汗をかきやすい夏場は代謝が上がってむくみにくいと思い込んでいる人はいないだろうか。じつは冬よりも、夏のむくみの方が深刻だ。太って見えてスタイルが気になるだけでなく、思いがけない重大な健康リスクがむくみの裏にはあった。
夏むくみを引き起こす原因は?
9月に入ったが暑さはまだまだ続きそうだ。8月20日の気象庁の発表によると、9月以降も全国的に平年より厳しい残暑が続くという。
そんな中、体のむくみに悲鳴を上げる人が増えている。会社員の山本亮子さん(仮名・52才)は言う。
「一日中デスクワークをしていると、夕方にはふくらはぎがパンパン。脚が重くて動くのがだるいし、何より太って見えるのが本当に嫌で…。最近はマスクでごまかしていますが、寝起きの顔のむくみも気になっています」
夏はクーラーの冷たい風や、冷たい飲み物の摂りすぎで体が冷えて、むくみやすくなる季節だ。「むくみ外来」のある寺田クリニック院長・寺田壮治さんは、むくみの原因は「代謝不全」だと指摘する。
「代謝が悪くなると、血液中の余分な水分や老廃物などを排出する『リンパ液』の流れが滞るとともに、血液そのものの循環も悪くなります。特に脚は水分や血液が停滞しやすい。冷房や冷たい飲み物によって内臓を冷やしていることが、夏のむくみの主な原因です」
◆新しい生活様式でむくみやすい
さらに今年は新型コロナウイルスの影響で生活様式が変わり、例年よりもむくみやすくなっているという。寺田さんが続ける。
「感染予防の外出自粛によって運動量が大幅に減少し、筋力が低下しています。筋肉は血液やリンパ液の流れを促すポンプのような役割をするので、筋力が低下すると老廃物を流すための基礎代謝力も落ちます」
マスクの着用が必須の今年は、日が暮れた後でも暑さを感じやすいため熱中症になるリスクが高い。そのため涼しい室内で過ごす時間が増え、運動の機会が減る悪循環が起こっている。
むくみによる影響は?
女性にとって、むくみで最も気になるのは太って見えることだろう。足や腕がパンパンに膨れて靴がきつくなったり、マスクを外すとむくんだ顔にマスク痕がくっきり残ることもある。まぶたが腫れぼったくなるのも嫌だ。とはいえ、頭痛や腰痛のように日常生活を送る上で直接的な障害になることはほぼないため、放置している人も多い。しかし、夏のむくみを放置すると思いがけないリスクが伴う。
◆生理不順悪化、インフルエンザ感染リスクも
「むくみは細胞の新陳代謝を妨げるため、老化現象が進みやすく、皮膚や髪の毛がカサカサになります。また、むくみの原因である内臓の冷えが慢性化すると、ホルモンバランスが乱れて生理不順を悪化させます。何より、老廃物が体にたまると免疫力が低下する。秋以降に流行するインフルエンザや、新型コロナに感染しやすくなる恐れがあります」(寺田さん・以下同)
夏むくみを解消する方法
危険な「夏むくみ」を秋まで引きずらないためには、毎日の生活を見直して改善するしかない。だからといって、運動不足解消のために毎日1時間以上のハードな筋トレやマラソンなどを行うと逆効果になるという。
「過剰に負荷のかかる運動を続けていると筋肉が縮んで硬くなります。するとさらに血流が悪くなり、むくみが悪化することがあります。足や二の腕などのむくみ解消には、体幹の筋肉を柔軟に保つトレーニングが効果的です。運動不足を感じている人は、室内でできる腹筋やスクワットなど軽い筋トレを日課にして、1日30分以内で充分です」
◆ぬるめのお風呂につかってマッサージ
体を冷やさないために冷房や冷たい飲み物もなるべく避けたいところだが、この殺人猛暑ではそうはいかない。そこで頼りになるのが、「お風呂」だ。
「湯船の中で手足をマッサージすると、むくみ改善に効果的です。暑いからといってシャワーで済ませると体の内側は冷えたままで代謝が上がりません。37℃くらいのぬるめのお湯に、30分くらい入浴するのがベスト。ただ、猛暑の今年はそれでも熱中症の危険がある。熱気がこもらないよう換気を意識してください」
