【幸せの買い方】幸福度を最大化する“ハッピーマネーの法則”「家族や友人と過ごすための時間を買う」「体験を買う」「他人に投資」…推し活&SNSでコスパよく高まる幸福度

「幸せ」は目に見えないもの。量を測ることも、どれほどの対価で得られるかを知ることも、人と比べることも難しい。だが、“目に見えないのだから買うことはできない”と決めつけてはいけない。正しいお金の使い道を知っていれば、それはすなわち「幸せを買う」ことになる。貧富や収入の差と諦めずに、「幸せの買い方」を知っておこう。【全3回の第2回。第1回から読む】
心理的豊かさを求めるなら「時間」「人」「体験」にお金を使う
具体的にいま手元にあるお金の使い方をどう変えれば、幸せが手に入るのだろうか。そのひとつの指標になるのが、「ハッピーマネーの法則」だ。節約・投資系ユーチューバーで節約オタクのふゆこさんが語る。
「カナダの心理学者エリザベス・ダン博士とハーバード大学教授のマイケル・ノートン博士が複数の社会心理学研究をもとに提唱した法則で、どんなことにお金を使えば幸福度を最大化できるかを明らかにしています」
その1つが「時間を買うこと」。
現代人は誰もが忙しく仕事や家事、育児、介護などに追われ続けており、幸せを感じるだけの心の余裕を失いつつある。作家の橘玲さんが語る。
「お金持ちも、貧乏な人も、1日は平等に24時間しかありません。人間関係を維持するには時間資源を投じなくてはならず、恋人や友人に充分な時間を割けないと、関係は切れてしまう。すると、社会資本(幸せの土台の一つである家族や友人との関係)を失うことにつながってしまいます。
時間資源の制約によって、私たちは希薄な人間関係から切り捨てていくようになりました。すると最後に残るのは家族や恋人、親友などの“小さな愛情空間”。これを失うと人は孤独になり、幸福から遠ざかってしまう。幸せになるにはコスパだけでなく『タイパ(タイムパフォーマンス)』が大切なのです」

家族や友人は大切な“資本”。だからこそ、そこに使うための時間をお金で買うべきなのだ。具体的には、お掃除ロボットなどの時短家電や家事代行、ミールキット、デリバリーサービス、ネットスーパー、タクシーなどが挙げられる。
「自由な時間が増えることで家族と接する時間やリラックスする時間が増えると、幸福度が上がります。
ほかにも、“家賃が少し高くても職場の近くに住んで通勤時間を減らす”という方法もあります」(ふゆこさん・以下同)
お金に余裕がなければ、「時間を買う」のが贅沢になることもある。その場合は、「体験を買う」ことを優先したい。
モノを買った瞬間は脳内でドーパミンが分泌されて快感を得るが、ドーパミンの効果は短く、すぐに別のモノが欲しくなることがわかっている。旅行や外食などの「体験」なら、たった1回でも、そこまでお金をかけなくても、その記憶を思い出すたびに幸福感を得られる。
「“セールだから”という理由で買った服は、安さにつられて欲しいと錯覚していただけで、買った瞬間は気持ちよくても、すぐに着なくなりました。でも、店でひと目惚れして、試着して、悩み抜いて買ったワンピースは、着るたびにうれしくなって、特別な気分で外出できる。そうして思い出が増えていくモノなら、値段に関係なく幸せが持続していると感じます」

ふゆこさんのように「モノ」であっても、そこに「体験」がついてくるなら、幸せを買っているのと同義だ。拓殖大学政経学部教授の佐藤一磨さんが語る。
「iPhoneなどのガジェット、自転車、書籍など、買うのは『モノ』でも、それが『体験』をもたらしてくれるなら、幸福度は相乗的に高くなるという説もあります」
「体験」による幸せを最大化するには、できるだけ「初体験」を増やすこと。
「同じ体験を繰り返していると脳の特定の部位しか使われず、それ以外の部分が衰えていきます。特に高齢者は新しい体験をすると脳が刺激されて認知症予防になるため、年を取ってからも行ったことのない場所を旅行したり、食べたことのないものを食べるなど、積極的に新しい体験にお金を使ってほしい」(橘さん)
同じ「体験」なら、家族と出かけたり、親しい人へのプレゼントを買ったりするなど、自分だけでなく「他人に投資する」ことも意識すると、より幸福度が上がるかもしれない。
「ちょっとした金額のプレゼントでも、相手が喜んでくれるのを見ると自分もうれしくなりますよね。
以前、能登半島地震の際に寄付をしたのですが、“こんな自分でも世の中に少しは貢献できた”と感じられ、心に余裕ができました。他人への投資はとても有意義で、幸せが循環するお金の使い方です」(ふゆこさん)
「推し活×SNS」で幸福度がアップする理由
わかりやすい例が、近年すっかり市民権を得た「推し活」だと、橘さんは言う。
「応援しているアイドルが有名になったり、サポーターになったスポーツチームが優勝したりすると、自分のことのように喜べます。しかも最近はライブ会場やスタジアムに行かなくても、配信や中継で推しの姿を見ることができる。中にはものすごいお金をかける人もいますが、推し方次第ではコスパよく幸福度を上げられるでしょう」(橘さん・以下同)

社会的な動物である人間は、推しの勝利や活躍を自分のことのように喜ぶことができ、これを「アイデンティティー融合」の能力という。
「旧石器時代の人間が最初にアイデンティティー融合したのは自分の家族で、これは生き残るための戦略でした。やがて社会が発展すると、融合する対象が宗教、国家と広がっていき、平和で豊かな世の中になってからは、誰もが自分の好きな個人や集団に自由にアイデンティティー融合するようになった。自分が成功しなくても、推しの成功に融合することで、幸福度を上げられるのです」
近年は、推し活の様子をSNSにアップしたり、そこから新たなコミュニティーを見つける人や、その中で人気を集めて“一目置かれるファン”になる人も増えている。橘さんによれば、SNSを活用して評判を獲得することも、幸せを買うための投資になりうる。
「私たちの脳は進化の過程で、共同体の中で高い評判を得ると幸福度が上がるように“設計”されています。
SNSが登場する前は、他者からの評判を得るために、ブランド品に身を包み、タワマンに暮らすような“幸せアピール”をしなければならなかった。これを『顕示的消費』といいますが、SNSが評判を可視化させるようになったことで、基準がお金から“フォロワー数”に変わりました。するともはや、大枚をはたいてハイブランドを買いそろえることに意味がなくなってきた。これは人類史的な変化だと思います」
金額にかかわらず、自分の熱量をSNSで発信することで、同じ趣味の仲間とのつながりや、他者からの評判も得ることができて、これが幸せにつながる。
「例えばサッカーのサポーターの中でもっとも高く評価されるのは、SNSで戦術を語ったり監督や選手を批判することではなく、アウェーのスタジアムまで遠征して、ゴール裏で応援することです。匿名掲示板に好き勝手なことを書いているのとは違い、“推し”のチームのためにお金と時間というコストを払っているからです」
「体験」と「他者からの評価」を同時に満たして幸福度を上げられる推し活は、現代人の“新たな生存戦略”なのかもしれない。
(第3回に続く。第1回から読む)
※女性セブン2025年3月20日号