全国の花嫁さんたちが「ヘアメイクをお願いしたい!」と熱望し、2年半後まで予約で埋まっているウエディング・ヘアメイクアップアーティストの服部由紀子さん。彼女の手にかかると、まるで魔法にかかったかのように花嫁が輝き、美しく、笑顔になっていく。その理由を探ってみました!
ごく普通の女性たちが、モデルのように美しく、輝くような笑顔になる――それが口コミで広がり、今やキャンセル待ちが殺到しているウエディング・ヘアメイクアップアーティストの服部由紀子さん。
「ヘアメイクには、その人に自信を持たせてあげられる力があります。だから、私が手がけるからには、花嫁を2倍にも3倍にもかわいくしてあげたい。『私なんて…』と、自分を卑下する花嫁に『そんな顔をしたらダメ! これだけたくさんの人が見に来ているのだから、ドヤ顔で会場に行ってらっしゃい!』って、腰をたたくんです。花嫁の美しさはメイク半分、自信半分なんです」(服部さん・以下同)
結婚式のヘアメイクは、一般的に式場付きのスタッフが担当することが多い。だが服部さんは、オファーがあれば、全国のどこにでも駆けつける。
【魔法1】スタイリングの好みよりその人の人生を知る
服部さんがこれまでに手がけた花嫁さんたちのほとんどが、服部さんのスケジュールを押さえてから、結納や式の日取りを決めている。なぜ、そこまで花嫁から求められるのか。その理由の1つに、服部さんが花嫁の人生を徹底的に大切にしていることが挙げられる。
「お仕事を始める前に、お客様を知ることが大切だと思っています。たとえば、ご両親との関係や、新郎との出会い、学生時代にどんな部活をしてきたのかなど、花嫁の人となりがわかるエピソードをお聞きします。
また、どんなかたが式に参列されるのかによってもヘアメイクは変わるので、幅広くお話をお聞きして、そこからご本人の顔のバランスと合わせてスタイリングを決めます。だから、基本的にスタイリングは私に任せていただいています」
100人いたら100通り。その人の人生を聞き、イメージを膨らませることで、オンリーワンのヘアメイクが作られていく。
「結婚式はこれまで自分にかかわってきた人に感謝を伝える儀式。だからこそ花嫁がこれまで歩んできた人生を聞いて、スタイリングを考えます。その行程を経ることで、自分たちに向き合ってくれていると、花嫁さんたちに思っていただけているようです」
【魔法2】メイクをすることでどんな人も明るく元気にできる
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服部さんは学生時代、福祉を学んだ。
「うちは堅実な家庭で、高校時代にヘアメイクの道に進みたいと言ったら両親から反対され、親の勧めで社会福祉系の大学に行きました。福祉を学んでいく中で、やけどを負ったり体の一部を破損してしまった人の皮膚の再生方法や、心のケア法などを学びました。それにより元気に明るくなっていく人の姿を見たことで、美容は老若男女に平等に与えられた究極の福祉だと思い、それを美に生かせないかと思って」
在学中もヘアメイクの道をあきらめきれず、独学で勉強を続けていた彼女は、アルバイトで入ったカメラスタジオがウエディングを手がけていた縁で、卒業後は結婚式場に就職。式場のヘアメイクの仕事を1年半ほどした後、自らのヘアメイクスタジオを立ち上げた。現在は彼女の下で10人のスタッフが働いている。
【魔法3】ヘアメイクが気に入らなくて悔やむ花嫁をなくしたい
服部さんを指名する人の中には、これから式を挙げる人以外に、過去に式を済ませたものの、写真を撮り直したいと訪れる人も多い。
「式場でヘアメイクをしてもらい、専属のカメラマンに撮影してもらうのがこれまでは普通でしたので、花嫁の中には、仕上がりが気に入らず、うつ気味になってしまった人もいるんです。何百万円もかけて準備してきた晴れの舞台ですから、ダメージも相当大きいんですよね。
式が終わって新しい暮らしが始まると思ったら、ずっとふさぎ込んでいて、『もう一度、きれいな姿で撮り直したい』とおっしゃるお客様がいました。そこで、ご依頼を受け、私たちがヘアメイクを行い、撮影をしたら喜んでくれて『本当の意味で、結婚式を終えることができた』と、新郎からも感謝されたこともありました」
金銭的な問題など何らかの事情で結婚写真を撮れず、後から写真を撮る人や、銀婚式などを迎える両親のために、子供たちから依頼を受けることもある。
「娘さんからの依頼で、ご両親の銀婚式の写真を撮ったこともあります。ご主人様には大正ロマン調にハットをかぶっていただき、奥様にはクラシカルなドレスに合わせたメイクをしたら、とても喜んでいただけました」
【魔法4】年齢にはとらわれない、とらわれてほしくない
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服部さんはあえて年齢を公開していない。それにはきちんとした理由がある。
