
長引く残暑も少しだけ和らいだかに思える秋の夜長。快適な睡眠で夏の疲れを癒したいものだ。質の高い睡眠のためには運動や食事が大事なのはいうまでもないが、「寝る向き」も重要だという。これまで意識したことがない人はさっそく試してみては?
睡眠における悩みの原因に「寝ている間の姿勢」が関係している
人間の睡眠時間は、生涯の3分の1ともいわれ、その時間をいいものにするか、台無しにするかで健康状態は大きく変わる。睡眠の質を高めることは、さまざまな病気予防にもつながるため、寝ている時間こそ“有意義”にすべきだ。一方で年を重ねるごとに睡眠の悩みを抱える人は増えていく。石川県在住のAさん(56才)が話す。
「質のいい睡眠のため、枕などの寝具も健康効果が期待されるものを揃え、睡眠前にスマホを触らない、日中は運動、早寝早起きを心がけるなどあらゆる手を尽くしたのに、疲れがとれないばかりか、最近いびきもかくようになってしまって…。これ以上、何をすればいいんでしょうか」
睡眠における悩みの原因に「寝ている間の姿勢」が関係していると話すのは、国際ハートスリープクリニック―つくば院長の末松義弘さんだ。
「私のクリニックにも、眠りが浅い、夜中に目が覚めてしまうなどといった睡眠の悩みを抱えて受診する患者さんが増えています。なかには深刻ないびきに悩まされていたり、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群を発症しているかたもいます。そこで私がするアドバイスは『横向きで寝る習慣をつけてみては』というものです。
仰向けの場合、寝ている間に舌根(舌の付け根)が落ち込んで気道がふさがれてしまう。これがいびきの原因になるのです。横向きで寝ると気道が確保されやすくなるため、体勢を変えただけでいびきの悩みが解消される患者さんは少なくありません」
末松さんは、せっかく横向きで寝るのであれば、「方向」を意識するのがおすすめだと話す。
「個人の好みで方向を決めても基本的には問題ありませんが、寝る方向によって特定の病気の発症を予防したり、症状の改善につながるという研究もあります」
左を下にすれば驚きの効果が
近年、注目されているのは“左半身を下にして寝る”ことの驚くべき効果だ。胃酸が食道に逆流し、炎症が起こる逆流性食道炎の軽減につながると話すのは、東長崎駅前内科クリニック院長の吉良文孝さんだ。
「女性の患者さんに多くみられるのが、内視鏡で炎症の発見が難しい非びらん性胃食道逆流症や、食道の知覚過敏の症状です。これらを発症すると食後の胸やけや夜間の咳、のどに酸っぱいものがこみあげてくるなどの違和感がみられ、生活に支障をきたします。
人体の構造上、左半身を下にして寝ると、胃と食道の境目が相対的に高い位置にくるため、胃の内容物が食道に逆流しにくくなります。寝具を使って上半身を15〜25cm程度高くすれば、より効果的です」
特に妊娠後期の女性にはおすすめだと吉良さんは続ける。
「妊娠後期になると子宮が広がるため、腹部が張るようになります。腹圧が上がって胃酸が逆流しやすくなり、いままで以上に胸やけを感じることがあるため、左半身を下にして寝ると症状の緩和が期待できます。そもそも、仰向けで寝ると膨らんだ子宮が大静脈を圧迫してしまうので、横向きの睡眠がおすすめです」
左半身を下にして寝ることで血流が改善されると指摘するのは、末松さんだ。
「体の右側にある大静脈は、全身から集まってくる血液を心臓に送る重要な役割を担っています。左半身を下にして寝ると大静脈が心臓より上にある状態になるため、血液を効率的に心臓まで送り届けられるようになる。これは心臓に負荷をかけにくい体勢なので、睡眠中の呼吸が楽になります。
また、体内の免疫機能の維持や、老廃物の排出に欠かせないリンパ液の分泌を促進されると考えられています」
リンパ液の流れがよくなることで脳内にたまる老廃物も排出されやすくなり、アルツハイマー型認知症の予防に効果があるとする研究も発表されている。

左半身を下にして寝ることはいいことずくめだが、右半身を下にして寝るメリットもあるのだという。
「右を下にすると胃の出口が下側にくるため、胃の内容物が腸にスムーズに流れるようになります。まさに、効率的な消化が行える体勢といえるでしょう。消化が促進されると、便秘の改善効果が期待できます」(末松さん・以下同)
左と右、それぞれにメリットがあるため、ここに挙げた症状に悩んでいる場合は、寝る方向を意識して布団に入るのもいいだろう。
横向き寝には高さがある枕を
横向きで寝るうえで、注意点はあるのだろうか。
「背骨をまっすぐにして、体への負荷が少ない姿勢で寝ることが大事です。ポイントは枕の高さ。一般的な枕は、横になると肩が頭より下の位置にきてしまうため、どうしても背骨が曲がりやすい。私は患者さんに、横向きで寝るために作られた、高さがある枕をおすすめしています。
また、横向きで寝る場合はどうしても片方の腕に負荷がかかります。特に硬めの布団で寝ると朝に腕のしびれや、全身の痛みが出ることも。体がほどよく沈む低反発にするなど、マットレスや布団を買い替えてみてはいかがでしょうか」
右向き、左向き、どちらにしても横向きで寝ることが睡眠の質を高め、健康効果を高めるとしても、注意点はある。どちらかだけの姿勢にかたよると、特定の部位に負荷がかかって痛みが出たり、血液循環が悪くなることがある。
寝ている間に寝返りをうつことは、横向きで寝ることと同じくらい大切だ。マットレスや枕を選ぶ際は、寝返りのうちやすさも重視したい。
「いままで仰向けで寝ていた人は急に横向きで寝るのは難しいかもしれません。横向きになった状態で背中にタオルを重ねたり、タオルを詰め込んだ大きめのリュックを背負って眠るなど、横向きの姿勢を癖にすることを1か月くらい継続すると、自然と横向きで寝られるようになります。
うつ伏せを好むかたもいますが、寝ているときに頸椎に過度な負担がかかったり、胸が圧迫されて呼吸がしづらくなるので、睡眠の質は下がってしまいます」
ぐっすり眠って健康になるために、今日から横向きで布団に入ってみよう。
※女性セブン2025年9月25日・10月2日号