40代以上の日本人女性の約20%が発症する甲状腺疾患。だるい、疲れやすい、首が腫れてきた、目が飛び出してきた…などの症状がある人は要注意だという。
31才でバセドウ病を発症、合併症で甲状腺眼症を発症した渋谷スキンクリニック院長の吉田貴子さん(48才)は、この9月に受けた甲状腺眼症の手術が無事に成功。吉田さんを救った最新手術とは、一体どのようなものなのか、詳しく解説する。
《吉田さんの手術症例》
16年ほど前に甲状腺眼症を発症した吉田さんは、2020年9月に眼窩減圧術を受け、左目から4cc、右目から3.5ccの脂肪を切除。手術直後は、目の充血や目元の内出血があったものの、目の見開き具合が改善された。
甲状腺眼症の最新手術「眼窩減圧術」とは
甲状腺眼症の手術は症状により異なるが、多くの女性が悩む眼球突出や視神経症に対してこれまで一般的に行われてきた手術は、眼窩の骨を大きく削る大手術だ。吉田さんの甲状腺眼症の手術を執刀した、オキュロフェイシャルクリニック東京院長の鹿嶋友敬さんが説明する。
「これまでの手術は、傷口も大きく、傷が残ったり、長期的な入院が必要なため、視力障害や失明寸前である場合を除き、積極的に行われるものではありませんでした。そのため、眼球突出に悩む患者さんは諦めるしかなかったんです」(鹿嶋さん・以下同)
◆所要時間は30分~1時間で日帰りが可能
そんな状況の中、鹿嶋さんが行う眼窩減圧術は、30分~1時間という短時間で、日帰りで受けることができるという画期的なものだ。
「飛び出した眼球を元の位置に戻すために、眼球の後方にある眼窩脂肪と眼窩を構成する骨を切除します。下まぶたの裏の結膜や二重のしわ、二重がない場合はまつげの上の皮膚を切開するため、傷痕はほとんど残りません。眼窩脂肪の切除は、切除した脂肪の量を測定することができるので、ミリ単位で眼球のくぼみの効果を予測することができるメリットもあります」
とはいえ、一歩間違えれば失明や斜視になるなどのリスクもある。眼窩の骨は上下内外の4つに分けられるが、内壁と下壁の骨の切除は、新規斜視の発生率が10~50%にもなる。
眼窩減圧術のリスク。失明は1%以下
「そのため、新規斜視の発生率の低い眼窩脂肪の切除と眼窩外壁骨を削る術式を第一選択とし、内壁と下壁の除去を避けることで斜視の発生率を下げるようにしています。しかし、眼窩脂肪と眼窩外壁骨の切除は、脳や目の重要な神経や血管と近いため高度な技術と特殊な知識が必要。安全性を高めるために、手術では顕微鏡を使い、慎重を期しています。それでも特殊な手術ですので、1%以下ですが失明のリスクが伴うのも事実です」
◆年間300眼以上の手術を行う
そうしたリスクは覚悟の上で、鹿嶋さんのクリニックには甲状腺眼症に長年悩んでいる女性が来院し、年間約300眼以上の手術を行っているという。
「眼球突出の症状は女性に起こりやすく、家に引きこもってしまう人も多い。SNSがこんなに発達した時代なのに、自分の写真は撮らず、景色や物しか載せられないという人もいました。それが術後には泣いて喜んでくれるので、私もうれしいですね」
この手術で症状が改善した吉田さんも手術前後の心境をこう話す。
◆眼球突出が改善された
「新しい術式なので最初は不安もありましたが、鹿嶋先生のカウンセリングに納得できたので決意しました。長年のコンプレックスから解放され、眼球突出によるドライアイも改善されて、とても感謝しています」
医療は進化し続けている。早めに医師に相談することが重要だ。
【オキュロフェイシャルクリニック東京】
眼窩減圧術は、両目で保険診療の場合、約3万~30万円(高額療養費に該当するため、本人の年収による)。自由診療の場合、150万円。https://www.oc-tokyo.com
渋谷スキンクリニック院長・吉田貴子さん
帝京大学附属病院皮膚科などを経て、31才でクリニックを開院。その直後から多忙を極め、ストレスなどからバセドウ病と、その合併症である甲状腺眼症を発症。母親もバセドウ病の発症歴がある。http://www.shibuya-skin.com/
取材・文/青山貴子 イラスト/鈴木みゆき 撮影/平林直己
※女性セブン2020年12月10日号
https://josei7.com/
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