女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。

第3回は、「母の味」について。
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母は料理がとても上手だ。子供の頃、母が料理をしている時に台所にいるのが好きだった。
お目当ては、つまみぐいだ。
カスタードクリームを作っていたら横からちょっともらい、スイートポテトを作っていたらちょっともらい。
なかでも私が止まらなくなってしまうのが、酢飯だった。お酢と砂糖の甘酸っぱい匂いと、アツアツのご飯が出会うとき。最高の瞬間だ。母がうちわでパタパタする横から一口、二口、三口と止まらなくなる。
今でも冷めた酢飯よりも、あのアツアツの時の酢飯の方が好きだ。大人になった今は自分で作りながらもアツアツの酢飯を、味見といいながらたくさんつまみ食いしている。そして横から息子がつまみ食いしてくる。そんなときさすが親子だなあ~とヘンなところで感心してしまう。

母が作ってくれる料理で忘れられないのが、タンである。誕生日やクリスマス、お正月、お客様がいらっしゃるときなどにでてきた。
母が作るタンが大好きだった。母がタンを茹でているときの、ベイリーフや丁字、マジョラムなどが混ざり合い、どこか異国の感じがする良い香り(もちろん子供の頃は何の匂いかよくわかっておらず、単純に良い匂いだと思っていた)。
ホースラディッシュと生クリームの混ざり合うきれいな色。
瑞々しい緑のクレソン!
とにかく、特別な日に出てくるタンは、子供の私にとって何よりご馳走だった。
スーパーで母がニヤッとして言ったこと
事件はスーパーでおきた。
ある日、いつもは行かないスーパーに母と行った時の事だ。
お肉売り場の前を通ると、ふだん見慣れない何だか大きくて、ちょっと不気味で存在感がものすご~くあるかたまりのお肉があった。
「わあ~何これ。ママこれ何?」と聞いたとき、母がニヤっとした顔をして「あなたが大好きなものよ」と言った。
…嫌な予感がする。と思ったとき、母が「あなたの大好きなタン!」と言ったのだ。
衝撃だった。そんな…そんな…これがタンなんて、誰か嘘だと言ってくれ~! 私、もう半泣きでした。大好きなタンが舌だと思ってなかったんです。そして舌が食べられるという衝撃!
子供の私にはショックでした。
それからしばらく…大好きだったタンは食べられなくなった。
もちろん大人になった今は大好きですし、焼肉屋さんに行っても、まずはやっぱりタン塩!です。タン万歳!
文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。