
すべて想像の逆を行く男、高須克弥の破天荒な人生を描く連載『YES!逆張り人生~高須克弥物語~』! 読めば悩みが全て吹き飛ぶ、そんなパワフルすぎる人生を、どうぞご堪能あれ。
第12話:わがままから生まれた高須病院の話【後編】

「高須病院は早く治してくれる」
評判が立つのに時間はかからなかった。
「これで経営は安泰ですね」
ミユキが嫌味半分のお世辞を言うと、克弥は胸を張った。
「モータリゼーションの到来は予測できたからね。時代を読む目だよ。早い、上手い、安い、の高須病院ってね」
調子にのる克弥をミユキは無視した。しかし異変はすぐにやって来た。
「先生、どのくらいで治りますか?」
事故で骨折した患者が克弥に聞く。
「入院は1日。1週間もしたら働けるようになるよ」
それを聞いた患者はその日のうちに病室を抜け出して他の病院に移ってしまった。また入院中の老婆の家族がやって来て、「うちのおばあちゃん、あとどのくらいですか?」と聞くので、「うちで診てればあと10年は大丈夫」と答えると、「冗談じゃない! うちで死なせます」と、老婆を担いで退院してしまった。
──どうも患者が逃げる。
そう気づいた矢先に事務局長がやって来て、病院が全く儲かっていない事を告げた。
「克弥先生、いい手術をやったら儲かりません。なかなか治らない、下手な医者の方が入院日数も増えて儲かるんです。なんとか下手にできませんか?」
予想だにしなかった言葉に克弥が固まる。
「それに患者さんだって、治療が長引く方が保険金を多くもらえるって喜ぶんですよ。『高須病院は早く治す』って、悪評が出回っているんですから」
口から生まれた克弥が黙り込む。こんな克弥をミユキは初めて見た。自分が学んできた最先端技術は全て患者のためになると信じていたのに、それを全否定されている。好評だと思っていた噂が悪評だったと告げられている。克弥は反省するのか、それとも信念を貫き、貧乏を続けるのか? ミユキが固唾を呑んで見守っていると、克弥はプルプルと震え出したかと思うと、いきなり怒鳴った。
「だから田舎もんは嫌なんだ!」
「え?」
事務局長とミユキが同時に驚いた。まさかの八つ当たりである。
「僕は悪くないぞ! 日本の保険制度が悪いんだ。早く治した方がいいに決まってるじゃん! それに患者も悪い。あいつら全く医者に感謝してない。真夜中でもこっちは寝ないで治してやってるのに、悪口を言うとは、猿以下だ! 愚民め! 許さん! 僕は、僕は、感謝されたいんだ!」
──子供かよ。
ミユキは呆れた。あまりに呆れたので、お見合いをして結婚することにした。寿退社で遠くに引っ越すとなれば、誰も引き留めはできないだろうとの目論見である。
見合い相手はトヨタに勤務するサラリーマンだった。ミユキはとにかく高須病院から離れた場所に住んでいる人なら誰でもよかったので、豊田市に住んでいると聞くと、顔もよく見ないで即決した。22歳の時である。
ミユキが結婚を告げると克弥は一言、
「それは困った」
と言った。最早ミユキ以外に克弥と阿吽の呼吸で相手が出来る看護婦は誰もいなかったのである。そしてそのすぐ後、登代子から嫁入り道具一式が、トラック数台分運ばれてきた。さらに軽自動車が送られてきて、フロントガラスには大きく、「通勤用」と書かれていた。登代子得意の金にものをいわせる作戦である。
──逃がさない気か。
こうしてミユキのマイカー通勤は、選択の余地なく始まった。高須クリニック開業の1年前の話である。(第13話につづく)
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【プロフィール】
家守鷹主(いえす・たかす)/テレビ局プロデューサーとして高須克弥氏と出会い、十数年来の友人。今回、その人生を小説として描きたいと依頼したところ、高須氏は一言“YES”と快諾し、ペンネームも命名。かくして、希代の人生物語が幕を開けた。
高須克弥(たかす・かつや)/1945年、愛知県生まれ。医師(美容外科、整形外科、形成外科。学位は医学博士)。2018年に自身の全身がんを公表(発病は2014年)。
※女性セブン2026年9月10日号