
「沈黙の臓器」といわれる腎臓と肝臓。機能が低下しても自覚症状が出ない。それだけに、ひょっとしたらあなたの腎臓と肝臓は気づかぬうちに悲鳴を上げているかもしれない。しかし、正しい知識を持てば、100才まで正常に機能するかもしれない。あなたと家族の命を守るため、その“声なき声”に耳を傾けたい。【前後編の前編】
年齢とともに血圧の数値は上がる。現在の高血圧の患者数は約4300万人と推計され、日々、血圧の数値に一喜一憂している人は多いが、新たな“国民病”にも気をつけたい。山形県立保健医療大学学長で腎臓専門医の上月(こうづき)正博さんが指摘する。
「腎臓の機能が低下する『慢性腎臓病』の患者数は年々増加していて、10年前は約1480万人でしたが、いまでは約2000万人に増えました。日本では高血圧の次に多い病気です」
実は女性は、ライフステージの変化やホルモンバランスの乱れが影響を与えるという。また、この季節は特に気をつけたい。上月さんが続ける。
「この連日の暑さの中、熱中症になると脱水により血圧が低下し、健康な人でも急激に腎機能が低下する『急性腎障害(AKI)』を引き起こすことがあります。降圧剤をのんでいる人は、暑さで血圧が下がりすぎることで、よりリスクが高いので気をつけてほしい。そのまま透析が必要になる人もいます」
一方で、熱中症対策の水分補給にも注意が必要だ。栗原クリニック東京・日本橋院長で肝臓専門医の栗原毅さんが言う。
「暑いからといって冷たい飲み物をたくさん飲みすぎると、胃腸が冷えて深部体温が下がり、血流が悪くなって肝臓の機能が低下します。肝臓は寒暖差などのストレスに弱く、夏バテの要因にもなる。スポーツドリンクなどの清涼飲料水をたくさん飲んでいると、肝硬変のリスクが急激に高まります」
腎臓・肝臓は機能低下に気づきにくく、自覚症状が出たときには手遅れになっていることも珍しくない。だからこそ、悪化する前の予防が必要だ。
お酒を飲まなくても肝機能は低下する
腎臓は胃や腸と違って、普段はあまり意識することのない臓器だが、命に欠かせない重要な働きをしている。上月さんが解説する。
「大きな役割は解毒作用です。血液をろ過して体に不要なものや毒素を分解し、尿として排出するとともに必要なものを再吸収します。同時にナトリウムやカリウムなど電解質の調整を行い、血圧を調整する働きもある。血液中のカルシウムを保ち、骨を作るために必要な活性型ビタミンDを作って骨を強くするのも腎臓です」

体の左右に1つずつある腎臓は、健康で若い人ならかなりの余力があり、たとえ片方を失っても充分に機能を果たすことができるという。しかし、加齢や生活習慣病などで腎機能が低下すると、さまざまな症状が現れてくる。
「腎臓は多少悪くなっても自覚症状はありませんが、機能低下が進むと、体のむくみや尿量の変化、だるさなどの症状が現れます。さらに悪化すると透析が必要になり、体内の老廃物や余分な水分が排出されなくなる尿毒症になれば、意識を失うこともあります」(上月さん・以下同)
腎機能の低下は、ほかの重篤な病気も引き起こす。
「体から有害な物質を排出できなくなれば、がんになりやすく、不要な水分がたまると心臓が真っ先にダメージを受けて心不全になる。動脈硬化が進行して、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高くなります。実際、腎臓そのものが原因で亡くなるよりも、心筋梗塞や脳梗塞など心血管の病気で亡くなる人の方が多い」
一度失われた腎機能は、基本的に元には戻らない。自覚症状が出たときには手遅れになることが多いので、血液検査や尿検査で早期発見することが大切だ。
「高齢者は疲れやむくみを年齢のせいにしてそのままにしやすいのですが、体調がかなり悪化してから病院を受診して、すぐに透析が必要になる人も少なくありません。毎年健康診断で血液検査(eGFR、クレアチニン)と尿検査(尿たんぱく)を受けて、どれかに異常が出たらすぐに病院を受診してください」
特に女性はむくみやすいため、自覚症状が出ているのに腎臓の悪化と思わず、病気を見過ごす可能性があるというから、男性以上に違和感に気をつけたい。