ちゃんと家事をこなしているのに、「ゴミ捨てたの?」「ドアノブ除菌したの?」といちいち確認されると腹が立つものです。
そんな“確認夫”を持った妻の悩みについて、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんに教えてもらいました。
【相談】家事をしたかどうかいちいち聞いてくる細かい夫をどうにかしたい!
「うちの夫はとても細かい性格です。家事に対しても、『植物に水あげたの?』『今日、燃えないゴミの日だけど捨てたの?』『ドアノブ除菌したの?』などといちいち口を出してきます。まるで会社の上司と一緒にいるようでうんざり。私のことを信じてもらえてないようでがっかりもするし、ほうっておいてもらうにはどうしたらいいのでしょうか」(50歳・会社員)
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妻が全部担当しているから夫がいちいち聞いてくる
そんなにいうなら自分でやればいいのにね(笑い)。でも、私でも聞いちゃうかも。うちの場合は植物の水やりは夫の担当なので、気温が高い日なんかは私も「今日、水あげた?」って聞いてますね。そして夫は「あげたに決まってるじゃないか」ってうっとうしそうにしてます(笑い)。
逆にゴミ出しは、1階の住人の私が担当なので、夫が時々「ゴミ出した?」って聞いてくれます。(ちなみに、我が家は3階建てで、夫の寝室は3階に、私の寝室兼書斎は1階にあります。2人の適正室温が5度ほど違うので、互いの生体ストレスを最小にするためにそうしました)
私の場合、3回に1回は忘れているので、とてもありがたいチェックです。そして、たいてい忘れたときには、「お願い、出してー! 眉毛書いてないから外に出られない」などと、夫にSOSを出しているので、チェック大歓迎(微笑)。
逆にちゃんと捨てた朝は、夫が心配しないように、家族LINEに「ゴミ捨てました~」と流しておきます。3階から降りてくるのは大変ですからね。
このかたが、夫のチェックが多くて煩わしいと感じているのなら、理由は2つ。妻ばかりが家事を担当しているのと、完璧にこなしているからチェックが役に立ってないから。この構造を変えたほうがいいと思います。
まずは家事を夫にも分担する
例えば、「水やり」「ドアノブ除菌」「ゴミ出し」「猫の餌やり」「お風呂のカビ取り」など、家事を細かく分けて、夫にも担当になってもらいましょう。
勤務時間が長い夫と専業主婦と言う関係でも、担当制は導入したほうがいい。休日だけにやることだけでも構わないので、夫に「担当者」として家事に参加してもらってください。
夫が担当することがあれば、きっと妻のほうも、「あなた、あれやった?」と聞きたくなるはず。担当を分けて、チェックはお互い様にすれば、夫のチェックにも「やったわよ~。安心して」と気持ちよく返事できるようになります。
脳科学的に男性は家事を簡単なことだと思い込みがち
そもそも男性脳は、家事が何たるかわかっていません。「目の前の時々刻々変わる出来事に反応する能力」が女性脳のほうが圧倒的に高く、男性脳はついてこれないのです。
気づきに気づきを重ねて、臨機応変に片づけていく家事は、男性脳にとって把握しにくく、何をやっているかの総体がつかめません。
このため、家事を簡単なことだと思い込みがち。家事がどれだけ大変かを思い知らせるためにも、家事を細分化して、その一部でも担当させることが大事なのです。
男性脳は担当が決まっているほうが気持ちよく遂行できる
また、歴史上「チームで担当を分け合って狩りをしてきた」男性脳は、担当が決まっているほうが、気持ちよく遂行できるのも事実。
我が家では、明確に「リーダー」という言葉を使います。夫は、「洗濯リーダー」「蕎麦リーダー(蕎麦を食べる時は彼が采配を振るいます)」「お風呂のカビ取りリーダー」「水やりリーダー」「生ごみの袋締めリーダー」「家電メンテナンスリーダー」です。
