健康・医療

《疲労が抜けないのは休み方が間違っているから?》医師らが解説する【上手な休養の方法】睡眠がとれる7つの休養モデル、睡眠、疲れない体づくりを紹介

休養する女性
疲れが抜けないのは休息や睡眠時間が足りないからではなく、休み方が間違っているから!(写真/Getty Images)
写真21枚

寝ても疲れがとれない、病気ではないのにいつも体が重い…そんな“常時お疲れモード”の人が増えている。疲れが抜けないのは休息や睡眠時間が足りないからではなく、休み方が間違っているから! 正しい方法を伝授する。

日本人の約8割はお疲れモード

そもそも疲労とは何か?

「日本疲労学会では、『過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた、独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態』と定義しています」と話すのは、日本リカバリー協会代表理事で休養学者の片野秀樹さんだ。

「2023年に日本リカバリー協会が日本人就労者約10万人を対象に行った調査によると、約8割が疲労を抱えていることがわかっています。しかも、『疲れている』『慢性的に疲れている』という回答数は、年々増加傾向にあります」(片野さん・以下同)

「休まないのが美徳」はもはや時代遅れ!

疲労による経済損失は約1.2兆円にのぼるという試算もある(1999年当時の厚生省の調査を基に試算)。

「厚生省の調査から26年も経っていますから、現在はそれ以上の損失が出ている可能性が高いと考えられます。疲れているのに無理して働き続けると、生産性が下がることは想像に難くない。ところが日本では、『休まないのが美徳』という風潮が根強いうえに、休むことに罪悪感を抱く人も多く、疲労は長年軽視されてきました。疲労は体の異常を知らせるSOSです。放置すると病気を招く恐れがあると心得ましょう」

休むことは決して怠けることではない。むしろ仕事や生活の効率をあげるために必要なことなのだ。

「疲労を軽視してきた日本人の多くは、正しい休み方を知らず、『寝れば疲れがとれる』と考えがち。睡眠は大切ですが、寝るだけでは疲れはとれません。不必要に長い睡眠や一日中ゴロゴロして過ごすのは、体に悪影響を与えます」

いまからでも遅くない。正しい休養の知識を知り、疲れ知らずの体をつくろう。

いくつ当てはまる? 疲労チェックリスト
いくつ当てはまる? 疲労チェックリスト
写真21枚
いくつ当てはまる? 疲労チェックリスト
いくつ当てはまる? 疲労チェックリスト
写真21枚

《疲労の本質を知る》これからは「積極的」「主体的」に休もう!

寝る&何もせずにダラダラと過ごすだけの休養は卒業!これからは「積極的」「主体的」に休むべきだという。

「休養というと寝たり安静にしたりするのをイメージしがちだが、それだけではない」と前出の片野さん。本当に疲れがとれる休み方を解説する。

人やペットとの交流、推し活も休養に!

「正しく休むためには、『オフファースト』に考えを切り替えることが大切です」(片野さん・以下同)

オフとは、終業から始業時間までや、活力を高めるための“自分だけの時間”を指す。その時間を最優先させるよう意識改革し、家事や仕事の空き時間に休むのではなく、積極的に休むための時間をつくらなければならない。

「休養は寝る・安静にするだけでなく3つのモデルがあります。1つは、休息する・運動する・栄養を摂ることで得られる『生理的休養』、2つ目は人や動物と親交を深める・推し活などの娯楽を楽しむ・ものづくりや想像することで得られる『心理的休養』、そして、環境を転換することで得られる『社会的休養』です」

各休養モデルを組み合わせることで、疲労回復効果はより高まる。始めやすい方法から試してみよう。

疲れがとれる7つの休養モデル

《生理的休養》休息タイプ→活動を止めてエネルギーを回復

活動を止めてエネルギーを回復
活動を止めてエネルギーを回復(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「休憩や睡眠など、エネルギー消費を控えて、回復を待つのは休養の基本。ただし、終日寝る、ダラダラ過ごすだけはNG。ほかの休養タイプを実行したり、仕事や作業の合間にひと休みするくらいが理想です」

《生理的休養》運動タイプ→体を動かして血流を改善する

体を動かして血流を改善する
体を動かして血流を改善する(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「ウオーキングやストレッチなどの軽い運動も休養に。運動すると血流がよくなり、細胞の一つひとつに酸素と栄養が運ばれます。さらに老廃物を排出し、リンパの流れも改善されるので、疲労感が軽減されます」

