
「がんが怖い」と口にする高齢者がよくいるが、本当に怖いのは「がんの治療」ではないか──そう訴えるのは高齢者医療に35年以上従事する精神科医の和田秀樹さんだ。
「胃がんや大腸がん、すい臓がんなどは、昔は80才以上の患者に手術はしなかったけど、いまは健康状態がよければ90才以上にも積極的に手術をすることがあります。しかし手術や抗がん剤、放射線といったがんの治療は高齢者には負担が大きく、治療の害でさらに体調を崩す人が相当数いると考えられます。がんが寿命を縮めるのではなく、“がん治療が寿命を縮める”ことが現実に起こるのです」(和田さん・以下同)
実際の臨床現場でも、がん治療の害を実感していると和田さんが続ける。
「がんの治療を受けた高齢者と受けなかった高齢者を約30人ずつ見たことがありますが、治療を受けて元気になった高齢者はひとりもおらず、やはりがんではなくがん治療が怖いのだと肌で感じました。多くのがん患者が本当は治療で悪くなったのに、がんで悪くなったと思い込んでいる可能性があります」

過剰な治療を避けられるのなら、自身が死ぬのは「がんがいい」と語る。
「心血管系や脳血管系の病気で突然死したら、片付けられるものを片付けられず、いろいろな禍根を残しかねません。でもがんは見つかるまでピンピンしているうえ大体の死期がわかるから死の準備ができて、発見後も治療を受けなければ苦しむことが少ない。だからがんになって治療を受けずに死ぬのがぼくの理想です」
高齢で見つかるがんとは「共存共栄」できるはずだと和田さんが呼びかける。
「高齢者のがんは進行が遅く、放置しても10年くらいは生きられることが多い。ぼくが勤務した病院で年間100例の解剖結果を見ると、85才以上のほぼ全例でがんが見つかるのに死因ががんの人は3分の1で、残り3分の2は別の原因で亡くなっていた。つまり、がんが見つかっても無理に闘わず残りの人生をがんと共存し楽しく過ごすことも老後の選択肢になります。決めるのは本人だが、がんになる前に大まかな方向性は考えておくべきでしょう」
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/精神科医。東京大学医学部を卒業。東京大学医学部附属病院、国立水戸病院、浴風会病院の精神科を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。著書に『80歳の壁』など多数。
※女性セブン2025年10月9日号