アイラインとマスカラをしっかりしたら、あとはマスクをつけるだけ──そんな“マスク美人”が街にあふれている。しかしメイクが時短できるうえに、感染防止で快適な半面、マスクの下ではしわやたるみをはじめとした老化現象が進行しているのだ。恐怖の「マスクブス」にならないために、いますべきことを医師たちに徹底取材。
マスクが肌の老化の原因に
クリスチャン・ディオール、シャネル、エドウィン、ミズノ──ハイブランドからスポーツメーカーまで、これらはすべてマスクを製造・販売しているブランドだ。新型コロナウイルスの影響でマスクの需要は大きく高まり、さまざまなメーカーがとっておきの一枚を手がけている。特にミズノが発売した水着素材のマスク『マウスカバー』は大反響で、2万枚が瞬時に完売となった。
◆”すっぴん隠し”に重宝という声もあるが…
ほかにも、夏でも快適な冷感マスクや話題のアベノマスクまで、過去これほど多種多様のマスクが世に出回ったことはないだろう。「新しい生活様式」の必需品だからこそ、ファッションの一部として楽しもうという人も増えている。顔の半分が隠れるため、“すっぴん隠し”に重宝するという声も数多く上がっている。
しかし、皮膚科医の柴亜伊子さんは、こうしたマスク生活に待ったをかける。
「確かに飛沫感染を防ぐために、マスクは必要不可欠な存在です。しかしその一方で、マスクが肌の老化をはじめとしてさまざまなトラブルを生むきっかけになることがあるのです」
今後も長く続くことが予想される、マスクとのつきあい。何に気をつけ、どう着用すればいいのか。
マスクをしていても日焼けする?
安定しない天気が続き、全国各地で梅雨入りが相次ぐ6月だが、雨の日でも美肌に大敵の紫外線は降り注いでいる。柴さんが言う。
「いまの紫外線量は真夏と同等といわれており、部屋の中にいても遮光カーテンをしなければ浴びてしまう。マスクで覆われている部分は日焼けしないと思っている人がいるかもしれませんが、大きな間違いです。太陽光に当てても透けないくらいの分厚い生地を使った黒いマスク以外は、紫外線が通り抜けてしまい、シミの原因になります。この時期は、マスクをしていても部屋にいても、日焼け止めはしっかり塗っておく方がいい」
◆肌荒れ、シミの原因に
マスクと皮膚が触れ合う刺激によって、肌荒れを起こす人もいる。柴さんが続ける。
「マスクと肌がこすれることで、皮膚が炎症を起こして赤くなったり、ニキビが増えたりする人がいます。長引く炎症は、淡いシミである『肝斑』の悪化の原因になってしまうこともあるのです」
繰り返し洗える布マスクを使っている人も多いが、当然ながら、汚れが付着したマスクは悪影響だ。
「マスクについた皮脂や化粧品は、時間が経つと酸化して、過酸化脂質となり、肌に炎症を起こして老化を促し、シミの原因となるメラニン色素の過剰生成を引き起こします。きれいに洗って清潔に保たなければ、肌荒ればかりか老化や黒ずみにつながるのです」(柴さん)
マスクが顔のたるみを引き起こす
歯科医の宝田恭子さんは「マスクは顔のむくみを引き起こす」と指摘する。
「家ごもり生活に加え、日常的にマスクをつけたままでいると、口を大きく開ける機会が激減し、表情筋を動かさなくなる。すると血行が悪くなり、顔がむくんでフェイスラインもたるんでしまう。立ち仕事をしている人の脚がむくむのと同じ原理です。恐ろしいのは脚と違って顔の筋肉は、一晩たってもむくみが回復しにくい。一度むくむと元に戻すのに時間も手間もかかるのです」
そもそも日本人は普段の生活で、表情筋を3割程度しか使っていないという。
◆ほうれい線の原因になることも
「ただでさえ顔の筋肉を使っていないうえ、口をマスクで覆って話したり笑ったりする機会を減らしてしまえば、筋力が衰え、むくみだけでなくしわやほうれい線の原因にもなります」(宝田さん)
顔以外にもさまざまな老化の原因に
弊害を受けるのは、顔だけにとどまらない。
