健康・医療

《健康長寿につながるケア》歯や口腔内の状態が悪いと認知症リスクも 歯を守る歯磨き、食習慣、生活習慣を医師が解説

口の中を酸性のままにしない

歯の健康を守るためには、ケアやメンテナンスだけでなく、日々口に入れるものに気を配る必要がある。

お菓子やジュースなどを砂糖が多いからと気をつける人は多いが、炭水化物にも糖質は含まれている。ご飯やパンなどの食べすぎや、食べた後に歯磨きをしないままでいると糖を分解する過程で口の中が酸化し、虫歯の原因となる細菌がつきやすくなるから気をつけよう。また歯と歯茎を健康に保つためには歯の骨を強くすることが重要。ナッツなどしっかり噛める食品を食べるとあごが鍛えられるだけでなく唾液の分泌量も増えて口腔内環境を整える。

歯の健康のために効果的な食べ物も研究や調査から明らかになっている。WHO(世界保健機関)は2005年に「歯と口腔の疾患および健康に関する食事」を発表し、たんぱく質やポリフェノール、ハードタイプのチーズなどを積極的に摂ることを推奨した。たんぱく質に歯周病悪化を予防する必須アミノ酸が豊富に含まれることや、筋肉を構成することが理由とされる。また、ポリフェノールの抗酸化作用には、歯周病の炎症を抑える効果が期待されている。チーズは、カリウムやリンなどの含有量が多く歯の再石灰化を促すことや、口腔内をアルカリ性に変えて酸化を中和して虫歯を予防する役割を果たすという。

生活習慣の改善にも取り組みたい。口腔内環境を悪化させる最大の要因は間食にあると、池渕さんが言う。

「間食しながらだらだら過ごすと、口腔内が長時間、酸性のままになってしまいます。また、糖分の過剰摂取は糖尿病を悪化させ、歯周病の原因になるので要注意です。

寝る直前の食事やお酒も控えてください。飲食後に口腔内が酸性のまま寝ると、就寝中に虫歯や歯周病が進行してしまいます」

しっかり噛んで食べることは唾液の分泌を促進するため、虫歯予防にもなる。

「唾液には酸性になった口内を中性に保ち、虫歯や歯周病を防ぐ働きがあります。年齢を重ねると唾液の分泌量が減るので、しっかり噛んで、あごを動かすようにしてほしいですね。普段から口の中で“ベロ回し”をするだけでも唾液の量が増えるので効果的です」(飯塚さん・以下同)

日頃からストレスの解消に努め、しっかりと睡眠をとることも大切だ。

「ストレスに囲まれた生活や睡眠不足が原因で歯ぎしりをすると、歯に大きな負担がかかります。長時間のスマホ操作にも要注意。前かがみの姿勢が続くと上下の歯が当たってしまい、表面が削れたり、割れてしまうこともあります」

池渕さんも続ける。

「歯に強い力が加わって亀裂が入ってしまうことは、歯にとって一大事です。表面のみならず、内側から割れ始めることも多い。気づかないまま放置して、ある日突然、歯が欠ける原因になります。歯ぎしりや食いしばりなど歯に負荷をかける習慣は改善しましょう」

歯を守る生活習慣10
歯を守る生活習慣10
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インプラントの後もメンテナンスは必須

食事やケアに気をつけていても、虫歯になってしまうことはあるし、老化に抗うにも限界はある。定期的な検診で異常が見つかったら治療が必要だ。しかし、その治療も一つ間違えればかえって歯の寿命を縮めてしまうことになりかねない。

やむを得ず歯を失うことになった場合、インプラント、入れ歯など選択肢が増える中、選ぶべきはどれか。入れ歯はブリッジやインプラントと比べ、見た目や衛生面、咀嚼の違和感が指摘されるものの、周囲に残った歯を削ったり抜いたりする必要がないため、歯への負担は少ない。これに比べるとブリッジは、安定感はあるものの、装着するには両隣の歯を削る必要がある。

「費用面で心配がないかたはインプラントにした方がいいですし、歯の白さや見た目、噛む力の強さにこだわる場合は自由診療が確実です。ただ、迷っているかたには、公的医療保険が適用される治療をおすすめしています。銀歯は金属アレルギーのかたは使えませんが、プラスチックとセラミックを混ぜた素材を使う、CAD/CAM冠という被せ物もあります。見た目も悪くありませんし、強度も充分です」(黒澤さん)

飯塚さんが言い添える。

「ただし、自由診療でインプラントにしたからといって安心はできません。インプラントは虫歯にこそなりませんが、その周りが歯周病になる恐れもあり、インプラントこそメンテナンスが必要です。

私がおすすめする被せ物は、銀歯よりも金歯。金属アレルギーをほぼ起こさない優秀な素材で、現在は目立たない色の金歯もある。やわらかい素材なので歯になじみやすいのもメリットです」

池渕さんが言う。

「歯根が割れたり、その周りが化膿すると細菌の温床になります。化膿したところを通して全身に細菌が行き渡ってしまうため、抜歯になることが多い。ただ、歯は一生の財産ですから、いきなり抜歯を行う歯科医師は考えものです。抜歯をすすめられた場合は、その理由を丁寧に説明してくれる歯科医師を選ぶことをおすすめします」

「歯」を失った場合の治療
「歯」を失った場合の治療を解説
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ホワイトニングや歯列矯正など審美歯科の専門クリニックも増えており、「矯正した方が噛み合わせがよくなり、歯が長持ちする」とすすめる歯科医師もいるが安易に選択してはいけない。

「年齢を重ねて歯の骨が完成してから無理に行うと、口内に負担が大きい。マウスピース矯正は年配の女性が多く受けていますが、トラブルが多いためおすすめできません」(飯塚さん)

おいしく食べることは人生の最大の喜びだ。健康な歯を維持し、歯を見せて笑う人生を送りたい。

※女性セブン2025年10月30日号