故人の記憶や感情、思考がすべて記録されている場所
では、“あちらの世界”とは何か。死んで肉体が滅んだ後、人の意識はどこに行くのだろうか。
意識研究は21世紀に入ってから盛んに行われるようになり、量子科学や脳科学などさまざまな仮説をもとに研究が進められている。
「近年、有力なのは、意識や記憶は脳の中だけでなく、それを超えたところにあるのではないかという仮説です。前世や臨死体験の記憶の存在から、そう考えなければ説明できないことが多いためです。
前世の記憶を持って生まれてくる子がいるということは、肉体が滅んだ後も記憶が保存される場所が存在しているのではないかと考えるのです」
その“場所”とはどこにあるのか。大門さんによれば、考えられる説は大きく2つ。
「1つが、肉体を失った後、いわゆる『魂』が記憶を保存し続けている可能性。もう1つは、過去の人物の記憶や感情がすべて記録されている『アカシックレコード』のような場所があり、なんらかの理由でそこに接続した人が前世の記憶を持っているという可能性です。いずれにせよ、極めて信憑性の高い『前世の記憶』を持つ人が数多く存在しているという事実は重要だと考えます」
その場所は「肉体の外」にあるとするのが、最新の量子科学での仮説だ。
「物質世界とは別に虚の世界や余剰次元、地球磁場圏などと呼ばれる場所に存在する粒子が、人間の記憶や意思などの情報を保持しているという説です。この情報は宇宙のどこかに、目に見えない形で存在していると考えられる。つまり、宇宙そのものは情報で満たされていて、私たちはその一部を借り受けて生きているのです。私たちの魂の情報は、宇宙を構成する巨大な情報場の一断片として存在していると、私は考えています」(池川さん)
東京大学工学博士で近著『死は存在しない』の著者の田坂広志・多摩大学名誉教授が、「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」について説明する。
「すべての宇宙空間には『量子真空』と呼ばれる、膨大なエネルギーに満ちた場が存在することが、科学的に証明されています。そしてその量子真空の中に『ゼロ・ポイント・フィールド』と呼ばれる場があり、そこに宇宙のすべての情報が記録されているという仮説が提唱されているのです」(田坂教授・以下同)
つまり、故人の記憶や感情、思考はすべて「宇宙空間」に記録されているということ。その仕組みについて、田坂教授が続ける。
「この宇宙では、物質も、生物も、意識も、その実体は原子よりも小さな『素粒子』なのです。それらはエネルギーの波動を出し続けており、その波動は量子真空の中に半永久的に記録されているため、故人の記憶や感情、思考も波動として記録されている可能性がある。つまり、『ゼロ・ポイント・フィールド』こそが、死後の世界の正体かもしれないのです」
この世に生きたすべての人の意識の記憶、つまり感情、思考、知識は、ゼロ・ポイント・フィールドに波動の形で半永久的に記録されているということ。田坂教授によれば、音や光の波が互いに影響を与え合うように、故人の意識の波動もほかのあらゆる波動と互いに影響し合いながら変化していく可能性があるという。
「ゼロ・ポイント・フィールドに記録されている情報は、常に互いに影響し合い、変化している。つまり、死後、私たち一人ひとりの個的な意識がそのまま残り続けるのではなく、ゼロ・ポイント・フィールドという1つの大きな“記憶”に、包摂されていくのでしょう。
一方、今世を生きている私たち自身の個的意識も、素粒子的なレベルでゼロ・ポイント・フィールドとつながっていると思われます。そのため、フィールドに残っている故人の意識の情報がいまを生きるわれわれに伝わる可能性は充分に考えられます。すると私たちは、その故人の記憶や感情を感じ取り、“この記憶は自分の前世のものだ”“故人と対話した”と感じるのではないでしょうか。それが『転生』や『霊媒』といった現象の正体と考えられます」

この仮説が正しければ、前世の記憶や臨死体験、お迎え体験、また「遠方の父が亡くなった日の夜、枕元に父が立った」といった現象にも説明がつく。
かつてはオカルトやファンタジーだと考えられていた現象が少しずつ解き明かされようとしているいま、産婦人科医の池川明さんは「重要なのは、“ウソか本当か”“信じるか、信じないか”よりも“その体験から、何を考えるか”」だと話す。
「例えば、日本人は誰かが亡くなると『ご冥福をお祈りします』と言います。冥福とは、死後の幸福のこと。死後の世界や転生をおとぎ話だと思っている人でも、この言葉を口にするときは、亡くなった人の肉体が滅びた後も魂や記憶は残って、幸せでいてほしいと感じているはず。こんなふうに、人の魂を大切にする心こそが大切だと、私は考えます」(池川さん・以下同)
死後の世界は信じられなくても、「人の心=魂」の存在を疑う人はいない。
「自分の前世や亡くなった人の記憶に触れる体験があったら、その体験をした自分の魂を見つめ直すチャンス。心理学的には『メタ認知』といい、自分の心を客観視して、本心に従うということです。
“前世”での後悔を繰り返さないよう、また亡くなった人の思いを受け止められるように自分の魂と向き合えば、よりよい生き方につながるはずです」
前世の記憶を死後の世界からのメッセージだと捉えれば、いまをどう生きるかが見えてくる。
「すべての記憶が宇宙に残るとすれば、いまの自分の生き方や感情、思考も、次の世代の誰かの意識につながり、伝わるかもしれない。もしそうなら、われわれは、後悔や不安、怒り、憎しみなどの否定的な感情や思考を抱いて死を迎えるべきではない。苦労や失敗、病気や事故などもすべてが大切な意味を持っていると捉え、自分の人生を全肯定することが、未来の世代にいい影響を与えていく究極の終活なのです」(田坂教授)
死はあくまでも「今世」の終わり。あなたの死後も、あなたの生きた証は永久に残り、次の世代の誰かに届くはず。一人ひとりがいまを幸せに生ききることが、今世に生まれた私たちの使命なのかもしれない。



※女性セブン2025年12月18日号