
国土交通省による2023年の調査では、東京23区在住者の約4割が「移住に関心がある」と回答。家賃や物価が上昇し続けている昨今、生活費を抑えるため、などの理由で地方移住を考える人は年々増えている。特にコロナ禍以降、リモートワークが普及し、各地でも受け入れ体制が整ってきたことも相まって、子育てにセカンドライフにと、30~60代の移住希望者が各都道府県の相談窓口を賑わせているという。そこで、人気の移住先について、その理由を深掘りしました!
- まずは仕事探しから。行政の制度の活用も
- 広いからと戸建て住宅に飛びつかない!
- 《最新ランキング》トップ3は東京へのアクセスがいい群馬、静岡、栃木!移住先として人気の都道府県10の魅力
- 【1位】群馬県「移住促進政策により、受け入れ体制が万全」
- 【2位】静岡県「再就職を望むアクティブシニアへの支援が充実」
- 【3位】栃木県「通勤費の補助金制度で都内への通勤者も多数」
- 【4位】長野県「豊かな自然とアクティビティー、アクセスのよさも魅力」
- 【5位】福岡県「暮らし&仕事体験などお試しプログラムが豊富」
- 【6位】北海道「地域で環境が大違い!まずはお試し移住を」
- 【7位】宮城県「米のプレゼントなど個性的な支援も」
- 【8位】山梨県「東京と山梨の二拠点生活が可能」
- 【9位】福島県「自然豊かで生活コストがお手頃」
- 【10位】山口県「移住者へのサポートが手厚い」
まずは仕事探しから。行政の制度の活用も
移住にはお金もかかるし失敗したくない――。たいていの人はそう考えるだろう。しかし、東京から山梨、北海道へ移住したイラストレーターの鈴木みきさんは、「一生住み続けなくてはならない、と思わずに、まずは挑戦してみては?」と話す。登山が趣味の鈴木さんは、山の近くに住みたいと、38才のときに単身、東京から山梨へ移住した。
「20代から山小屋などでアルバイトをしていたので、地方の暮らしには慣れていました。私は独身で身軽なので少し特殊かもしれませんが、必要以上に気負う必要はないと思います」(鈴木さん・以下同)

移住準備はまず仕事探しから始めるべきだという。
東京23区在住、または東京圏に住み、東京23区に通勤する人が圏外へ移住して起業や就業を行った場合、都道府県・市町村が、単身で最大60万円、世帯で最大100万円を支給する「移住支援金制度」もあるが、これだけでは足りない。
「私はリモートでもできるイラストレーターとしての地位を固めてから移住しました。移住先での仕事の確保は最優先事項。『地域おこし協力隊』の活用も手です」
「地域おこし協力隊」とは、都市部から地方に移住して地域協力活動を行う、総務省が推進している制度。活動期間は1〜3年で、各自治体の委嘱を受けて活動し、報償費が支給される。
「定年退職をし、働かなくても生活に困らない場合でも、地域の人とコミュニケーションをとるという意味で、週に何度か働いた方がいいと思います」
仕事と同様に大切なのが、地域社会とのつながりだ。移住先では近隣住民と助け合わなければ生きていけないため、地域の行事にも積極的に参加すべきだという。
広いからと戸建て住宅に飛びつかない!
次にすべきは住まい選び。自治体によっては古民家や古い戸建てを安価で提供してもらえるケースがあるが、年を重ねてからは、飛びつかない方がいい。
「戸建ては集合住宅に比べてメンテナンスが大変。古民家や中古の戸建てなら家自体の修復のほか、庭や自宅周辺の草木の手入れ、雪深い場所では除雪作業などがあり、金銭的にも肉体的にも、特にシニアには大きな負担になります」

