健康・医療

複数の薬を同時に服用する「多剤併用」のリスク 副作用を抑えるために新たな薬が増える「処方の連鎖」の悪循環、食事量が減り栄養状態が悪化するケースも 

複数の薬を服用するのは大きなリスクがある(写真/PIXTA)
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命や健康を守る薬が、知らないうちにあなたの命を蝕んでいることがある──いくらそう言われても、薬をやめたり減らすのは不安で、勇気が出ない人が多いだろう。しかし、これさえ読めば大丈夫。薬の専門家たちが語る「断薬」「減薬」の“処方箋”を一読してほしい。【全3回の第1回】

「不調の原因が、長年のみ続けている薬のせいだとは夢にも思わなかったです」

そう話すのは、都内在住のAさん(54才・女性)だ。会社の健康診断でコレステロール値が高いと診断され、6年前からスタチン系の抗コレステロール薬を服用していた。薬のおかげか数値は下がったのでのみ続けていた。しかし、半年ほど前から体に異変を感じるようになったという。

「手がこわばったり、こむら返りが起こるようになったんです。加齢による筋力の衰えかと思いましたが、薬剤師の義娘に相談したら薬の副作用かもしれないと言われてびっくり。主治医に症状を話したら薬を一度中断しようということになり、やめたらすっかり症状は改善されました。コレステロールも正常値を維持しています」(Aさん)

銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが言う。

「“もう年だから体調が悪くても仕方がない”と諦めている人もいるでしょうが、不調の本当の原因は薬にあるかもしれません」

副作用を抑えるために新たな薬が増える「処方の連鎖」

年齢を重ねると高血圧や糖尿病、脂質異常症、骨粗しょう症など複数の慢性疾患を抱えるようになり、自然と薬の種類も増えていく。何より怖いのは、複数の薬を同時に服用するポリファーマシー(多剤併用)だ。

「内科や整形外科など複数の専門医にかかれば、医師がすべての薬を把握できないため同じ効能の薬が重複したり、のみ合わせの悪い薬が処方されるリスクが高くなる。多剤併用は、のみ忘れやのみ間違いも起きやすい。服用する薬が5〜6種類を超えると、ふらつきや転倒、物忘れといった有害事象のリスクが格段に高まることがわかっています」(長澤さん)

国際医療福祉大学病院内科学教授の一石英一郎さんは、副作用を抑えるために新たな薬が増える「処方の連鎖」が起きると指摘する。

「薬の副作用で起きている不調なのに、新たな症状だと認識されて別の薬が追加され、どんどん薬が増えることは珍しくありません」

函館稜北病院総合診療科の舛森悠さんの外来には、体に力が入らず、こむら返りで夜中に目覚めると訴える患者が訪れたことがある。

「80代の女性でしたが、不調は複数の薬の処方が原因でした。もともと降圧剤をのんでいたので、副作用で足のむくみがひどかった。そこでむくみ防止のために利尿剤が処方されましたが、副作用でミネラルバランスが崩れた結果、体の力が抜けて足がつるようになったと考えられます」

一度すべての薬を中止して様子を見ることにしたところ、症状は改善。むくみが出ない降圧剤に変えたことで薬の数も減ったという。

薬ののみすぎは、さまざまな弊害を起こす
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長澤さんは、高齢者は薬が効きやすいので多剤併用に気をつけるべきと訴える。

「肝臓や腎臓の機能が衰えるので、体に取り込まれた薬を分解し、尿として体外に排出する機能が低下する。若い頃と同じ量をのんでいても、副作用が現れやすくなります」

舛森さんは副作用以外の害もあると指摘する。

「高齢者では10種類以上の薬をのんでいる人も珍しくないが、それだけのむと、薬でお腹がいっぱいになって食事量が減ってしまう。薬で健康になるどころか、むしろ栄養状態が悪くなって悪影響を及ぼします」

日本では制度上、多剤併用が起きやすいと話すのは、大手製薬会社の社員だ。匿名を条件にこう話す。

「正直言って、高血圧や糖尿病など生活習慣病の患者は医療機関や薬局にとって経営の頼みの綱です。症状が安定しているので診察や処方が決まっていて楽だし、同じ薬を定期的にもらいにきてくれるので、安定して稼げる。薬局にとって、在庫を抱えるリスクが低いというメリットもあります。

これだけ薬の害が明らかになっている以上、私たちを含めた薬の専門家が漫然とのみ続けている薬がないか精査することを進めるべきなのに、積極的に行っていないのが実情です」

(第2回に続く)

※女性セブン2025年9月4日号

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