
1日平均何時間スマホを使っているだろうか。脳神経外科医の奥村歩さんは「2時間を超えていると脳が過労状態になっていて眠りづらくなる」と話す。これがいわゆる“スマホ不眠”。放っておくと、認知症やうつ病を招くかもしれないスマホ不眠を解消すべく、奥村さんと睡眠専門医の梶本修身さんにスマホ不眠解消法として質のいい睡眠をとるための対策を教えてもらった。
スマホを1日平均2時間以上使用すると、脳が過労状態に
不眠を防ぐには、就寝前にスマホを見なければいい、と思うかもしれないが、ことはそう単純ではないようだ。日中にスマホを使いすぎることこそ、不眠を招く原因となるからだ。
「スマホからは情報を詰め込んだ動画がひっきりなしに流れてきます。日中にこれらを長時間見ていると、覚醒物質のオレキシンや快楽物質のドーパミンが脳から分泌され、睡眠を促す脳内物質のメラトニンの働きを阻害。そのため、就寝時間になっても脳の興奮が収まらず、眠れなくなるのです」(奥村さん)
スマホを1日平均2時間以上使用すると、脳が過労状態となる。その疲労を取るために睡眠が必要になるが、興奮状態のせいで眠れない。眠れないから脳の疲れがとれない。こうした悪循環に陥ってしまうのがスマホ不眠の怖いところだ。
スマホ不眠は、認知症の一因になるとされている。認知症の発症リスクを下げるためにも、スマホとの新しいつきあい方を習慣化することが大切。できることから始めよう!
「リズム運動」を取り入れる
眠りを促す脳内物質メラトニンの分泌には、幸せホルモン・セロトニンが必要。
「セロトニンは一定のリズムを刻む作業や運動を行うと分泌されるので意識して行って」(奥村さん)
マルチタスクを行うときは紙に書く
複数の作業を同時に進めるマルチタスクで仕事や家事を片づけると、脳を過度に疲労させ、睡眠にも悪影響を及ぼすという。

「やるべきタスクはスマホにメモするのではなく紙に手書きし、優先順位を決めて取りかかりましょう。頭の中が整理され、脳疲労も軽減されます」(奥村さん)
寝る前にリラックスタイムを設ける

「副交感神経が優位になると体が眠る準備を始めます。そうなるためには夜、リラックスできる環境を作ることが大切。読書や音楽鑑賞など、スマホ以外の楽しみ方を見つけ、アロマをたく、パジャマに着替えるなど入眠儀式を設けるのがおすすめ」(梶本さん)
40℃以下の湯船につかる
寒い季節は熱い湯船に肩までしっかりつかり、たっぷり汗をかきたいという人もいるだろうが、これは体にとって大きな刺激になり、自律神経に負荷をかけるという。
「いい睡眠のためには、体温よりやや高めの38~40℃の湯船につかるのがおすすめ。15分ほど半身浴をして、体の深部までゆっくりと温めると、副交感神経が優位となってリラックスできます。就寝の1~2時間前に入浴するとスムーズに入眠でき、熟睡しやすくなります」(梶本さん)
就寝前の酒、コーヒー、たばこはNG
「カフェインを含むコーヒーやエナジードリンクなどは摂取後約4~5時間、ニコチンを含むたばこは摂取後約2時間、覚醒作用が持続します。寝つきが悪くなるため、夜はなるべく摂取しないこと」(梶本さん)
アルコールも睡眠の質を下げる可能性が高いとされている。ストレス解消のための嗜好品ではあるが、ぐっすり眠りたい場合は、控えた方がよさそうだ。夜の水分補給には、自律神経を整えるホットミルク、リラックス効果があるハーブティー、血行をよくするしょうが湯などがおすすめ。
温度・湿度に注意する
「暑さ、寒さは自律神経を乱し、眠りを妨げるのでエアコンや加湿器の活用を」(梶本さん)

夏は約25℃、冬は約21℃に(設定温度ではなく室温)。タイマーでエアコンを切る人もいるが、途中で目覚める原因になるので、つけっぱなしがおすすめ。湿度は年間を通して55%前後が理想的。
“夫婦別床”にする

「女性と男性では体感温度が違うため、両者が快適と感じる室温が違う。いびきで眠れないケースもあるので、快眠のためには別々の部屋にした方がいい場合もあります」(梶本さん)
別室が難しければ、パーテーションで区切るだけでも、温度や音の不快感を軽減できる。
オレンジ色の照明を取り入れる
「照明を使った比較実験によると、蛍光灯のような白い光よりもオレンジ色に近い光の方が、副交感神経が優位になりやすく、入眠がスムーズになることが確認されています」(梶本さん)
自然な眠りを誘う脳内物質メラトニンは、起床後15時間前後で分泌され始める。照明機器の調光機能を活用し、起床後15時間を目安に部屋の照明を暖色系に変化させるのがおすすめ。照明の調節が難しい場合は、就寝の2~3時間前にメインの照明を落とし、間接照明を利用するのも手。
なるべく決まった時間に起きる
睡眠や覚醒、自律神経の調整などを行うのが体内時計だ。
「これまでは脳の視交叉上核に体内時計を司る“時計遺伝子”があり、朝に太陽の光を受けることで、遺伝子のリズムが調整されると考えられてきました。しかし近年の研究で、臓器などにも時計遺伝子の存在が判明。無理に早起きをして朝の太陽を浴びなくても、毎日決まった時間に起きることで、睡眠リズムが整えられることがわかってきました」(梶本さん)
朝、早起きが苦手な人は、同じ時間に起きる習慣をつけよう。
鶏胸肉や柑橘類を積極的に摂る

「鶏胸肉に含まれるイミダペプチド、柑橘類に豊富なクエン酸などには疲労回復効果があります。睡眠の妨げとなる過度な疲労を軽減できるので、意識して摂取しましょう」(梶本さん)
バランスのいい食事を基本としつつ、これらの食材は、1日1食を目安に取り入れよう。
◆教えてくれたのは:脳神経外科医・奥村歩さん
おくむらメモリークリニック理事長。認知症やうつ病に関する診察を専門とし、スマホが脳に与える影響にも詳しい。新著『脳内物質を整える仕事術』(三笠書房)が今夏発売予定。
◆教えてくれたのは:医学博士・梶本修身さん
東京疲労・睡眠クリニック院長。睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな睡眠のトラブルにまつわる臨床を行う。新著に『眠れなくなるほど面白い 図解 疲労回復の話』(日本文芸社)。
取材・文/植木淳子
※女性セブン2025年4月10日号