健康・医療

《薬の上手な「やめ方」「減らし方」》“できるだけ短期の使用”が基本、“リバウンドがある薬”の減薬は慎重に 主治医やかかりつけ薬剤師の存在も重要 

無駄な薬の服用は健康を害することがある(写真/PIXTA)
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どんな薬にも副作用はある。命や健康を守る薬が、知らないうちにあなたの命を蝕んでいる可能性もあるのだ。また、複数の薬を同時に服用する多剤併用によって、健康が害することもある。だからこそ、無駄な薬の服用は控えた方が良いが、それまでのんでいた薬をやめたり減らすのは不安で、勇気が出ない人も多いだろう。しかし、これさえ読めば大丈夫。薬の専門家たちが語る「断薬」「減薬」の“処方箋”を一読してほしい。第3回は、薬の「やめ方」「減らし方」のコツを紹介する。【全3回の第3回。第1回から読む

薬はできるだけ短期間の使用にとどめる

症状がなくても薬をのみ続ける人がいるが、もってのほかだ。函館稜北病院総合診療科の舛森悠さんが言う。

「胃腸薬や咳止め薬、便秘薬のように、つらい症状の際に対症療法としてのむ薬は症状が治まれば中止すべきです。患者さんに聞くともう症状が治まっているのに、漫然と処方されていることが多い」

日本初の「薬やめる科」を設けた松田医院和漢堂院長の松田史彦さんが続ける。

「胃薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)は強力に胃酸を止めます。短期的にのむならいいですが、長期に服用すると認知症のリスクが高まるので危険。PPIは骨折リスクも増えることが複数の研究で報告されていますが、この危険な胃薬が最近、薬局でも購入可能となってしまい大変危惧しています」

薬を減らすべきとはいえ、健康のために欠かせないものもある。ただし、薬は本来不要なものだと知ってほしいと話すのは松田さんだ。

「薬はできるだけ短期に使用して、いずれはやめるべきです。たとえ漢方薬でも何年、何十年とだらだらのむのはよくない。医師に把握できない副作用や見落としはあるので、何も考えずにのむのは危険です」

松田さんは、減薬する際はリバウンドが少ない薬から始めるのが基本だと話す。

「骨粗しょう症治療薬や抗コレステロール薬は患者さんに自覚症状がないので、中止してもリバウンドを感じないので減らしやすい。複数の薬をのんでいる人は、少し減らすだけで体調がよくなることが多いです」

松田さんのもとに訪れた50代の女性患者は、「スタチン系をのみ始めてから異常に疲れる」と訴えていたが、やめたとたんに元気になったという。

特に注意したい主な薬
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一方、胃薬や降圧剤などリバウンドがある薬は慎重に減薬すべきだという。

「PPIは急にやめると胃酸の逆流がひどくなることがあるので、炭酸水素ナトリウム(重曹)を主成分とする薬と漢方薬に変えて、様子を見ながら減らします。降圧剤は急にやめると血圧が一時的に上昇するリスクがあるため、2種類を1種類にするなど少しずつ減薬する。長年のんできた薬に依存していて、のまないと不安だという人もいますが、高齢者では血圧が過剰に低くコントロールされていて、減らしても問題ない人が多いです」(松田さん)

不調をできるだけ自分の力で治そうとする努力も、忘れてはいけない。

「不眠や便秘は薬に頼るのではなく、食生活や生活スタイルを見直して根本的に解消すべきです。睡眠薬や便秘薬は、できればのまない方がいいし、のんでも一時的にとどめるのが理想です」(舛森さん)

民間療法を上手に利用するのもいい。

「睡眠薬を使うよりも、アロマセラピストに相談してラベンダーの香りで眠れた方がいいし、食生活の改善やマッサージでお通じがよくなる方がいい。昔からの伝統ある療法を探して、取り入れてみることをおすすめします」(松田さん)

医師や薬剤師に相談することも重要

銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんは、胃の不調には腸活がいいと助言する。

「善玉菌を増やすヨーグルトやみそ、納豆などの発酵食品や食物繊維が豊富な野菜などを積極的に摂ることで腸内環境が整い、胃の不快感が改善されることがあります」

実際に薬を上手に減らすことで、健康を取り戻した人は少なくない。埼玉県在住のDさん(51才)は、「1年前の義母(80才)は、認知症かと思うようなひどい状態だった」と振り返る。

「活動的な人でしたが、急に元気がなくなって、日中は常にぼーっとして記憶力も低下しました。足元もおぼつかず、かかりつけ医に相談したところ、不眠でベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用していたのがいけないことがわかりました。医師が数か月かけて丁寧な減薬プランを作ってくれたおかげで、症状は改善。薬に頼らず、就寝前のストレッチと読書で自然な眠りにつけるようになり、中断していたパッチワークの教室に楽しそうに通っています」

国際医療福祉大学病院内科学教授の一石英一郎さんの患者で、降圧剤2種類と睡眠薬を長年服用していた80代女性も薬をやめて元気になったという。

薬を減らしたいときは薬剤師に相談する(写真/PIXTA)
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「朝のふらつきや転倒を訴えていましたが睡眠薬を中止し、降圧剤を1種類に減らしたところ不調は改善して活動量が増加しました」(一石さん)

村岡さんのように主治医と相談して薬を調整できることもあるが、医師に訴えても快く応じてもらえるとは限らない。松田さんは患者側が薬の副作用をしっかり調べてから伝えると、医師に理解してもらいやすいとアドバイスする。

「インターネットで調べれば、簡単に薬の副作用はわかります。おすすめは『日経メディカル』の『処方薬事典』。薬の名前を入力すれば効果や副作用がわかるので、自分でしっかり調べてください。副作用の欄に該当する不調があれば印刷して、“この薬をのみ出してからこういう症状が出る”などと具体的に伝えるのがいいでしょう」

医師に話す前に、薬剤師に相談するのも手だ。

「薬名が違っても、降圧剤と利尿剤など作用効果が似た薬が複数処方されていることがある。服用中の薬はお薬手帳で管理するとともに、重複した薬が処方されていないかを薬剤師にチェックしてもらい、相談するといいでしょう。ただし、医師の指示なく勝手に薬をやめてはいけません。主治医に相談しても相手にしてくれないようなら、セカンドオピニオンを受けるのも手です」(一石さん)

高齢者の場合は、家族の協力も欠かせない。

家族も真剣に考えることが重要になる(写真/PIXTA)
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「減薬を行うときは、患者さん自身が納得していなければ意味がありません。医師が一方的に薬を減らすと、“あの病院では薬も出してくれない”と信頼関係が崩れてしまう。家族は本人がどんな薬をのんでいて、どんな副作用があるのかを調べて、減薬の大切さを伝えてほしい」(舛森さん)

薬をやめるとちょっとした体調の変化で不安になることがある。血圧や血糖値は毎日自宅で測定して、メモしておく。異変があればすぐに主治医に相談しよう。

かかりつけ薬剤師を持つことも重要だ。

「新しい病院を受診したり、市販薬やサプリメントをのむときは、かかりつけ薬剤師に相談する習慣をつけるといい。服薬を一元的に管理し、新たな薬の必要性やのみ合わせに問題はないかをチェックしてくれます。医療に関して心配なことがあれば、全国の都道府県や保健所設置市に設置されている『医療安全支援センター』に相談するのもひとつの方法です」(長澤さん)

不要な薬をやめて薬と上手につきあうことが、健康寿命を延ばす一歩となる。

薬ののみすぎは、さまざまな弊害を起こす
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(第1回から読む)

※女性セブン2025年9月4日号

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