《生理的休養》栄養タイプ→腹八分目で、カロリーは控える

腹八分目で、カロリーは控える
腹八分目で、カロリーは控える(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

疲れたときにスタミナがつく高カロリーな食品をたくさん食べるのは実は間違いだという。

「疲労状態のときは、カロリーを抑えることが重要です。スタミナがつく食品は油っぽいものが多いですが、それらは、消化のためのエネルギーが多くかかるため、逆に疲労が増します。それよりも、『食事を腹八分目に抑える』『白湯で体を温める』『胃腸にやさしい食事をとる』『断食する』などして、胃腸を休ませることが大切です」。

疲労時は、病気で体が弱ったときの食生活がおすすめなのだ。また、甘いものを食べると疲れがとれるといわれるが、これも間違い。血糖値の急上昇で、一時的な興奮状態になっているだけ。根本的な解決にはならないので控えめに。

《心理的休養》親交タイプ→人やペット、自然と触れ合う

人やペット、自然と触れ合う
人やペット、自然と触れ合う(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「人と会話をする、ペットと触れ合うなど、他者との交流でストレスは解消され、幸せホルモン・オキシトシンの分泌が促されて癒され、活力が得られます。森林浴などで自然に触れるのも、同様の効果が期待できます」

《心理的休養》娯楽タイプ→興味のあることに没頭する

興味のあることに没頭する
興味のあることに没頭する(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「映画を見る、音楽を聴く、推し活をするなど、趣味嗜好を追求するのもおすすめ。ただし、あくまで休養のための娯楽なので、徹夜でドラマを見るなどはNG。依存せず、一定期間楽しんで疲れがとれたら控えましょう」

《心理的休養》造形・想像タイプ→好きなことに思いを馳せる

好きなことに思いを馳せる
好きなことに思いを馳せる(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「ひとつのことに集中すると、疲労を忘れられます。具体的には、絵を描く、料理をする、DIYをするなど。形あるものを作り出さなくても、目をつぶって行きたい場所をイメージするなど、空想することでも構いません」

《社会的休養》転換タイプ→旅行や買い物、外食をする

旅行や買い物、外食をする
旅行や買い物、外食をする(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「周りの環境を変える(転換する)ことで気分がリセットされ、疲労回復に効果があります。イチオシは旅行ですが、買い物や外食、部屋の模様替えなどもおすすめ。気負わずにすぐに実行できることからやってみてください」

《睡眠を極める》脳の疲れをとる夜の過ごし方

休養の要となるのは、やはり睡眠。ただし、長い時間寝ることよりも、質のよい睡眠をとることが重要だ。そのための方法を専門家に聞いた。眠れない夜にとるべき行動、とってはいけない行動とは? 脳の疲れをとる夜の過ごし方を紹介する。

起床時の心拍数で睡眠の質がわかる

睡眠不足になると頭の回転が鈍くなり、肉体的な疲労もたまりやすくなるため、質のよい睡眠を充分にとることは、疲労回復のために重要だ。どんな状態なら良質な睡眠をとれたことになるのか――。作業療法士の菅原洋平さんによると、心拍数が睡眠の質をはかる目安になると言う。

「健康な成人の安静時の心拍数は、1分間に60~100回ほど。寝ている間に脳は記憶を整理したり、肉体疲労の回復を行うのですが、それらの機能が正常に働いているときは、睡眠中の心拍数が安静時よりも低くなります。つまり起床直後の心拍数が低いのは、脳や体のリカバリー作業が正常に行われた証拠です」(菅原さん・以下同)

