
「外来診療の際に聴診器に違和感があり、首を触ったら右側にしこりがありました。超音波検査で悪性のリンパ腫と診断されました」
そう語るのは、神奈川県立がんセンターの泌尿器科部長を務め、1000人以上のがん患者を看取った三浦猛さん。3年前に悪性リンパ腫を患い、闘病を通じて「がんで死ぬのは悪くない」と思うようになった。
「治療できましたが完治ではなく、再発すれば余命2年と診断されています。がんになること自体、免疫力低下のサインだから簡単には治らないとわかっています。それでも死を身近に感じたことで、『がん死』には多くの“特権”があると思うようになりました」(三浦さん・以下同)
「最大の特権は切り替えができる」ことだと続ける。
「年をとってがんになると、先が見えるので多少悪化しても病院で頑張る必要がなく、“しょうがない”と気持ちを切り替え、楽しいことややりたいことに向かえます。でもほかの病気は“助かるかもしれない”と入退院を繰り返し、結果的に状態が悪くなるケースも少なくない。そこが大きな違いです」
家族の負担が少ないことも「がんの特権」だという。
「統計上、がん患者は死の3か月前まで歩くことができ、2週間前まで通常のコミュニケーションが可能で、緩和ケア病棟や病院、在宅などを選べます。他方、老衰の場合は家族の介護が長期にわたることが多く、認知症になると緩和ケア病棟やホスピスには入れません」

三浦さんはがんになって覚悟が決まり、生き方が変わったと振り返る。
「がんになる前は90才まで生きる前提で老後資金をため続けていたけど、死を意識すると老後の不安が消え、いかに有意義にお金を使うか考えるようになりました。いまは全額使い切るつもりで、寄付やクラウドファンディングへの支援を前向きにしています。
都合のいい話ですが、70代あたりでがんを患い、先を考えて元気なうちに、余生を有意義に過ごせるようになれば最高でしょうね」
三浦さんが看取ったがん患者の大半は納得して亡くなっていった。ただし、そこには「家族との関係」が大いに影響しているという。
「私が看取った半分ほどのかたは在宅で静かに最期を迎えました。こうした患者は家族関係が良好で、最期まで家族が本人の意思を尊重して協力します。
一方で家族との関係が悪いと本人の意思に反して無理に入院させたり、いざというときに救急車を呼んで延命治療に入ってしまう。がんになって理想の死を迎えるには、日頃から家族とのコミュニケーションを取ることが大切だと思いました」
【プロフィール】
三浦猛(みうら・たけし)/日本泌尿器科学会認定 泌尿器科専門医。横浜市立大学医学部を卒業。神奈川県と静岡県の公立病院での臨床経験を経て、南カリフォルニア大学がんセンターに留学。帰国後、神奈川県立がんセンターに赴任し、退職後は神奈川県予防医学協会に勤務。
※女性セブン2025年10月9日号