通常、食事をして胃が満たされると視床下部の中にある満腹中枢が食欲を抑え、食べすぎることはない。しかし、脳はしばしば“ニセの食欲”にダマされる。
食べることによって“幸せホルモン”とも呼ばれる脳内物質「セロトニン」が分泌されるため、その時の心地よさを脳が覚えてしまうと、空腹ではないのに“ニセの食欲”がわいてきて、食べすぎてしまうのだ。
【1】部屋の掃除をすることでダイエットに
食欲が空腹以外の要因に支配され、脳が簡単にダマされていたことには驚いてしまう。しかし一方で、この仕組みを逆手に取って食欲を抑え、体が本当に必要としている分量だけを摂取できるようになれば、必ずやせられるということでもある。
ここからは自らの脳をコントロールし、食欲を抑えるための実践的な方法を紹介していきたい。ダイエットカウンセラーの細江啓太郎さんは、「ダマされたと思って部屋の掃除をしてみてほしい」と言う。
「実は、効果が大きいのが掃除です。例を挙げると、私の相談者のなかに、食生活はきちんとしているのに、どうもうまくダイエットが進まないという女性がいた。首をひねりながらカウンセリングをするうちに、部屋が汚れていてテーブルはほこりだらけ、それでも気にしない性格だということがわかったんです」
そこで、細江さんは1日3分でもいいので、部屋の掃除をしてみるようアドバイスしたという。
「するとすぐに体重が落ち始め、3か月で3kgやせたんです。それまではものが多くてごちゃごちゃした中で動くのがおっくうで、ストレスもためがちだったのが、少しずつ家がきれいになっていくにつれ、ストレスがなくなったうえ、外に出て活動的に過ごそうという気持ちになったのが要因のようです」(細江さん)
このようにストレスがダイエットの最大の敵であることは、今や専門家たちの共通認識。
【2】食べること以外に楽しみを見つける
脳科学専門医の山下あきこさんも、ストレスが過食を招くことを念頭に「1日に1つでも、食べること以外に楽しみを作るべき」とアドバイスする。
「好きな香りの入浴剤でゆっくりお風呂につかったり、アロマを楽しんだりするのはおすすめです。ほかにも、好きな音楽を聴くことや、公園などで緑を見ながら歩くこと、友達とのおしゃべりで笑うのもセロトニンが分泌されてストレス解消になります。お気に入りの方法を決めておくと“食べる快楽”に頼っていたストレスが解消されるので、無駄にものを食べなくなります」
食べること以外で副交感神経を優位にする方法を知っておくことも有用だ。工藤内科副院長で「ダイエット・コレステロール外来」担当の工藤孝文さんは「だしを飲む」ことを推奨する。
「快眠をもたらすホルモンであるトリプトファンは実はかつおぶしにも含まれています。それを温かいだしとして摂ることは心を落ち着かせて副交感神経を優位にする効果があります。同時に、ヒスチジンという成分も満腹中枢を刺激して、満腹を感じやすくしてくれる。こってりした味や甘みが食べるほどに食欲を増進させるのとは対照的に、だしを飲むのは食欲を抑制する効果があるんです」(工藤さん)
【3】副交感神経を優位にする「ナーディーショーダナ」のやり方と効果
山下さんは「鼻呼吸」が副交感神経を優位にしてくれると語る。
「私のワークショップでは、食事の前にヨガの『ナーディーショーダナ』と呼ばれる片鼻呼吸を行います。時間や心の余裕がない時は、普通の深呼吸をゆっくり3回するだけでも効果が期待できます」
ナーディーショーダナのやり方は次のとおりだ。
【1】片鼻ずつ呼吸を行い、自律神経を整える方法。まずは手の準備。右手の人差し指と中指、薬指と小指をくっつけたあと、人差し指と中指を折り曲げる。
【2】指を左鼻の前に置いた後、親指で右の鼻孔を押さえ、左の鼻から息を吸い込む。
【3】親指を右の鼻孔に置いたまま、薬指で左の鼻孔も押さえ、吸い込んだ長さと同じ秒数だけ息を止める。今度は親指を離し、右鼻から同じ秒数だけ息を吐く。この動きを左右繰り返す。
イライラしているとドカ食いにつながる一方、心がリラックスしていれば、少量で満足するというわけだ。山下さんが言い添える。
「深呼吸を取り入れるのは、がまんする必要が一切なく、楽しささえ感じるハッピーなダイエット法だからです。イライラ解消のためにいつもスイーツを食べていたような人は、脳がその流れに慣れてしまっている可能性がある。深呼吸を取り入れて悪い回路を断ち切ってほしいですね」
