
早期発見、早期治療ができるかどうかが生死を分けるとされるがん。いつもと違う不調が長引くようなら、それは病のサインかもしれない。「自分の体のことは、自分がいちばんわかっている」と思い込むと、寿命を縮めてしまうこともある。体の異変を“いつものこと”と見逃してしまわないよう、がんの「危険なサイン」を知っておきたい。【全3回の第1回】
「便秘が続くなと思っていたら急に下痢になったりと、お腹の調子が悪い日が続いていました。もともと便秘がちなこともあり、運動不足や外食続きで食生活が乱れているせいかなと思ってあまり気にしていなかったのですが、しだいに下腹部に痛みが出るようになってきたんです。
念のため消化器科を受診し大腸の内視鏡検査を受けるとポリープが見つかり、大腸がんだとわかりました。がんと聞いたときは“まさか自分が”とショックを受けましたが、幸い初期での発見だったので内視鏡手術だけで治療することができました。思い切って病院に行ってよかったです」
こう胸をなで下ろすのはAさん(54才)。彼女のように“いつもの体調不良”だと思っていたら、それががんの初期症状だったというケースは少なくない。国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生さんが話す。
「がんの初期症状は風邪によく似ていたり、お腹の調子がなんとなく悪かったりと目立った症状ではないため、なかなか気づくのが難しいこともある。小さな異変を見逃さず、少しでも不調を感じたらがんの可能性を疑うことが重要です」
がんは早期発見、早期治療をすればするほど生存率が高くなるケースがほとんど。体の異変を“いつものこと”と見逃してしまわないよう、がんの「危険なサイン」を知っておきたい。
風邪かと思ったら肺がんだった
厚労省の「人口動態統計」(2023年)によると、女性の部位別がん死亡数が最も多いのは、冒頭のAさんも罹患した大腸がんだ。初期症状が“不調を感じても日常生活は送れる程度”なので、検査を受けるのが遅れてしまいがちだという。松生クリニック院長の松生恒夫さんがこう話す。
「便秘や下痢、頻繁な腹痛、便が細くなるなどの症状があれば、大腸がんの可能性が考えられます。女性は便秘に悩む人が多いため、数日に1回しか便が出ていなくても放っておいてしまう人もいますが、異変を感じたら病院で検査をしてもらいましょう。
死亡率は1位ですがステージIなら10年後の生存率は約80%、ステージIIでも約70%と早期発見できれば治せる病気です」
大腸がんはポリープがどこにできるかによって症状が異なる。
「肛門から近い部分にポリープができると出血して血便が出ます。逆にわかりにくいのは肛門から遠い部分にできた場合で、腹部の膨満感やみぞおちの違和感といった症状があります」(松生さん)
大腸がん検査には自宅で採便するだけで簡単に受けられる便潜血反応検査があり、陽性なら大腸内視鏡検査という流れになるが、「陰性の場合でも異変を感じていたら検査を受けた方がいい」と松生さんは話す。
「便潜血反応検査を毎年受けた場合の検出率は1年目では約45%、2年目には約70%、3年目で約80%と回数を重ねるごとに検出率が上がっていきます。1年目で陰性だったからといって安心してはいけない。
早期に見つけることができれば内視鏡でがんを取り除く手術が受けられるので、気になる症状が続くようなら躊躇せずに大腸内視鏡検査を受けるようにしましょう」(松生さん)

大腸がんと似たような違和感が症状として現れるのが胃がんだ。内科医の名取宏さんが解説する。
「胃がんも初期には目立った自覚症状がないことが多く、あっても腹部の痛み、胃の違和感、胸焼け、胃もたれ、軽い食欲不振といった程度です。これらの症状は風邪や胃腸炎、慢性胃炎の症状とも似ているため、がんだとは気づきにくい。
ある程度進行すると黒色便や貧血、体重減少、倦怠感が出てきます。気づかずに進行してしまった場合、がんが腹膜に散らばり腹水がたまったり(腹水貯留)、腸閉塞を起こすこともあります」
胃がんも大腸がん同様、初期なら内視鏡手術で治療できるので、不調を感じたら老化や食べすぎと軽視せず早めの受診が肝心だ。
肺がんは初期症状がほとんどなく、風邪と似ているため発見が遅れやすい。
「長く続く咳や痰、特に血痰が出る場合は肺がんの可能性が疑われます。軽い咳でも数週間続くようなら画像検査を受けた方がいい。がんが進行して増大した場合、気管支近くならゼイゼイした呼吸、末梢近くなら胸膜が刺激されて胸の痛み、呼吸困難の症状が出てきます。
風邪だと思って市販薬を服用し続けているうちに、骨に転移してしまうケースもある。転移した場合、骨痛や腰痛を伴うようになり、体の痛みがきっかけで病院を受診し肺がんが見つかることも少なくありません」(名取さん)
(第2回に続く)
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号