「自宅で死にたい」なら介護リフォームと「つながりづくり」
2024年の生命保険文化センターの調べによれば、自分の親を介護した場所としてもっとも多かったのが「自分の家」(36.6%)、次いで「親や親族の家」(21.7%)。「民間の介護施設」が20.7%で、「公的介護施設」は13.9%と、実に6割近くの高齢者が、人生の最期を「自宅」で過ごしていることがわかる。一方厚労省の調査では、実際に最期を迎えた場所は病院が約67%で最多となっている。
自宅を選ぶなら、認知症の進行に備え、防犯・防災対策、そして孤独死対策のため、徹底的に環境を整えることが必須だ。
「自宅で24時間サポートを受けることは簡単ではなく、環境を整えないと、運動機能や認知機能の低下とともに、自宅が“危険な場所”になってしまいます。
おひとりさまの場合、けがや病気が発見されにくく、孤独死や事故死のリスクがある。老老介護だと“片方が寝ている間に、もう片方が湯船で溺れて亡くなっていた”といった事態も起きかねません」(横井さん)
リスクを少しでも減らして自宅で過ごすには、最低限のリフォームが必要だ。
「第一に、いちばん長い時間を過ごす部屋の温熱環境を整えることです。夏はエアコンで熱中症予防、冬は床暖房でヒートショック対策を。次に転倒防止。段差を減らして手すりを張り巡らせたり、解消できない段差なら一度座って乗り越えられるよう、室内にベンチを設置します。
そして、明るさの調整。部屋を移動する際に明暗に差があると、目がくらんで転倒リスクが上がるため、暗所になりやすい廊下などには人感センサーで点灯するライトをつけましょう」(山田さん・以下同)

防災・防犯のためには、文明の利器の活用が安心をもたらしてくれる。
「録画機能つきインターホンとIHクッキングヒーターは必須です。80代以降はほぼ全員が白内障を発症するため、音声ガイダンスつきにするといいでしょう。
使うと離れて暮らす家族に通知が来る“見守り機能つき電気ポット”や、話しかけるだけで家電を操作できるスマートスピーカーも有効です」
自宅のバリアフリー化にはお金がかかるが、公的介護保険により、1人あたり最大20万円までのバリアフリーリフォームが1割負担の2万円で済む。そのため、夫婦2人なら40万円分のリフォームが格安でできる。だからといって、家中いたるところをリフォームするのは老後破産のリスクを高める。
「リフォームは、しようと思えばいくらでもお金をかけられます。業者に促されるままあれもこれもとリフォームしても、終わった途端に病気になって入院を余儀なくされたり、寝たきりになったりして、リフォームした意味がなくなってしまうケースも少なくありません。安くて10万円、高ければ100万円を超える電動ベッドを買っても、すぐに使わなくなって手放したというケースもあります。ものによりますが、介護用の電動ベッドの買い取り価格は5000円程度になることもあります。安易な購入は大きな損になりかねません」(横井さん・以下同)
最期を自宅で過ごす大きなメリットに人との「つながり」がある。それを失わないためには、住環境を整えるのと並行して、家族や地域とのかかわりを積極的に持っておくことも重要。年を重ねるほど社会参加の機会は減りやすく、人生の終盤で大きなリスクにつながるからだ。
「公的介護保険のチェック項目の中でも『週1回以上外出していない』『家族以外と会話をしていない』というのは大きなリスクと考えられています」
社会参加がないと、認知機能だけでなく体力も低下しやすいため、フレイルのリスクも高まる。
「町内会のボランティアや趣味のサークルなど、自分の足で歩けるうちに、外出の機会を確保しておきましょう。能動的に外に出て、人とかかわり続けることで生きがいを得やすく、認知症を遠ざけるのにも役立ちます」(山田さん)
一見完璧な準備をしても、自宅で最期を迎えようとしたときに恐ろしいのが「介護離職による介護者との共倒れ」だ。

昨年、89才の母を看取った、山梨県のAさん(64才)が言う。
「もともと実家の近くに住んでいたので、仕事をしながら月に何度か実家に通って、母の世話をしていました。ところが、認知症が進行するにつれて徘徊が始まり、目が離せなくなってきたんです。幸い私は独身ですし、仕事を辞めてアパートも引き払って、母と同居して介護を始めたのですが……それが間違いでした。
仕事を辞めたので、先立つものは私の貯金と母の年金しかありません。家のリフォーム代や介護サービスの利用料、日々の生活費で気づけば底を突き、不要品を売ったり、私の食事を少し減らしたりしてデイサービスに通わせていたくらいでした。そんな矢先に母が亡くなり、唯一の収入源だった母の年金がなくなりました。まさか、一文無しで自分の年金生活が始まるなんて……」
「自宅を終の棲家にしても、家族を介護離職させてはいけない」と、専門家は口を揃える。
「公的介護保険にも限界があり、要介護5であっても、24時間のケアは期待できない。不足する分は家族が介護し続けるか、全額自己負担のサービスを利用する必要がある。介護離職するような事態では、その後の家族の人生設計が崩れてしまいます」(横井さん)
(後編に続く)
※女性セブン2026年10月22日号