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「満開の日曜日でも数えるほどしか人がいない」東京・駒込の“桜の大名所”でオバ記者が実感した“人の命の儚さ”と“少子化”

桜の名所について綴る(写真/イメージマート)
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 日本の春といえはお花見。桜の名所は数多くあるが、中にはお花見スポットになっていない知る人ぞ知る場所もある。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、とある桜の名所について綴る。

とっておきの桜の名所、東京・駒込の「染井霊園」

 桜といえば、お酒・ツマミ・ゴザ・場所取り。そんな時代もあったわねぇ……と遠い目になる私。

 桜の下で飲めや歌えができるのは若いからで、それだって酒の上の失敗と背中合わせだ。で、どんな失敗かって? はい、暴言・失言・道路で大の字──あとは忘れました! しかしそれもこれもトイレが近くなってからは万事休す。屋外で冷たいビールなんか飲めませんて。

 だからといって、花見をしないかというとそんなことはない。私が40才から55才まで住んでいた東京・駒込はソメイヨシノの発祥の地だったのよ(編注・諸説あり)。江戸末期、駒込は染井村といって植木屋が多かったんだって。その中のひとりの植木屋さんが、交配させて見目麗しい花が咲く桜を生み出した。いま全国で見られるソメイヨシノはそのクローンなんだって。

花見をする人が少なかった(写真/イメージマート)
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 でね。実はその駒込に私が毎年必ず足を向ける、とっておきの桜の名所があるの。それは駒込駅から徒歩12分の「染井霊園」。なんたって桜の里としての由緒正しさはピカイチだし、それに加えて、墓地としても一流よ。明治7年、大名屋敷の埋葬地を東京府が公共墓地にして、やがて都営墓地になった。なのに、同じ歴史をたどった青山や雑司ヶ谷と比べると面積はダントツに小さい。ひと回りしたところで大したことはないんだよね。

 だけど、埋葬されている人がタダモノではない。テレビ界のレジェンド、黒柳徹子が『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演依頼さえできなかったという、作家の白洲正子さんの祖父で明治の海軍大将だった伯爵樺山資紀や、岡倉天心、高村光太郎。それぞれの墓石が「なるほどねー」と言わずにはいられない風格があるんだわ。で、極め付きが水戸徳川家墓所よ。これはもうただの墓地ではないね。どこぞのお屋敷?と思うほど大きな門構えがあって、奥をのぞくと水戸徳川公爵家や府中松平家の江戸期の墓がある。徳川斉昭の生母や徳川昭武の生母、側室高橋悦子の墓もあるんだから、もうここだけで大河ドラマよ。と、そんな歴史探訪に興奮しようがしまいが、ここ以上にソメイヨシノの大木があちこちで枝を伸ばしているところを私は知らないんだわ。

桜の大名所なのに人がいない

 で、ここからが大事なんだけど、桜の大名所なのに人がいないの。満開の日曜日だって、すれ違う人は数えるほど。耳をすませば風の音と小鳥の鳴き声。桜の花びらがふわりふわりと舞う。これを幽玄と言わずしてなんと言おう、よ。だからあえて言うけど、こういうところは誰かと来ちゃダメ。ツレがいたら、「パートがどうの」だの「孫が受験で」なんて話、聞かなくちゃならない。そうしたらただの散歩になっちゃうよ。「散る桜 残る桜も 散る桜」は良寛和尚が詠んだ句だけど、アラコキ(アラウンド古希)になると、これが身に染みるんだよね。この墓の下に眠る人もこの世の盛りがあって、怒って泣いて喜んだんだなと実感するの。

 というのも、つい半月前、くも膜下出血で年下の身内が急逝したのよ。「あ」も「う」もない。前日、一緒に田舎でそばをすすり、冗談を言って笑って、少し先の楽しい計画を話して、「じゃあね〜」と別れた24時間後には意識をなくして集中治療室で横たわっている。そして3日後には息を引き取る。こんなバカなことがあっていいものか。身内の私はそう思ったけれど、私はただ知らなかっただけなんだよね。交通事故で即死なんてことは世の中にいくらでもあるんだ。人の命ってこんなに儚いんだな。そんなことをしみじみ思いながら桜を見上げるのはひとりに限るんだって。

 でもこれもご時世だね。

 由緒正しい染井霊園も墓石が隠れるほど雑草が生い茂っている墓があるかと思えば、墓じまいをしたのか空き墓地が年々目立つようになったんだわ。少子化ってこういうことなんだよね。てことは配偶者も子供もいない私は、お墓どうするよ!?と急にザワザワしだした。私の年子の弟と両親は昔ながらのお墓に入ったけれど、私は墓石も戒名もなく、共同墓地に俗名を書き込むことになると思う。私の実父は墓石の石工だったのに……とチラッと思うけど、ま、しょうがないって。いや、その前に、いつ何があってもいいように、身辺をきれいにして清々しい69才にならないとね。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2026年4月16・23日号

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