スーパーでの買い物中や、レストランでメニューを決める際などに深呼吸を取り入れると、注文しすぎ、買いすぎが防げると山下さんはアドバイスする。
【4】食べ過ぎ防止には食事をするときにワンクッション置く
実際に食事をするときも、ワンクッション置くことで食べ過ぎが防止できる。料理が載ったお皿を置いたらまずはそれと向き合う。すぐに箸を手に取りたくなるが、まだがまん。
「食事に集中する準備として、30秒じっと料理を見つめてみましょう。それぞれの食材が作られた田んぼや畑を思い浮かべたり、生産者のかたが何か月もかけて作ったことなどに思いを馳せる。食事をするぞ、ということを脳に知らせるのです」(工藤さん)
さて、いよいよ箸を取ろう。工藤さんが続ける。
「箸で食材を持ち上げて、じっくり見てください。たとえば、ブロッコリーならそのつぶつぶまでをじっくり集中して見る。箸で食べ物の重さを感じてから、そこで初めて口に入れましょう。もちろん、咀嚼時も口の中に意識を向けます。食材だけに集中することで、無駄な思考を解き放つことができるのです」
つまり、「ながら食べ」はダイエットの大敵だということ。山下さんが言う。
「最近はレストランなどで、食べながらスマホをいじったり新聞を読んだりして、食事に集中していない人が多いことが気になります。食べることだけに集中するのも、過食しないポイントです」
スマホをチラ見しながらの食事は、行儀が悪いだけではなく、体にもよくないというわけだ。
「食事に没頭することで、体が発するメッセージへの感覚を研ぎ澄ますことにつながります。つまり、『本当に食べたいのか』がわかるようになって腹八分目が実践できるようになる。もちろん、少しずつよくかんで味わって食べるのも大事ですね」(工藤さん)
五感を研ぎ澄ますことで、脳をダマす“ニセの食欲”を遠ざけることができるのだ。
【5】食欲を抑えるのに効果的なボディースキャン瞑想
食事に集中することに慣れてきたら取り入れたいのが、「ボディースキャン瞑想」。山下さんが解説する。
「椅子に浅く腰かけ、足裏を床にしっかりつけたら、背筋を伸ばして3回深呼吸します。続いて、椅子や地面と接しているお尻、両足の裏に順々に意識を向け、集中します。
本来は40分ほどかけてやるのですが、簡略版として30秒でやることをおすすめしています。それでも充分効果があります」(山下さん・以下同)
電車で座った時はもちろん、立っている時でもできるというから、積極的に取り入れたい。食事の前のルーティンにするのもいいだろう。この瞑想の実践による食欲抑制効果は目覚ましく、被験者のクッキーの摂取量が減ったという米ハーバード大学の研究結果もあるそうだ。
【6】チョコレート瞑想をやれば少量でも満足感
なかには気が散って、うまくできないという人もいるかもしれないが、その場合は「チョコレート瞑想」を試してほしい。用意するのは一かけらのチョコレートだけ。
「まず、手に取った一かけらのチョコレートの重みを感じたり、香りを楽しみます。それからチョコレートを唇につけてみてください。口の中で唾液が出るのを感じましょう。ここで初めてチョコを口に入れ、3口でゆっくり味わって食べます。チョコが口の中で溶ける感じ、味はもちろん、舌やのどの動きなども感じながら食べてみてください」
実際にやってみると、普段より甘みを強く感じたり、少量でも満足感があることに気づかされる。
「意識的に食べることで、五感に鋭敏になって少量の食事でも満足できるようになります。繰り返していくうち、自然と意識できるようになってきます。私自身、実践してからピーク時と比べて10kgくらい体重が落ちました」
これまで無意識に摂ってきた食事をあらためて思い返してみてほしい。あまり味わいも咀嚼もせず、ただ食欲を満たすためだけに、食べ物を飲み下してはいなかっただろうか。深呼吸して、一杯のだしと一かけらのチョコレートから、始めたい――。
イラスト/つぼゆり
※女性セブン2019年6月20日号
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