他の家族は、リーダーに、「シーツ洗ってくれた?」などと確認することができます。また、リーダーは、自分の仕事を家のメンバーに振り分けることもできます。「夕方留守にするので、シーツ取り込んどいてね」とか。その際は、当然「やってくれた?」と確認することに。最終責任者はリーダーなので。
担当を分け合えば、お互い様なので腹が立たない
担当が決まれば、当然、確認は生じます。けれど、担当を分け合えば、お互い様なので、腹が立つことがありません。それどころか逆に、夫の「担当者意識」を感じてうれしくなるくらい。
担当が不明確で、ぜんぶ妻が背負っているから、「夫の確認」が一方的に感じるのです。
夫を、ドアノブ除菌リーダーに任命したら、毎日「ドアノブ除菌した?」って聞いてあげれば? 「お前、毎日うるさいな」って言われたら、「あなたもうるさいじゃん!」って仕返ししてあげましょう(笑い)。
完璧な妻をやめて、夫に「頼り返しの術」を使ってみる
このかたが夫に「燃えないゴミの日だけど捨てたの?」っていわれたときにうるさいと感じるのは、いつもちゃんと捨ててるから。完璧すぎるのかもしれませんね。
先にも述べたように、私はゴミの日をうっかり忘れてしまうんです。だから夫に「ゴミ捨てたの?」って聞かれると、出し忘れが防げてありがたいうえに、「お願い捨てて」って頼めるからすごく便利。
チェックが入ったとき、やっていないことがあれば、これはチャンス! 焦ったふりして、夫にやってもらえばいいんです。チェックするくらい、彼には時間と体力の余裕があるってことだから。
「ひゃ~、やってない。どうしよう~。あなた、お願い!」って、パニック感を出して甘えるのがコツ。これを「頼り返しの術」といいます。
夫のチェックが確実なことは、時々わざとやらないというのも手です。確認されたときに「やってない。あなた、お願い!」って頼りにする。
夫は確認したときに妻がやっていなかったら自分がやらされると思って、聞く回数が減るかもしれませんよ。
意図的な手抜きが夫との関係をよくするコツ
残念なことに、完璧な妻ほど、夫から感謝されないもの。
なぜならば、「家事の総体」を見抜けない男性脳にとって、「なにごともなくスムーズに完璧にこなしている」と、何もなかったかのように感じてしまうから。妻の労力と才能に気づかないのです。
ときどき、パニックになって、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ、あ~、どうしよう~」と言う姿を見せると、「家一軒をキープするのは大変なことだなぁ」と実感してくれます。
「完璧すぎると、何もなかったかのように感じる」男性脳の特性によって、完璧な主婦ほど、夫に軽んじられる。不完全な主婦ほど、「かけがえがない妻」だと思われる。
なんて、残酷なパラドックス(逆説)でしょう。でも、脳の性質上、歴然とそこにある事実なのです。完璧なかたは、どうかお気をつけて。
家族はお互いに頼りあうことでより愛おしい存在に
また、ヒトの脳には、インタラクティブ性(相互作用性)と言う性質があります。自分の働きかけに、相手が反応する、良い変化を見せることを快感だと思う性質です。
このため、自分に関係なく、完璧にうまくやっている相手に、人はなかなか情が湧かないものなのです。自分が支えてあげて、その人が生きていける、笑顔が返ってくるという関係に、脳が甘やかな充足感を感じます。昔から「できない子ほどカワイイ」っていうでしょう?
家族で支え合うのだから、とても大切なのです。
お母さんがとても頑張って、家族を支える。
けど、ときには、お母さんがちょっと抜けていて、子供たちもお母さんを支える。
そんな子供たちの方が、お母さんをかけがえがないと感じていきます。
欠点ばかりの凸凹家族こそ、この世の幸せ。
今日から「完璧な妻」「完璧なお母さん」を止めましょう。
夫のチェックが煩わしいのは、完璧な妻を目指してしまっているからでは? たまに手を抜き、夫のチェックに感謝して、頼り返し!ぜひ、お試しください。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
構成/青山貴子