「マスクをしていても、飛沫感染を避けるため、いまは無意識のうちにうつむき加減になって、できるだけ人を避けて歩いている人も多いと思います。下を向いて歩くと猫背になり、頭の重さを支えるためにあごの筋肉や、首の後ろの筋肉が緊張状態になります。すると無意識のうちに歯を食いしばってしまう。人は何もしていないときは、安静時空隙といって上下の歯の間に2mmほどすき間があるのが正常ですが、ぴったりくっついてしまうのです」(宝田さん)
◆頭痛や肩凝りなども
その結果、不必要な力があごにかかって、むくみがひどくなるばかりか、頭痛や肩凝りの原因にもなるという。
「食いしばりがクセになって、虫歯の治療時に口を大きく開けられない患者さんもいます」(宝田さん)
人から見られていないという安心感も、老化に拍車をかける。
「マスクで隠れている部分は人から見られないという安心感から、フェイスラインがたるんで、しわが増えたとしても、自分で気がつきにくい。平常時のように鏡で確認したりショーウインドーや電車の窓に映る姿が目に入ってくることも少なく、気がついたら手遅れになっていた、というケースも考えられます」(宝田さん)
美肌のカギは「清潔な使い捨てマスク」
それでは、どう対策すればいいのだろうか。柴さんは「まずやるべきは清潔なマスクをつけること」とアドバイスする。
「清潔に保つために、できるなら、不織布の使い捨てマスクを選んだ方がいい。マスク本来の目的である感染予防にも、不織布マスクは効果的です。布マスクを使う場合でも、最低でも1日1回は取り換えること。
布についたウイルスは72時間あれば死滅することがわかっているので、3枚以上は準備してローテーションするといいでしょう。洗う際に中性洗剤では皮脂汚れが落ちにくい場合は脂肪酸ナトリウム98%以上の純石けんがおすすめ。また、汗びっしょりのマスクも肌荒れの原因になるので、気温が高い日に外を歩くときは取り換えられるように複数枚持って行くようにした方がいいでしょう」(柴さん)
◆化粧品のつけすぎに注意
肌に化粧品をあれこれつけて、手入れしすぎるのもよくない。
「お肌のケアをしているつもりで、逆に刺激を与えすぎている人が多い。特にピーリングやスクラブ系のクリームは肌が荒れているときは避けた方がいい。シンプルに洗顔をして、保湿と日焼け止めはしっかりすることがポイントです」(柴さん)
肌荒れ対策のための食生活
外的要因に加え、肌を内側から強くするには食生活の改善も重要だ。柴さんが続ける。
「肌のトラブルを抱えている人に食事内容を聞くと、麺類や菓子パンなどの炭水化物中心で、栄養バランスが取れていないパターンが多い。朝はパン、お昼はパスタだけといった単品メニューはやめましょう。肉、魚、卵、大豆、緑黄色野菜をバランスよく摂って、小麦を原料としたパンや麺類はなるべく減らすこと。スイーツやスナック菓子などの糖質が高い食べ物もNGです」
◆小麦や米は、いも類に置き換え
小麦や米は、いも類に置き換えるといい。
「じゃがいもやさつまいもはビタミンCや食物繊維も一緒に摂れるので特におすすめです。マスクをつけることで肌荒れ、ニキビなどが出る人は、もともと弱っていた肌にマスクという新しい刺激が加わって、これ以上の刺激は耐えられないと悲鳴を上げている状態。化粧品やスキンケア、食事と栄養を見直して、マスクをつけたくらいではトラブルが起こらない強い肌に作り変えましょう」(柴さん)
※女性セブン2020年6月18日号
●暑い夏でもOK!保冷剤ポケット付き「ひんやりマスク」の作り方【型紙あり】
●マスクを着けても日焼けする!紫外線を防ぐためのマスクの着け方&選び方
●マスクで肌荒れしないためには?おすすめ素材とケアを皮膚科医が解説
●マスクによる熱中症を予防するには?化粧水で“顔の水分補給”など対策を解説
●マスクの目元を印象的に!ふっくら涙袋とうるみ目を演出するアイライナー【山本浩未さんのメイクのメ】