
猛暑の中、あせもや肌あれ、蚊に刺されるなどかゆみを訴える人が増えている。命にかかわることではないけれど、地味にストレスがかかる「かゆみ」に負けないために、症状を抑える方法や予防策などを専門医に聞きました。
かゆみはさまざまな原因で生じる
「夏場はかゆみで皮膚科を受診する人が増える時期」と皮膚科医の吉木伸子さん。
「かゆみは皮膚の温度が上がると感じやすくなります。しかも今年は6月に入って気温が急上昇。暑さに体を徐々にならす『暑熱順化』ができないまま猛暑にさらされ、体調を崩す人が増えるとともに、汗がうまくかけないことが原因で、あせもになる人も多いのです」(吉木さん)
順天堂大学大学院医学研究科・環境医学研究所先任准教授の冨永光俊さんが、かゆみのメカニズムについて説明する。
「かゆみはアレルギーだけで起こるわけではなく、乾燥や汗、摩擦、薬剤、皮膚疾患、神経・内科的な病気などさまざまな原因で生じます。皮膚で放出されるヒスタミンやサイトカインなどの物質が主にかゆみ神経(C線維の一部)を活性化し、その信号が脊髄を介して脳へ伝わって『かゆい』と感じます。摩擦によるかゆみはアレルギーとは別の回路がかかわります。
乾燥して肌のバリア機能(以下、肌バリア)が乱れていると、通常は真皮内にあるC線維の先端が表皮に侵入。少しの刺激にも反応し、かゆみを強く感じるようになります(下図参照)」

【あせも】皮膚の中に汗がたまって赤いブツブツができる
《原因》
あせも(汗疹)は、汗を出す汗管が詰まり、汗が皮膚の中にたまって炎症を起こし、発疹やかゆみを引き起こす皮膚トラブルだ。

「大量の汗をかくと汗管の働きが追いつかず、あせもになりやすい。さらに、熱中症対策で外出を控えていると、たまに外に出た際に室内外の温度差にうまく対応できず、いままであせもになったことのない人にも症状が出やすくなっています」(吉木さん)
《対処法》
かきむしると症状が悪化し、細菌に感染して「とびひ」(※とびひは、正式には伝染性膿痂疹といい、細菌が皮膚に感染して起こる病気)になる場合もあるので注意。
【1】肌を清潔に保ち、市販のあせも治療薬を塗布するといい。
【2】かゆみが強い場合は、冷やすのも有効。症状がひどくなる場合は、皮膚科を受診しよう。
《予防法》
【3】快適な室温と湿度を保ち、【4】汗をかいたらこまめに拭く。
【汗かぶれ】汗の成分が皮膚を刺激して肌があれる
《原因》
汗は99%が水なので、汗そのものが原因でかゆくなることはない。
「肌バリアが乱れていると、塩分やアンモニアなど汗のわずかな成分が刺激になり、かゆみや赤みの原因になります」(吉木さん)

金属アレルギーのある人は、アクセサリーの金属が汗に反応して発症しやすくなる夏場は特に注意したい。
《対処法》
とにかくかかないこと。
【5】汗をかいたら濡れたタオルで汗をやさしく押さえるように拭きとり、肌に汗を残さない。
【6】その後はしっかり保湿をして肌バリアを整えよう。
《予防法》
【7】体をしめつける衣類は汗がたまりやすくなるので避け、通気性のよいものを身につける。
また、【8】肌に刺激の少ないスキンケア用品を選び、日頃から保湿を心がけ、肌バリアを健康に保つこと。
【虫刺され】かゆみは体の防御反応!皮膚をかけばかくほどかゆくなる
《原因》
夏のかゆみといえば蚊やブヨ、ダニなどによる虫刺されだ。
「蚊が血を吸う際に唾液成分が体内に入り、異物を排除しようとする免疫反応が働くため、かゆみや赤み、腫れが発生します」(冨永さん・以下同)
蚊に刺されると皮膚はすぐにふくらみ、かゆみが出るが、ブヨは数時間後に強いかゆみが出ることが多い。ダニはお腹や太もも、わき腹などの柔らかい部分を刺すことが多く、赤く小さなしこり発疹ができて、かゆみが強いのが特徴だ。
《対処法》
かかずにかゆみを抑えるには、冷やすといい。
「【9】虫刺され用の市販薬を常備して、かゆいと思ったらすぐに塗布しましょう。
かゆみの原因となるヒスタミンを抑えるジフェンヒドラミンなどの抗ヒスタミン成分や、スーッとした刺激でかゆみを感じにくくするメントールなどの成分入りがおすすめです」
《予防法》
【10】蚊は黒や赤などの濃い色を好むため、白系や薄い色の服を選ぶといい。虫よけスプレーも有効だ。
また飲酒している人や血液型がO型の人が刺されやすいという報告も(※京都大学の実験で、350mlのビール飲酒後に蚊に刺される率が平均47%上がるという研究報告がある。O型が刺されやすいことは、日本やスウェーデンでの研究報告にもある)。出生地については下表を参照に。