悪影響も!水分の摂りすぎに注意
むくみが気になるからと、水分の摂取量を減らしている人はいないだろうか。涼しい室内にいると喉は渇きにくいが、水分の不足はかえってむくみを助長させるという。健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子さんが言う。
「体内の水分が不足すると、循環が悪くなり代謝が落ちます。熱中症予防のためにも、室内にいても水はしっかり飲んでください」
◆1日に飲む水分の適量は2Lまで
2003年に、ドイツの大学が「水を1日2L飲むと消費カロリーが95kcalアップする」と研究結果を発表したこともあり、「水を飲むほど代謝が上がる」という意見もある。しかし、水を飲みすぎると消化管がむくむ原因にもなる。望月さんが指摘する。
「冷たい水を飲むと、体温に合わせて水を温めるために消費カロリーが増えることはあります。しかし、冷たすぎる水は内臓を冷やす原因になり、吸収率を下げる恐れもあります。吸収率は、5~15℃くらいの水が最も効率的だといわれています。
また、よほど汗をかかない限り1日に飲料として摂取する水分量は成人で1.5L、多くても2Lで充分とされています。1時間に1Lなど急にたくさん飲むと体内のナトリウム濃度が低下し、めまいなどを起こす『水中毒』になる恐れがあるので、2~3時間おきに200mlくらい飲むようにしましょう」
エアコン冷えによるむくみ防止法
今年、都内の熱中症による死者数は170人にのぼり、8月の死者数としては過去最悪となった。そのうち9割が室内で発症しており、多くはエアコンを設置していないか、使っていなかったという。こうした状況を受け、最近は就寝時もエアコンをつけっぱなしにしておくことが新常識になっているが、そこにもむくみの落とし穴が。
◆股関節や膝の裏を冷やさないように
「太い血管が通る股関節や膝の裏を冷やしてはいけません。エアコンや扇風機の風が直接体にあたらないように工夫し、パジャマは短いズボンを避けて長ズボンを選びましょう」(寺田さん)
食事でむくみを解消する方法
食事も重要だ。むくみ解消に効果的な食材を積極的に食べるようにしたい。望月さんがすすめるのは、カリウムが多く含まれる野菜や果物だ。
「カリウムはむくみの元凶となる体内の塩分を排出し、水分量を適度に保ってくれます。きゅうり、トマト、ピーマン、すいか、アボカドなどに豊富に含まれていますが、夏バテ気味だからといって冷たいサラダや果物ばかりを食べていると体を冷やしてしまいます」(望月さん・以下同)
◆サラダにはにんにく、唐辛子などをプラス
サラダを食べるときは、ひと手間加えれば冷えを予防し、代謝アップになる。
「しょうが、にんにく、唐辛子、シナモンなど、体を温める食材や香辛料と一緒に摂取するのがおすすめです。唐辛子やにんにくが入ったドレッシングをかけたり、夏野菜をカレーの具材にするといいでしょう。野菜はゆでるとカリウムが流出してしまうので、スープは煮汁ごと食べるようにしてください」
むくむからといって、食事量を減らすのも代謝低下を招くのでNG。猛暑の夏こそミネラルやビタミン、たんぱく質などの栄養をバランスよく摂取したい。
◆熱中症の危険を忘れないように注意
運動不足、冷え、食事に注意して残暑を乗り越えれば、むくんだ体は秋までにスッキリするだろう。ただし、「熱中症の危険を忘れないように」と寺田さんは念を押す。
「新型コロナと猛暑が重なった今年の夏は、去年までの常識が通じなくなったことが多い。昨年まではアイスクリームは体を冷やすので控えるようにと患者さんに伝えていましたが、暑さと外出自粛でストレスがたまる今年は、少しくらい食べても大丈夫。まずは熱中症対策を万全にし、むくみ解消はできる範囲で行ってください」
むくみもストレスもため込まないことが重要だ。
※女性セブン2020年9月10日号
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