「日本人の性質なのか、年齢が1才違っただけでも見る目が変わることがあるんです。花嫁の年齢は幅広いのですが、私は花嫁の近くで寄り添って、何でも頼れるお姉さんでいたいので、私が年上だから、年下だからといって遠慮してほしくないんです。だから、年齢はあえて公開していません。結婚式が終わってから話すこともありますが、皆さん、驚かれますね(笑い)」
信頼関係を築いているので、年齢を知った花嫁たちも他言することはない、と服部さんは言う。依頼を受けたその日から式が終わるまで、徹底的に花嫁の心に寄り添うため、式が終わると思わず涙で花嫁とハグをすることも多い。そんな服部さんを慕う女性が、今も増え続けている。
「結婚式が終わった花嫁のことを“卒花”と呼ぶのですが、卒花さんたちが集まってオフ会をしていて、それを通称“服部チルドレンの集まり”っていうそうです(笑い)」
その会には、服部さんもたまに顔を出す。式の後もつながりが途切れることはない。
【魔法5】アクセサリーひとつで女性のイメージは変わる
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服部さんは、衣装や装飾品のブランドには、こだわらないという。
「自分が納得していいと思ったものだけを使用しています。ヘアスプレーなどは気に入ったものがなかったので、工場にかけ合い作りました。きれいなメイクが作れるものであれば、ドラッグストアで売っているプチプラの化粧品でも構いません」
一方で、ヘアアクセサリーにはこだわっており、イタリアやスペイン、ニューヨーク、ロンドンのアクセサリー職人に直接依頼し、オリジナルを作っている。
「アクセサリーの重要性を知ったのは、まだ駆け出しのころですね。ご病気で髪の毛が生えない女性を担当したことがきっかけです。ウイッグで髪をアレンジしようとしても不自然になるので、髪にアクセサリーをつけたら、『こんなに素敵に変われるんだ』と泣いて喜んでくださって。その時、アクセサリーの重要性を感じ、毎回アクセサリーの新しいデザインを考えています」
和装に花をあしらったヘアスタイルにしたり、ドレスにターバンを合わせてみたり、毎回、斬新なアイディアを取り入れている。現在は、生まれ育った名古屋を中心に全国を飛び回る日々だが、近々東京にもサロンを開く予定がある。休みはほとんどなく、朝10時~夜10時頃までみっちり仕事をこなしている。家に帰ってからは、テレビを見ながら15分かけてメイクを落とすのが日課だが、そのプライベートは謎に包まれたままだ。
「できればユニコーン的な存在でいたいんです。あまりプライベートも明かさずに、謎に包まれたままでいたい。その方が夢のある仕事ができると思うので」
そんな仕事熱心な服部さんの根底にあるのは、福祉への思いだという。
「いずれは学生時代に学んだ再生メイクや認知症患者さんのためのヘアメイクなどを手がけたいと思っています。ヘアメイクを通じて、たくさんの人に幸せになってほしいんです」
スタッフの面接でも福祉に対する思いを聞く。それはヘアメイクひとつで人の気持ちが変わるから。その思いを胸に、服部さんは今日も花嫁を笑顔にしている。
服部さんがこれまで手がけたヘアメイク集
「格式の高いホテルでの結婚式だったので、会場の雰囲気に合わせてヘアを作りました。天井が高く、シャンデリアもあったので、頭の下の方にボリューム感を出しています」(服部さん・以下同)
「結婚式の前に撮った写真(以下、前撮り)です。東京駅から丸の内界隈のレトロな建物の前で撮りたいという希望があったので、街並みに溶け込むように、手ぐしでふんわりと仕上げています」
「こちらも前撮りです。式場でのウエディングと違って、ファッション性を楽しみたいというリクエストで、髪を下ろしたダウンスタイルに。きちんとしたスタイルを保ちつつ、カチューシャやバングルで遊び心を出しています」
「結婚式後の後撮りをパリで行い、ヨーロッパのデザイナーが作った立体的なドレスを使用。あえて髪は粋な感じにしました」
「和装もヨーロッパの雰囲気を出すため、ウエーブを入れて個性を出しています」
「式で2回白いドレスを着たので、差をつけるために2回目は大きいアクセサリーを前側につけました。写真をインスタグラムにアップしたら全国の美容師さんから問い合わせがあり、全国的な流行に」
ウエディング・ヘアメイクアップアーティスト:服部由紀子さん
愛知県名古屋市出身。大学で社会福祉学を専攻しながら、独学でヘアメイクを学ぶ。式場勤務を経て、ヘアメイクアーティストとして独立し、ヘアメイクサロン『Ceu(セウ)』を設立、代表に。
撮影/田中智久 写真提供/『Ceu(セウ)』
※女性セブン2019年3月21日号
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