戸建てに住むのは、相当な覚悟が必要なのだ。
「商業施設や大きな病院のある駅まで、近くなくとも公共交通機関で行けることも大事です」
しっかり準備して移住しても、思い通りにいかないことはある。
「大切なのは、何かあったときに帰れる場所やそのための予算を確保しておくこと。退路を断つような移住はしないことです」
どこに移住するか調べて準備することは大切だが、必ずしも“終の棲家”にする必要はないのだ。
《最新ランキング》トップ3は東京へのアクセスがいい群馬、静岡、栃木!移住先として人気の都道府県10の魅力
自然が豊かでほどよく田舎暮らしが楽しめるうえ、都心への交通の便がよく、医療制度なども充実。そんな10道県の魅力を深掘りする。
【1位】群馬県「移住促進政策により、受け入れ体制が万全」
関東の北西部、東京から100km圏内に位置し、関東地方では栃木県に次ぐ面積を誇る。赤城山や尾瀬といった自然に恵まれ、草津や伊香保など100か所以上の温泉地、世界遺産・富岡製糸場など見どころも豊富。
日本最大の移住相談窓口「ふるさと回帰支援センター」(東京都千代田区)が窓口相談者やセミナー参加者等を対象に調べた’24年の移住希望地ランキングで、はじめて1位となった群馬県。
背景には人口減少を懸念した県が積極的な移住促進政策を行い、情報発信を強化してきたことなどがあげられる。
人気の理由には、東京へのアクセスがよく、地震や水害などの自然災害が少ないこと。草津などの温泉地やスキー場、別荘地が多いことなどがあるようだ。
「長野原町の北軽井沢や嬬恋村には古くから別荘地が点在しており、もともと県外の人が溶け込みやすい環境だったことも人気の要因としてあげられます」(ぐんま暮らし支援センターの相談員・上原憂己さん、「」内以下同)
移住コーディネーター制度が充実していて、「畑がある家を借りたい」「通院に便利な場所に住みたい」「子育てしやすい町を探したい」といった要望に合った移住地や支援策などを紹介してくれるのも魅力だ。
「コーディネーターも移住者ですので、移住前の準備から、移住後の悩みまで具体的なアドバイスができます。移住で大切なのは、人とのつながりですから、コーディネーターとの出会いが移住後の生活に役立つこともあります」

さらに今春から、中高年向けの就職支援専用窓口も設置された。40代後半以上を対象に、県内での就業相談に対応している。
田舎暮らし体験や移住体験ツアーも実施しているので、こうした制度を活用すれば、移住後の生活が「思っていたのと違う」といった齟齬が生まれにくい。受け入れ体制が万全なのは、移住者にとってありがたい。


【2位】静岡県「再就職を望むアクティブシニアへの支援が充実」
首都圏からも中京圏からもアクセスがよく、人口10万人以上の都市が10市ある。温暖な気候が特徴で、富士山をはじめ、伊豆・熱海といった温泉地など、多くの観光資源を誇るため、年間約1.5億人の観光客が訪れる。
2023年までは4年連続で人気の移住先ランキング1位を誇り、いまだ根強い人気の静岡県。移住者のうち20代から40代の子育て世代が8割を占めるが、年代別移住先ランキングでは50代以上で1位に。「もともと暮らしていた首都圏に近く、家族や友人に会いに行きやすい」「富士山が好きだから」などの理由からアクティブなシニアにも人気だ。

「特に都市と自然が共存した静岡市、新幹線の駅があり富士山が近い三島市、温泉巡りができる伊東市や伊豆市などが50代以上に人気です」とは、県くらし・環境部の平松直子さんだ。
県内にある「しずおかジョブステーション」には、高齢者の就労相談に対応する「人生100年就労パートナー」が所属しており、再就職についての相談環境も整っている。そのかいあって、再就職率は高い。
「45才以上では、事務、生産工程、運搬・清掃・包装などへの求人申し込みが多く、再就職を支援しています。伊豆半島などの観光地では、ホテルや旅館の求人が豊富です」(平松さん・以下同)
さらに浜松市、伊豆市、東伊豆町など一部の自治体では移住のお試し住宅を設けている。
「静岡市では、55才以上を対象としたお試し住宅『葵おまち暮らし体験』が好評です。静岡市は病院や商業施設が多く、公共交通機関が発達していて自家用車がなくても暮らしやすい環境。静岡駅周辺を移住相談員と歩きながら、移住後の暮らしをシミュレーションできます」

【3位】栃木県「通勤費の補助金制度で都内への通勤者も多数」
関東地方最大の面積を誇る。県北部に国際観光都市として名高い日光市や那須町があるほか、県庁所在地の宇都宮市は北関東唯一の50万人都市。新幹線、JR在来線、東武日光線などが通り、東京へのアクセスがいい。
都心への通勤者が多く住む小山駅から東京駅までは新幹線で約40分、JR在来線でも約80分。宇都宮市や足利市、栃木市など複数の自治体が都心への通勤費の補助金を交付しており、平日は東京で仕事、週末は自然豊かな栃木でのんびり、といった生活ができると、特に40代以上に人気が高い。

