頭のKさんは、チアノーゼで皮膚や粘膜が暗紫色になり病院で点滴を受けたことがあるが、いまは副作用がなく数か月に1本のマンジャロを使い続けているという。

「薬をやめたら太ることはわかっていたし、やめても体重をキープすることはできます。ただ、生理前や外出続きのときは食欲のコントロールが難しいので、体重が増えたときに使っています。常に家に2本はストックがあって、ないと少し不安ですね。1本の値段は5000円くらいで安くはないですが、アルバイト代で払っています。きれいになるために、まだ続けるつもりです」(Kさん)

“不適切な使用”をすべきでないのはもちろん、使ってしまった場合、体や心が蝕まれる前にやめるにはどうすればいいのか。加藤さんは薬のリスクを認識することが大事だと強調する。

「まずは処方する医療機関側と処方される患者側の双方が、薬物の使用期間や使用目的をしっかり考えるべき。リバウンドの不安や副作用の悩みがあれば、ひとりで抱え込まずに必ず医療機関を受診してください」

体と心を守るためには、薬を適正に使うことにほかならない。手軽にやせることの代償は小さくない。

※女性セブン2025年9月11日号

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