いつも体重計に乗ったり、鏡で脂肪の付き方を確認したり、太ることへの悩みは尽きないもの。それだけではなく、体重増加によって招く生活習慣病など病気の心配もある。ただ、太ったからといって、いきなり病気のリスクが増えるわけではないという研究が進んできている。やせていても、思わぬところに脂肪がついていることが影響する病も。肥満に詳しい専門家が「危ない肥満」と「安全な肥満」の違い、セルフチェック方法などを解説する。
りんご体形「内臓脂肪型肥満」は危険な太り方
一様に「太った」といっても、その太り方は人によっても年齢によっても、微妙に変化している。「若いときと肉のつく場所が変わってきた」「たくさん食べなくてもすぐ太るようになった」という経験はないだろうか。
肥満には「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」がある。
皮下脂肪型肥満は、“浮き輪肉”と呼ばれる腰回りやお尻、太ももなど下半身に脂肪がついて、「洋ナシ体形」になりやすい。太い足や大きなお尻を嫌がる女性は多いが、皮下脂肪が直接的な健康被害を与えることは少ない。
名古屋市立大学肥満症治療センター副センター長で肥満症専門医の田中智洋さんが話す。
「内臓脂肪型肥満は腹筋の内側、腸など内臓のまわりに脂肪がつきます。手や足はほっそりしているのに、りんごのようにお腹回りが膨れている状態。体形の目安として、元力士の曙関のような太り方です。力士のようにハードな運動をしていれば肥満症になることはまれですが、基本的に内臓脂肪は生活習慣病の発症リスクが高く危険な太り方とされます」
洋ナシ体形の場合、内臓脂肪の量は比較的少ない。一般的に、「内臓脂肪型肥満」は中年の男性に多く、女性は皮下脂肪がつきやすい。内臓脂肪が「落ちやすい脂肪」であるのに対し、皮下脂肪は「落ちにくい」ため、女性は男性より体形が気になりやすいのかもしれない。
◆更年期は肥満リスクが上がる
だが、更年期を迎えると、女性でも危険な「りんご体形」になりやすくなる。
「45~55才くらいの時期は、それまで内臓脂肪がつかないように守ってくれていた女性ホルモン『エストロゲン』が減少し、急激に肥満リスクが上がります。いままでと同じ生活をしていても内臓脂肪がつきやすくなり、太ってしまう」(増田さん)
「皮下脂肪型肥満」と「内臓脂肪型肥満」の見分け方
お腹回りが気になる場合、それが「皮下脂肪」なのか「内臓脂肪」なのか見分ける方法がある。ダイエットに関する外来を設ける工藤内科副院長の工藤孝文さんが説明する。
「女性なら腹囲(へそ回り)が90cm以上ならば内臓脂肪型肥満の可能性が高い。内臓脂肪は筋肉より内側につくので、腹筋に軽く力を入れ、へそ回りの肉をつかんだときにたるみがしっかりつかめれば皮下脂肪、そうでなければ内臓脂肪であると考えられます」
◆お腹が出ている人ほど、認知症になりやすい?
昨年、お腹回りが太っているほど脳の神経細胞が萎縮するとイギリスの大学が報告して話題を呼んだ。詳しい相関関係はまだ研究中だが、「お腹が出ている人ほど認知症になりやすい」可能性が示唆されたことになる。
中年太りには適切な食事と運動でダイエットを
「中年期の女性が太りやすいのは仕方ないことですが、メタボリックシンドロームになるリスクもあるので、ダイエットも意識してほしい」(工藤さん)
ダイエットは、効果が出やすい人と苦労する人がいる。生まれつきやせている人もいれば、ぽっちゃり体形の家系という人もいる。
◆肥満は遺伝しない説も。食生活で変わる
「肥満は遺伝する」という話はよく聞くが、「その考え方は変わってきた」と工藤さんが答える。
「確かに、体の中でエネルギーを燃やしてくれる基礎代謝に関連する『肥満遺伝子』は存在します。しかし、肥満のすべてを『生まれつきの体質』と考えるのは間違い。健康的な食事や適切な運動などを取り入れれば、特別な疾患がない限り、誰でも肥満は克服できます。遺伝子より、食事をはじめとした家族の習慣が“伝染”するため、太っている家庭の子供は太りやすいというのが近年の考え方です」
太ってなくても注意!「異所性脂肪」とは?
さらに最近は、見た目は太っていなくても「異所性脂肪」という危険な脂肪がついている人がいることも指摘されている。
「異所性脂肪とは、皮下脂肪や内臓脂肪などの脂肪細胞からあふれた脂肪分が、心臓や肝臓、膵臓などの臓器を形作っている細胞の中にたまった状態です。『脂肪肝』がよく知られていますが、たまった脂がそれぞれの臓器の本来の役割を阻害する危険があります」(田中さん)
◆「血糖値」「尿酸値」「血圧」など3つ以上異常なら疑いあり
「詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、健康診断でコレステロール値や血糖値、血圧、尿酸値、肝機能などの数値で3つ以上異常が指摘された場合は、太っていなくても異所性脂肪がついている可能性がある。やせていても危ないと考えてください」(田中さん)
東アジア人は、欧米人と比べて脂肪を蓄える能力が低く、“場違い脂肪”とも呼ばれる異所性脂肪がつきやすいという。
「生まれつきやせている人は安全」とは限らない。
※女性セブン2020年10月22日号
●超キケン!異所性脂肪の原因は?9つのチェックリストで溜まっているかを判定
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