
目撃情報がいまなお相次ぐクマとの距離が、この冬は一層近くなりそうだ。2025年12月8日、新潟県加茂市で住宅の床下に潜んでいた子グマが駆除された。高さ約40cmのわずかな隙間で、冬眠の準備を進めていたとみられている。本来、山で冬眠するはずのクマが、なぜ床下を選んだのか。岩手県宮古市議会議員で、マタギ歴25年の西村昭二氏が解説する。
「近年は街に近い場所で生まれたクマが増えており、なかには山を知らない個体も出てきています。彼らにとって山は未知の世界で怖い場所。生活し慣れたエリアの空き家や民家の床下を冬眠場所に選ぶのは自然な行動と考えられます。この冬、街中で冬眠するクマが増えたとしても不思議ではない状況なのです」(西村さん・以下同)
おせち料理を囲むリビングの下にクマが寝ていると想像しただけでも恐ろしい。市街地での冬眠はより危険性をはらんでいるという。
「騒音や刺激でストレスを感じて目を覚ましてしまった場合、新たな冬眠場所を求めて歩き回ります。私たちはこの行動を“床替え”と呼んでいる。市街地は山よりもうるさいので、目を覚ます個体が多くなると考えられます。
床替え中のクマは安心できる場所を探しているわけですから、人間との鉢合わせに驚いて、襲いかかってくることも考えられます。現在目撃されている個体は冬眠に備え餌を求めているクマだと思われますが、年明け以降は床替え中のクマが動き回る可能性もあります」

環境省によれば、2025年度のクマによる被害者数(11月末時点)は過去最高の230人で、13人が死亡。2025年10月に温泉施設の従業員を襲ったとみられるクマの胃袋からは、人間の髪の毛や肉片が確認されており、「人食いグマ」の存在も明らかになった。そしてなかには、身を隠さずに冬眠するクマもいる。
「床替え中のクマが、移動しながら浅い眠りにつくことがあるんです。そのタイミングで寒波がくると、穴などに身を隠すことなくそのまま冬眠に入ってしまう。私たちは“ゴロ寝グマ”と呼んでいますが、山のなかで気づかずに体を踏んでしまうことがあります。
街中でも同じことが起こるかもしれません。ちょっとした茂みや建物の陰で、ゴロっと冬眠しているクマがいるかもしれない。被害に遭わないためにも、この冬は冬眠中のクマが近くにいるかもしれないと注意する必要があるのです」
クマとの遭遇は地方に限った話ではない。2025年は東京都の青梅市や八王子市での目撃が相次ぎ、多摩川沿いに世田谷区内にクマが出る可能性も指摘されている。
「多摩川沿いの河川敷は草木が生い茂っていて、身を隠して移動するには最適な環境だと言えます。餌を求めて市街地に出たクマが、そのまま都会の街中で冬眠することも考えられます」
クマパニックはまだまだ終わらない。
※女性セブン2026年1月8・15日号