寝起きに脈を測る習慣をつけ、どのくらいの脈拍のときに熟睡を実感できるか知ることが大切だ。

寝ても疲れがとれないのは「脳疲労」が原因

質のよい睡眠がとれないと寝ても疲れがとれないわけだが、その原因として脳が疲れすぎて疲労がとり切れていない可能性がある。

「何もしていないのに疲れていたら、『脳疲労』の状態です。これが続くと、記憶力や集中力が低下し、時間感覚が狂ってきます」

脳を過度に疲れさせないためには、睡眠時間を増やすことよりも、起きているときの行動が重要になる。

「脳は予想外のことを処理するときにエネルギーを多く使います。ですから、やるべきことが頭に浮かんだら『○○する』と声に出し、行動を前もって脳に認識させましょう」

インターネットやSNSなどの情報を頭に入れるのも、脳に膨大なエネルギーを消費させるため、スマホと一定時間、距離をおいてデジタルデトックスをするのもおすすめだ。

正しい休養のための睡眠法

ベッドにスマホを持ち込まない

ベッドにスマホを持ち込まない
ベッドにスマホを持ち込まない(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「脳は場所と行為をセットで記憶します。ベッドでスマホを操作すると『ベッド=脳を刺激する場所』と覚え、寝る場所だと認識しなくなります。スマホは脳疲労を助長させますから就寝前は手放すのがおすすめ」

眠くならないうちに布団に入らない

眠くならないうちに布団に入らない
眠くならないうちに布団に入らない(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「布団に入って15分経っても眠れない場合、脳の仕組みとしてその後1時間は眠れません。焦ると余計に眠れなくなくなるので、一度起き上がり、眠気が来るのを待つ方が効率的」

就寝直前にソファでうたた寝をしない

就寝直前にソファでうたた寝をしない
就寝直前にソファでうたた寝をしない(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「人は起床直後から、脳脊髄液の中に睡眠物質を蓄積します。それがたまるほど睡眠の質が高まるので、就寝前にうたた寝をして、たまった睡眠物質を消費すると、本格的に寝ているときの睡眠の質が下がります」

就寝前にホットアイマスクをする

就寝前にホットアイマスクをする
就寝前にホットアイマスクをする(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「目の周りを温めると心拍数が下がります。就寝前の心拍数が下がれば寝つきがよくなるうえ、睡眠中の心拍数もそのまま下がるので、質のよい睡眠をとりやすくなります。ですから就寝前にはホットアイマスクを」

目覚めたら日光を10分浴びる

目覚めたら日光を10分浴びる
目覚めたら日光を10分浴びる(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「起床後すぐ、窓から1m以内で10分ほど日光を浴びると◎。網膜で光を感知すると幸せホルモン・セロトニンが活性化し、眠気を起こすメラトニンの分泌を抑制。体内時計が整い、14~16時間後にメラトニンの分泌量が増加すると自然と眠くなります」

休みの日に寝だめしない

休みの日に寝だめしない
休みの日に寝だめしない(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「平日と休日の起床時間がずれると、脳は疲れやすくなります。休日だからと寝だめせず、平日との起床時間の差を2時間以内にし、なるべく起床時間を一定にすることが大切」

《疲れない体づくりを極める》疲労に負けない体のための運動&食事法

現代人は戦略的かつ意識的に休養するべき! 精神的疲労がたまりやすい情報社会ならではの休養法と、そもそも疲れにくい体をつくるにはどうすべきか、医師の加藤浩晃さんに聞いた。

感動の涙は精神的疲労の解消に効く!

家族構成や働く環境が変わる中、疲労の質も変化したと、加藤さんは指摘する。

「絶え間なく情報が入ってくる現代は、肉体的疲労もさることながら、精神的な疲労が増しています」(加藤さん・以下同)

現代人は、休養するときもスマホで動画を見るなどして、常に情報にさらされていないと気が済まない傾向にある。これでは疲労を上乗せし、いつまでたっても解消されない。休養するにも“戦略”が必要になったという。

「睡眠は心身の疲労をとるのに重要ですが、ただ寝ればいいわけではなく、睡眠の質を高めるための環境を意識してつくる必要があります。大切なのは寝具。特に枕は、横向きになったときに、おでこから胸まで一直線になるのものがおすすめ。首への負担が少ないので呼吸がしやすいだけでなく、寝返りもうちやすいので安眠につながります」