「不動産の高騰が続く都心部に比べ、マイホームの購入が夢ではありません」と、県総合政策部の高橋直子さん。
「移住促進コンシェルジュがアドバイスやアテンドツアーを実施したり、移住者同士のネットワーク作りを支援したりなどフォロー体制も整えています」(高橋さん)

【4位】長野県「豊かな自然とアクティビティー、アクセスのよさも魅力」
豊かな自然と、登山やスキーが身近な環境に惹かれて移住する人が多い長野県。地域ごとに多様な魅力があり、首都圏へアクセスしやすい東信エリア(佐久市、上田市、東御市など)、中信エリア(松本市、安曇野市、大町市など)が比較的人気。

「東京圏、愛知県、大阪府から移住されたかたへの移住支援金や、県外から移住するバスドライバーや保育士への支援金など、支援制度が充実しています。まずは移住相談窓口へどうぞ」(県企画振興部・伊東笑子さん)
平均家賃は長野市で約11.9万円、リニア中央新幹線の駅が開設予定の飯田市で約8.4万円(※SUUMO調べ。2LDKの場合。2025年7月10日現在)と東京圏よりお手頃。
【5位】福岡県「暮らし&仕事体験などお試しプログラムが豊富」
県庁所在地の福岡市は、コンパクトシティ化(※)が進んでおり、福岡空港から市街地まで約10分。電車やバスなどの交通網が発達し、都市間の移動も便利で、電車内の混雑率が低いのが魅力だ。
※住居や商業施設、公共サービスといった都市機能を都市中心部へ集約させ、公共交通機関で移動しやすい範囲にまとめる都市計画。

「2015年から、福岡県移住・定住ポータルサイト『福がお〜かくらし』を運営しており、県外在住者を対象に将来的な移住に向けてさまざまな情報を発信しています。空き家バンクの物件登録数が県内トップクラスの豊前市をはじめ、県内のお試し居住施設では、移住暮らし体験もできます」(県政策支援課)
就業・居住・交流が一体となった「福岡くらしごと体験」の実施も。
【6位】北海道「地域で環境が大違い!まずはお試し移住を」
179の市町村を有する北海道では、都市部での暮らしを希望する人から第一次産業にかかわりたい人まで、多様なライフプランを持つ人が集まる。人口密度は東京の100分の1程度。食費の年間支出も関東と比べて安く、シニアが暮らしやすい環境が整う。

「釧路や根室などを含む『道東エリア』は夏でも気温が30℃以下の地域があります。一方、函館などを含む道南エリアは積雪量が比較的少ないなど、地域で環境が異なるので、移住先を選ぶ際には道内約100市町村が実施する体験移住『ちょっと暮らし』を活用するのがおすすめです」(道総合政策部地域創生局地域政策課)
【7位】宮城県「米のプレゼントなど個性的な支援も」
県庁所在地の仙台市は利便性がよく、日本三景「松島」など自然豊かな環境も整う。気仙沼市、東松島市、登米市、大崎市などでは起業支援が充実。川崎町では、空き家バンクを活用した移住者に町産米を3年間で30kg贈るなどのユニークな試みも。

【8位】山梨県「東京と山梨の二拠点生活が可能」
東京からのアクセスが至便。北杜市、富士吉田市、南アルプス市などが人気で、平日は東京、週末は山梨と二拠点生活をする人も。中部横断自動車道の整備や、リニア中央新幹線の開業でさらに便利になる見込み。働くシニアも多い。

【9位】福島県「自然豊かで生活コストがお手頃」
新白河駅、郡山駅、福島駅と新幹線停車駅が3駅あり、東京とのアクセスが便利。求人ではICT活用スキルのニーズが高く、ミドル・シニア層の正社員採用も多い。県庁所在地である福島市の2LDKの平均家賃は約6万~7万円と家賃や物価が安いのも魅力。

【10位】山口県「移住者へのサポートが手厚い」
県外から移住を検討する人へ、視察のための交通費を最大3万円補助するなど県独自の支援を展開。下関市では移住希望者が最長5年間、手頃な家賃で入居できる「豊北ハイツ」を設置。萩市では、空き家の改修費を上限200万円まで補助している。

◆イラストレーター・漫画家・鈴木みきさん
38才のときに地元の東京から山梨県北杜市へ移住。8年暮らした後、北海道札幌市へ移住。51才で東京へ戻る。コミックエッセイ『中年女子、ひとりで移住してみました』(平凡社)など著書多数。
取材・文/植木淳子
※女性セブン2025年11月13・20日号