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映画『栄光のバックホーム』秋山純監督は「映画という世界でもう一度横田さんが生きる」ことを強く意識、主演・松谷鷹也は「横田さんの生身の人生をきちんと伝えたい」

脚本が完成したときすでにホスピスに

 映画製作をスタートしたのは2021年。横田さんが亡くなる2年前のことだ。横田さんは、2020年に脊髄の腫瘍が見つかり、治療を続けながらも講演会などを通じて、多くの人へメッセージを送っていた。

「コロナ禍だったので、リモートなどで直接打ち合わせをさせてもらっていました。本当に誠実で、気配りの人。体調も万全ではないのに、こちらのことをいつも気遣ってくれました。

 鷹也が野球の練習を始めたことを伝えたらすぐに自分で使っていたグローブをプレゼントしてくれて。横田さんが人から愛されるのがすごくよくわかりましたね」(秋山さん・以下同)

横田さんを支えた家族は高橋克典、鈴木京香、山崎紘菜が演じる
写真3枚

 当初の脚本では、横田さんが奇跡のバックホームを決め、講演活動に入るところで幕が閉じる予定だった。しかし、2023年7月、同年の阪神優勝を待たず、横田さんの人生の幕が閉じる。

「脚本が完成したと連絡したとき、横田さんはすでにホスピスに入っていて、もう言葉も交わすことができない状態でした。そうして2か月も経たずに旅立ってしまった。そうである以上、横田さんが生きた人生を描ききるために、脚本を改訂することに決めました。すぐに横田さんの母・まなみさんに再取材をして、『栄光のバックホーム』という書籍を刊行し、その2冊をベースに撮影することになったんです。

 まなみさんは息子が亡くなった直後にもかかわらず“息子のことをみなさんに知ってもらえるなら”と横田さんの葬儀を終えた直後から取材に応じてくれました。原作脚本の中井由梨子さんが『栄光のバックホーム』を書き上げたのは、まなみさんの誕生日でした」

 松谷も重ねる。

「横田さんが残した輝かしい活躍を知っている人は多くても、引退後の講演活動や闘病について知っている人は少ない。横田さんの生身の人生をきちんと伝えたいと思いました。横田さんだけでなく、ご家族や監督、コーチなど周りにいる人全員がただ懸命に生きていることが伝わればこんなにうれしいことはないです」

 ひたむきに人生を生きる、ただ一途に息子を応援する、仲間を想う——映画を見終わったとき、流れるのは涙だけではない。この先の人生をまっすぐ歩くための一筋の希望の光だ。

女性セブン20251225日・202611日日号

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