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《首相も対象になる日本の「推し活」ムーブメント》かつては“クローズドなオタク文化”の中にあった「推す」という行動が、スマホとSNSの普及で一般化

「憧れ」「ロールモデル」「育成」、世代によって“推し方”は違う

一方、夢中になるものを追いかけたい、応援したいという気持ちはいつの時代も誰もが持つ感情だ。精神科医で作家の熊代亨さんは「推し活は目新しい活動ではない」と話す。

「プロ野球選手のほか、光GENJIや松田聖子などの『追っかけ』こそ、いまで言う推し活。私たちは、昭和の頃から当たり前に推し活をしていたのです」

平成の時代になると、「オタク」という言葉が一般的になり、何かにハマり夢中になる人たちの一部の熱心な行動がクローズアップされたこともある。そのオタク文化は2000年代に急速に成長し、前出のようにSNSの台頭で「推し活」へと変わっていったのだ。

「『追っかけ』『オタク』というと熱狂的なファンのイメージがありますが、いまでは何か熱中するものやハマっているものがある人を『オタク=推し活をしている人』と呼ぶことに抵抗はなくなっています。裾野が広がり、推す対象も多様化したことで、昔の『オタク』という言葉の暗いイメージがなくなり、誰もがポジティブに、自分の好きなことに夢中になれる時代になりました」(牧さん)

誰もが推しを持ついまの時代、大人だけでなく子供たちも推し活に励む。東京都の小学2年生の女の子は、6年生の兄が見ていたユーチューブチャンネル「オモコロチャンネル」に夢中だ。女の子の母が話す。

「WEBメディア『オモコロ』の人気ライターたちがボードゲームやオリジナル企画をするチャンネルで、娘いわく“大人なのに全力で遊んでるのがおもしろいし、かっこいい”のだそう。

先日はチャンネルのイベントがあり、せがまれて5回も連れて行きました。娘の推しの『原宿さん』の似顔絵を描いて持って行ったら、なんと本人に会えたんです。『また描いてね』と喜んでくれて、親子で感激。いまでは家族でチャンネルを見たり、時にはおそろいの服やグッズ、動画に登場したゲームを買ってあげることもあります」

推しを子供や孫のように育てる感覚を持つ人が多い(写真/PIXTA)
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老若男女が推し活に励む中、推しへの思いは年齢層により異なる。

「子供は推しを友達のような身近な存在として感じ、作品や動画の中で自分に置き換えてまねをして親しみます。思春期以降になると“自分も推しのようになりたい”という憧れやロールモデルとして推しを見る。

そして中高年やシニアは、推しを子供や孫のように育てる感覚を持つ人が多いのです」(熊代さん)

旧ジャニーズやタカラジェンヌなど、デビュー前や直後から、スターダムにのし上がるために成長していく姿をまるで自分の子供や孫を見守るかのように推すのが、高齢者の推し活の定番スタイルなのだ。神奈川県在住の60代女性は“親心”から推しを見つけた。

「友人の孫がアイドルのオーディション番組に出演することになったんです。よくわからないながらも応援する気持ちで見ていたら、レッスンの様子が想像以上に厳しくて。若いのにひたむきに努力して、同じ年頃の仲間と切磋琢磨している姿を見て胸を打たれました。

その子のデビューが決まったときは本当にうれしくて、涙があふれました」

アイドルや宝塚歌劇団はもちろん、歌舞伎や演歌も高齢者に人気の推し活。どれもブロマイドや専門の情報誌など、昭和の頃からの推し活のスタイルが続いているが、大相撲でも「推し活」はスタンダード。日本相撲協会公式オンラインショップには、華やかな化粧廻し姿の幕内・十両力士の総勢55名を「アクリルスタンド」にして販売している。

(後編に続く)

※女性セブン2025年12月11日号

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