精神的疲労をとるなら、睡眠以外にも、映画やコンサート、お笑いライブなどを見て、感情を揺さぶられる体験をするのもいい。

「特に泣ける映画を見て“感動の涙”を流すのがおすすめです。悲しみの涙と違って、ストレスを緩和する効果があるからです」

休日はあえて泣く時間をつくるのも、戦略的休養につながる。

疲れにくい体づくりは2週間続けること

疲れをとるには、休養のとり方だけでなく、疲れにくい体をつくることも大切だと、加藤さんは続ける。

「適度な有酸素運動と筋トレ、そして、栄養バランスのとれた食事で疲れにくい体はつくれます」

具体的な方法は上記を参考にし、最低でも2週間は続けよう。徐々に疲れにくい体になったと実感できるはずだ。

疲れにくい体のつくり方

《運動編》ウオーキングなど適度な有酸素運動をする

ウオーキングなど適度な有酸素運動をする
ウオーキングなど適度な有酸素運動をする(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「激しい運動は、活性酸素を過剰に発生させて細胞や組織を傷つけ、老化や病気の原因をつくるだけでなく、疲労をためてしまいます。おすすめは、ウオーキングなど適度な有酸素運動を週2~3回、30分~1時間程度行うこと。血流が改善して疲労物質の代謝も進みます。平坦なコース、坂道のあるコースなど複数のコースを用意しておくと、飽きずに継続しやすいです」

《運動編》軽い筋トレをする

軽い筋トレをする
軽い筋トレをする(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「筋力をつけることで基礎代謝が上がり、疲れにくい体がつくれます。年齢を重ねると、筋力は自然に落ちていきますが、逆に、何才だろうと鍛えれば筋力は必ずつきます。特に疲れが気になる人が、優先して鍛えるべきは大きな筋肉がある『下半身』。スクワットなら、効率的に筋肉量をアップできます」。

継続が大切なので、1日10回程度から、無理のない範囲で回数を増やしていこう。慣れてきたら、腹筋運動を追加し、上半身も鍛えてバランスをとると◎。

《食事編》血糖値の急上昇・急降下に気をつける

血糖値の急上昇・急降下に気をつける
血糖値の急上昇・急降下に気をつける(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「血糖値の急激な上昇・降下は、体に負担をかけ、疲労の原因に。予防するには白米より玄米、普通のパンより全粒粉パンなど、糖質の少ない食べ物を選びましょう。白糖を控え、肉や野菜から先に食べるのもおすすめ」。コーヒーを飲む際も、甘いカフェラテなどではなく、ブラックを。甘味をがまんするとストレスになるので、適度に取り入れるのは◎。

《食事編》たんぱく質を意識して摂る

たんぱく質を意識して摂る
たんぱく質を意識して摂る(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「疲労回復のため、特に意識して摂りたいのがたんぱく質です。日本人のたんぱく質摂取量は減少傾向にあり、終戦直後の1950年代レベルまで低下しているといわれています。たんぱく質は筋肉の材料となるので、疲れにくい体づくりのためにも意識して食べること」。成人女性の推奨量は1日50g。肉、魚、卵、大豆製品のいずれかを毎食摂るのが理想的。

《食事編》鉄分・ビタミンB群を意識して摂る

《食事編》鉄分・ビタミンB群を意識して摂る
鉄分・ビタミンB群を意識して摂る(イラスト/とげとげ。)
写真21枚

「鉄分やビタミンB群が不足すると、赤血球に含まれるヘモグロビンの合成がうまくいかず、体内への酸素供給が滞ります。すると、だるさや息切れ、めまい、動悸といった症状が起こり、疲労感が増します。特に女性はこれらの栄養素が不足気味。鉄分の多いレバー、赤身肉、まぐろ、小松菜や、ビタミンB群が豊富な豚肉、納豆などを積極的に摂りましょう」

◆休養学者・片野秀樹さん

博士(医学)、日本リカバリー協会代表理事。日本初の休養学者として各種企業研修、講演、健康経営関連セミナーなどを通じて疲労大国ニッポンを救うために活動中。著書に『休養学 あなたを疲れから救う』(東洋経済新報社)など多数。

◆作業療法士・菅原洋平さん

国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。現在は、ベスリクリニックで睡眠外来を担当する傍ら、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。著書に『「疲れない」が毎日続く! 休み方マネジメント』(河出書房新社)など多数。

◆医師・加藤浩晃さん

専門は遠隔医療、AI、IoTなどのデジタルヘルス。元厚生労働省室長補佐で起業家でもある。医療現場、医療制度、ビジネスという3つの領域を経験し、現在は医療領域全般の新規事業開発支援などを行う。著書に『休養ベスト100 科学的根拠に基づく戦略的に休むスキル』(日経BP)など多数。

取材・文/鳥居優美

※女性セブン2025年9月18日号

関連キーワード