
メジャーデビュー15周年を迎えた、シンガーソングライターの高橋優。12月26日からは最新ベストアルバム『自由悟然』を携え、全国ツアーがスタートしている。ツアー先では必ずご当地スーパーマーケットへ立ち寄り、今秋はレシピを考案したスパイスカレーを食のイベント「音食キッチン in OSAKA」(大阪グルメEXPO)に出品するなど、食に対する感度が高い高橋に地方公演での食生活を訊いた。
ツアー中にご当地グルメを食べる
「かつてはツアー中に食事制限を貫いていたんですが、最近考えが変わったんです。一緒にツアーをまわってくれるバンドメンバー、ドラムのDUTTCHさんに影響されました。DUTTCHさんは東京では健康管理をしっかりされているけれど、『地方へ行って、その土地のものをカラダへ入れることはとってもいいことだよ』とおっしゃっていて、メンバーたちとご当地グルメを楽しまれている。その姿を見ているとだんだん考えがあらたまって、僕も食べたくなってきちゃって(笑)。
郷土料理をおいしくいただいてライブで報告すると、“あぁ、食べてくれたんだ!”と、地元のお客さんも笑顔で反応してくださる。そんな会話ができるだけで、仲良くなれたような気持ちになるんです。心の交流ができて、会場の空気もグッとあたたまる。いまではその土地で唄うことだけでなく、食べることも、大切にしています」(高橋、以下同)
2026年7月まで行われる「高橋優 15th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE TOUR 2025-2026『自由たる覚悟、然として奏ず』」ツアーでは、28か所30公演が予定されている。今回ライブで訪れる都市の中から、“高橋優の心に残る地方の名店・三選”を挙げてもらった。
地元・秋田にある「稲庭うどんの名店」

◆その一
秋田『稲庭うどん 佐藤養助商店』
ツアーの出発地であり、自身の出身地である秋田から、稲庭うどんの名店をチョイス。お気に入りは醤油つゆと胡麻味噌つゆの二種類が味わえる、「二味せいろ」。
「佐藤養助商店さんは、稲庭うどんを全国へ広めた名店。東京でも展開していますし、郷土の味をぜひ全国の皆さんにも知ってほしい。僕、うどんがとにかく好きなんです。讃岐うどんなどコシのあるうどんも魅力的ですが、個人的には伊勢うどんや博多うどんなど、やわい系が好み。稲庭はコシとやわの中間で、そこがなんか秋田っぽくて愛おしくもあり(笑)。
『二味せいろ』の自分流の食べ方として、まずは麺をそのまま。次に醤油たれから胡麻味噌たれ、ここで薬味のネギを入れて、さらに七味をかけて……と重ねて、最後は醤油と胡麻味噌のたれをミックスして味変したりして。グラデーションさせて食べるのが、こだわりです」

うどん愛を熱く語るが、子ども時代には稲庭うどんよりも、出身地・横手市の「横手やきそば」のほうが身近だったそう。
「稲庭うどんは地元ではちょっと高級なうどんの印象がありましたし、札幌で過ごした大学時代は貧乏学生で手が届かなかった。ミュージシャンになって上京して、ちょっとずつお金を稼ぐようになってから、秋田へ帰ったら“稲庭うどんだな”って。なじみになったのは、わりと最近なんです。大人の食べ物、上品なイメージが僕はあります」
路上ライブ時代の想い出!「札幌のスープカレー」

◆その二
北海道・札幌『CURRY SHOP エス』
路上で弾き語りをしていた学生時代に通った、想い出のスープカレー。お気に入りは「タンドリーチキンと野菜のカレー」。
「路上ライブで少しだけお財布が潤っている時に自分へのご褒美に行く、学生時代の高級料理でした。北海道には“シメパフェ”など独自の食文化がありますが、当時スープカレーが話題になり始めて、現地でエスさんやマジックスパイスさんの名前が挙がっていたんですよ。エスさんへはたまたま入ったのがきっかけで、ハマりました。『タンドリーチキンと野菜のカレー』は看板メニューで、僕はアスパラ、ひきわり納豆、オクラをトッピングして、しょうがスープもつけます。辛さも選べて、無料で選べる最高くらいまで辛くして。ライブの前など声を使う前には控えますが、実は辛い物好きなんです」
このエスは、路上ライブをしていた繁華街・狸小路にあり、ライブ後にギターを背負って食べに行くのが楽しみだった。札幌でスカウトされ、メジャーデビューして15年。いまでも変わらず通い続けているという。
「本当にありがたいことにお店に僕のサインを飾ってくださったりして、高橋優の曲を聴いてくださる方も、足を運んでくださっているんです。ツアー中に訪れるとライブに遊びに来てくれたお客さんで満席で、“あれっ、俺が入れない” みたいなことも(笑)。嬉しい悲鳴でタイミングをうかがいながら、通い続けています」
恋敵が現れた福岡の「いか活造り」

◆その三
福岡・天神『割烹よし田』
1963年創業、一子相伝の秘伝たれでいただく鯛茶漬けが名物。お気に入りは「いか活造り」。
「メジャーデビューした直後にキャンペーンで博多を回り、レコード会社の人に連れてきてもらったんです。鯛茶漬けが絶品なんですが、度肝を抜かれたのは『いか活造り』。 透き通ってるし、イカが皿の上で動いているなんて見たことがなかったから、もうびっくりして“えーっ!!”って(笑)。刺身はねっとりとして、甘くて……。それ以来、博多を訪れるとよし田さんの鯛茶漬けとイカが、お約束になったんです」
近年、イカとの蜜月に割って入る“恋敵”が現れたと明かす。
「顔が似ていると時々言われる、wacciボーカルの橋口洋平くんです。彼もレコード会社の人に紹介されてよし田さんへ通っていて、ある時、鯛茶漬けを食べていたら、イカが出てきたんですって。でも彼の定番はイカではなく、エビだったらしく……(笑)。びっくりしながらもおいしく食べていたら、しばらくしてお店の方が橋口さんだと気付かれて“あれっ、高橋優じゃないかも”という空気になったと、すごく哀愁たっぷりに話してくれたんですよ。そのエピソードに大笑いして、福岡のライブで話したらお客さんも面白がってくれて、これはシリーズ化したいなと。
”イカの恋敵”との決着はイカに

その後wacciが大活躍して、『自分が橋口とわかったうえで、イカを出してくれるようになりました』と、嬉しそうに写真が送られてきまして。そこで僕も、Wacciの『別の人の彼女になったよ』になぞらえて『別の人のイカになったよ』と言ってみたりして。でも、イカの高橋優としては、さみしいじゃないですか。だったら自分もと、ひとりで行ってみたら、鯛茶漬けしか出てこなかった(笑)。気付いてほしいなんて奢り高ぶりがあったと反省しましたし(苦笑)、完全に別の人のイカになったなと」
決着をつけるべく今春、高橋の「ARE YOU HAPPY?」ツアーで博多を訪れた折に、橋口とふたり揃って来店してみたそう。
「“ふたりで食べに行ったら何が起こるんだろう? 何も起こらなくても、鯛茶漬けを楽しんで帰ってくればいいよね!”と出かけたら、イカもエビも登場。なんなら店長さんまで出てこられて(笑)、ツアータイトルよろしく、ハッピーエンドに完結しました」
今回の15周年ツアーには、新しい物事が始まることを意味する“黎明”のニュアンスが込められている。最新曲のタイトルでもあるこの言葉にかけ、「秋田、北海道、福岡はもちろん、それぞれの土地でまた新たな食との出会いを見つけていきたい」と、声を弾ませた。
取材・文 渡部美也