健康・医療

《国立がん研究センター「がん5年生存率」最新データを発表》症例数の大幅増加などで“より実態に近い数値”に 分子標的薬などの新薬導入で、肺がんや多発性骨髄腫の生存率が改善 

最新データでがんの新事実が明らかになった(写真/PIXTA)
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 2人に1人が罹患するといわれるがん。医療技術の発展や新薬の研究などにより、かつての「不治の病」というイメージは薄れ、「がんサバイバー」という言葉が一般的になるなど、いまや「がんと共存」する時代になっている。しかし、がんといってもひとくくりにはできない。がんが発症した部位、そして発見したタイミングによって運命を大きく分けることになる。最新データで明らかになったがんの新事実を紹介する。【前後編の前編】

 11月19日、国立がん研究センターは2012〜2015年にがんと診断された患者の5年生存率を発表した。5年生存率とは、がんと診断された人が診断から5年後に生存している割合を示す。44都道府県の約254万7000件を対象にしたもので、前回(2009〜2011年診断症例数を対象)の22府県、約59万2000件と比較すると症例数が大幅に増加。国際的な基準を満たすものとなったほか、今回からがん以外の死因の影響を除いて生存率を推計する「純生存率」を採用し、より実態に近い数値になったと注目されている。国立がん研究センター東病院精神腫瘍科長の小川朝生さんが言う。

「これまでの集計に比べ、やっとがん登録の体制がしっかりしてきて、信頼に足る統計データが集まる時代になったと感じます。今回も44地域で、まだ完全とはいえませんが、都道府県ごと、特に南北の地域差などを含めながら全体像が見えるようになりました。

 またこれまでは純生存率ではなく相対生存率という指標が用いられていましたが、これだと死亡ががんの影響だけでない可能性がまじってしまうことが指摘されていました。純生存率で算出したことで、がんに特化した治療効果などがよりわかりやすくなっていると思います」

 今回の集計にあわせて、国立がん研究センターでは、過去の生存率も計算方法を合わせた。それによって、都道府県ごとの比較だけではなく、過去との数値の比較も可能になっている。では254万人のビッグデータからわかったことは何か。

新しい薬で生存率が伸びた

 日本人のがん罹患者数を見ると、最も多いのが大腸(結腸・直腸)、次いで肺、胃となっている。それぞれの5年生存率を見ると大腸がん(結腸・直腸)で67.2%、肺がんは35.5%、胃がんは63.5%だ。

主ながんの最新「5年生存率」
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「肺がんは一見すると低いように思えますが、過去に比べると大きく伸びています。これは呼吸器科において分子標的薬など新しい薬が開発され、投入されている影響だと考えられます」(小川さん)

 医療経済ジャーナリストの室井一辰さんも2000年以降に分子標的薬が登場したことは大きいと話す。

「分子標的薬は抗がん剤の一種で、がん細胞だけを狙い撃ちします。肺がんや乳がん、大腸がんなどで高い効果を発揮するとされ、正常な細胞へのダメージも少ないため従来の抗がん剤に比べ、副作用の負担が軽いといわれる。2000年以降にこの分子標的薬が使用され始め、これまで治らなかったがんがかなり治るようになりました」

 薬が生存率に与える影響は分子標的薬だけではない。

「今回のデータを見ると、肺がん以外でも、多発性骨髄腫や悪性リンパ腫、前立腺などの生存率が改善していますが、これも新薬によるものと考えられます。多発性骨髄腫だとボルテゾミブやレナリドミド、悪性リンパ腫だとリツキシマブ、前立腺ではホルモン療法も向上し抗アンドロゲン療法なども出てきています。

 2014年からは分子標的薬でもニボルマブなど免疫チェックポイント阻害薬という、免疫細胞を活性化させる薬が登場するなど固形がん(血液がん以外の総称)に効果のある薬が次々と登場しています」(室井さん)

女性は大腸がんに注意
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女性に多いのは乳がん
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(後編に続く)

女性セブン20251218日号

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