【日焼け】炎症&乾燥のWダメージがかゆみを呼ぶ
《原因》
日焼けすると、紫外線ダメージにより肌のバリア機能が低下。衣類のこすれや風、ほこりなどの小さな刺激にも敏感に反応し、かゆみが生じることがある。
《対処法》
日焼けは軽いやけどと同じ状態なので、肌をやさしく冷やして炎症を抑え、ほてりを抑えること。刺激に過敏になっているので、【11】シャワーは弱水流で、【12】保冷剤はタオルでくるんであてる。
「【13】ほてりが治まったら保湿してください。皮のむけ始めもかゆみが出やすいですが、かいたり皮をむいたりせず、保湿すると落ち着いてきます」(冨永さん)
《予防法》
【14】日焼け止めをきちんと塗り、肌が露出しない服装、日傘などで対策を。
【15】短時間太陽光にあたっただけで赤くなったりかゆみが出る場合は、日光過敏症の可能性があるため皮膚科を受診して。
【水虫】高温多湿な環境で活動が活発に
《原因》
水虫は白癬菌に感染することで起こる皮膚病。白癬菌は、高温多湿の環境を好むため、夏に悪化しやすい。
「夏に水虫になるというより、皮膚の奥に残っていた菌が夏に活発に活動して症状が出てくるため、気づく人が増えると考えられます」(吉木さん)
かゆみがなくても足指の間や足裏のただれ、皮むけ、爪が白く濁ったり、厚くなるなどの症状も。
《対処法》
【16】異常を感じたら皮膚科を受診。症状がなくなっても皮膚の奥に菌が残っていることがあるので、【17】処方薬は決められた期間使用し続けることが大切だ。
《予防法》
【18】通気性のいい靴や靴下を選び、蒸れた状態を放置しない。【19】温泉やプールでは素足歩行を避け、共用マットの使用を控える。
【20】使用後は特に足を念入りに洗い、しっかり乾かそう。
【乾燥】皮膚のバリア機能低下が炎症を!助長、かゆみがどんどん強くなる
《原因》
肌の乾燥は一年を通してかゆみの主因となる。
「乾燥といえば冬を思い浮かべると思いますが、冷房の効いた室内は乾燥しやすく、特に肌を露出している部分の乾燥は要注意。年を重ねると体内水分量が減ってしまうので、より気をつけた方がいいでしょう」(冨永さん・以下同)
乾燥して肌バリアが乱れると、ダニやほこりなどアレルゲンの影響を受けやすくなり、かゆみトラブルも生じやすくなるという。
「かくことで痛みが生じて一時的にかゆみが治まり、さらにかくと気持ちよくなり、脳内の『報酬系』と呼ばれる場所が活性化して多幸感が得られます。そのため、快楽をもっと得ようとかき続けることとなり、肌のバリアがさらに壊れていく結果、肌が過敏になって、炎症とかゆみを繰り返す悪循環(下図参照)に陥りがちです。乾燥は特に注意が必要で、改善しない限りかゆみから抜け出せません」
《対処法》
【21】冷やした保湿剤を患部にあてれば冷却効果も加わり、かゆみが治まりやすい。【22】かゆみの悪循環を断ち切るためには、充分な保湿が不可欠。自身の肌に合ったスキンケア用品を選ぶことが大切。
「【23】決してすりこまず、肌に置くように塗布してください。入浴後はタオルを押しあてるようにして水分を軽くとり、【24】少し濡れた状態から保湿剤を塗布して」
《予防法》
日頃からスキンケアをしっかり行うのはもちろん、乾燥させない生活も心がけて。

「かゆい」と思ったら、かく前にすべきこと
「かゆみが皮膚から脳へ伝わる際、信号は脊髄を通ります。この脊髄にはかゆみの信号を伝える回路と、痛みの信号を伝える回路があるのですが、最新の研究で、痛みの神経回路がかゆみの神経回路を抑えることがわかっています(下図参照)。

つまり、かゆいところをかくと、その刺激が痛みの神経回路を活性化させ、神経終末から抑制性の神経伝達物質が分泌されて、かゆみの信号が脳に伝わるのをブロックしてくれるのです。
冷やすとかゆみが治まるのも同じメカニズムです。
【25】蚊に刺されると爪で×印をつけるのも、痛みでかゆみを抑えようというものです。血が出るほど強くなければ問題ありません」(冨永さん)
【26】メントールのようにスースー感じるものもかゆみを治めるが、肌バリアが低下していると刺激が強すぎてヒリヒリすることがあるので注意して。
かゆみを悪化させない生活習慣4選
かゆみを感じていないときも、次の4つのポイントに気をつけていれば、かゆみが悪化しにくく、かゆみからの解放が早くなる。
【27】シャワーで汗を流す
汗をかいたら、外出先では汗拭きシートなどでやさしく拭き、帰宅後はぬるま湯シャワーで洗い流そう。
「ごしごし洗わず、ぬるま湯をかけるだけで充分。皮膚温が上がるとかゆみを感じやすくなるので、シャワーも湯船も湯温は38~40℃に」(吉木さん・以下同)
【28】ソープ類の使用を控える
汗を流したり、体を清潔に保つことは大切だが、石けんやシャンプーを使いすぎると肌に必要な皮脂膜まで落としてしまい、乾燥しやすくなる。
「ソープ類は1日1回まで。それでも多いくらいです」
【29】ゴシゴシこすらない
洗う際も、拭く際も、ゴシゴシこするのは厳禁。
「体を洗う際に硬いスポンジやブラシは避け、手のひらをやさしくすべらさせるように洗うこと。乾布摩擦も肌を傷つけるのでやめてください」(冨永さん)
【30】しっかり保湿する
洗った後は保湿剤を塗り、肌を健康な状態に保とう。
「かゆみがあるからと、保湿剤を奥まで浸透させようと肌をこすると、摩擦によってかゆみが誘発されるので注意して」(吉木さん)
「お風呂から出たら“洗い場”でタオルを押しあてるようにして水分を軽く拭きとり、肌が潤っている状態で保湿剤を塗り始める方が効果的です」(冨永さん)
取材・文/山下和恵
※女性セブン2025年8月21・28日号