女優・大塚寧々さんが、日々の暮らしの中で感じたことを気ままにゆるっと綴る連載エッセイ「ネネノクラシ」。第72回は、スーパーで出会った「白髪のおじさん」について。
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義父や母が家に来る。夫が「簡単にドライカレーとかでいいよ~」と言う。簡単だと思っていて、楽をさせてくれようと気遣ってくれている。お気持ちありがとう!と思いながら、ドライカレー作るのも大変なんだけどなあ~とちょっと笑ってしまう。
まあ、大変と言ってもナスや野菜を素揚げするのが面倒くさいくらいだが…一度にたくさん作るので、挽肉や野菜をカレーペーストで混ぜるのに力がいる。でもそこにソースやケチャップやお醤油を入れていくと、食欲をそそる良い匂いでキッチンが満たされる。
義父や母も、大好きなので頑張ろう。そういえばドライカレーは、なぜか初夏から夏にかけて出番が多い。さあ近所のスーパーに買い出しだ。
初夏になってきて並んでいる野菜達も元気そうだ。新鮮なヤングコーンもあった。「ひげまで食べられます!」と書いてある。そうそうひげも美味しいんだよね~。これは蒸して食べたら美味しいぞ!と思い、いそいそとカゴに入れる。ついでにキッシュも作ろう。あれこれと買い物カゴに入れていく。 数日分まとめて買うので、カゴがいっぱいになってしまった。 スーパーに行くとついつい目に入ってくるものが美味しそうであれこれ買ってしまう。
レジに並ぼうとした時、白髪のおじさんと同時になってしまった。どうぞ、どうぞとお互い譲り合う。 私は買い物カゴいっぱいに入っていて時間がかかるので、先にレジに行ってもらう。ちなみにスーパーに行く時、私はスーパーにあるのと同じ形の買い物かごを持って行く事が多い。スーパーのかごから自分のカゴに買ったものを移動するだけだから早くて便利だ。
駐車場にもいた「白髪のおじさん」
駐車場に行くと、先ほどのおじさんの車がなんと、偶然隣に停まっていた。荷物をいれて、運転席に座って出ようと思ったが、また同時になってしまうと危ないので先に出てもらおうと待っていると、窓がスッと開いておじさんが何か言っている。ドアから出ると、買ったばかりらしい苺を一粒「ありがとう!」と言ってくださった。せっかく買われたのだからと思い遠慮したが、おじさんの笑顔につられてありがたくいただいた。
何だかほっこりと温かい気持ちになった。一粒の苺がキラキラして輝いている。ささやかな事だが、こういう事がすごく幸せな気持ちになる。おじさんもどうぞ良い1日を!と思った。車窓から流れていく新緑も空の青さも、気持ちよかった。苺はすごく甘くて美味しかった。
◆文・大塚寧々(おおつか・ねね)
1968年6月14日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部写真学科卒業。『HERO』、『Dr.コトー診療所』、『おっさんずラブ』など数々の話題作に出演。2002年、映画『笑う蛙』などで第24回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第57回毎日映画コンクール主演女優賞受賞。写真、陶芸、書道などにも造詣が深い。夫は俳優の田辺誠一。一児の母。