家事はすべて妻まかせ。体調が悪いときでさえ、何もやってくれない夫。おまけに、心無い言葉まで…。
夫が妻をイラっとさせる言葉の真意を、ベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんに教えてもらいました。
【相談】具合が悪いときでも「ご飯、どうする?」と聞いてくる夫に腹が立つ!
「夫は家のことはなんでも私がやるものだと思っています。普段は仕方ないとあきらめていますが、『私が風邪気味だから横になるね』といって休んでいるときでも、『今日のご飯、どうする?』と聞いてくるので本当に腹が立ちます。妻の体調の心配よりも自分の食事の心配をする夫とこの先も一緒に暮らすのかと思うとがっかりします」(57歳・主婦)
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男性の「どうする?」は、「どうしらたいい?」も含む
もし会えるならこのかたの夫に、直接、口の利き方を叱ってあげたいですね。
妻のことを心配はしているんだろうけど、こんなときは「今日のご飯、どうする?」じゃなくて、「うどんでも茹でようか?」「何か買ってこようか? 何食べたい?」とかやさしい言葉をかけてほしいものです。
ただ、ここで衝撃の事実をお教えしましょう。
男性の「ご飯、どうする?」は、この「うどんでも茹でようか?」「何か買ってこようか? 何食べたい?」を包含しているって知ってました?
なにも「お前が料理の担当だろ。どうするんだよ」なんて言っていないんです。「ぼく、どうしたらいい?」も含めて、「どうする?」って聞いているのです。
だから、無邪気に、「そうめんが食べたい。つゆに梅干し入れてね」と言えばいいわけ。夫のことばを裏読みすると、無駄に夫を恨んで生きて行くことになる。どうか、気をつけて。
妻が家の総司令官だと思っている
妻が、家の総司令官だと思っているから、「どうする?」と聞いているんです。「ぼくは、どうしたらいい?」と。妻を愛していて、頼りにしているからこそ、この言葉。
ちなみに、自分が具合が悪くなったときの料理くらいは、日頃から「楽しく台所に誘って」と仕込んでおきましょう。もちろん、料理ができる男性と結婚するというのも、よい戦略だと思います。
夫の主体的発言を希望するなら、日頃から家事に参加させること
このかたは「夫は家のことはなんでも私がやるものだと思っています」と言っていますが、それは「妻の側がそうしてきた」とも言えるんです。家事の担当を明確にせずに、ざっくり全部自分でやって、いい妻を演じてしまってきたのでは?
男性脳は、「担当制」です。役割が決まれば、それを全うすることを楽しみます。
女性脳は、「気づき制」なので、気づいたときに気づいた人がやる。愛があれば、気づきの数が増える、と言う仕組みです。
男性が、気づかないのは、担当に専念するため。
昔々、狩りをしながら生き抜いてきた男性脳は、「縄を持つ係」が棒に手を出してしまったら、チームプレイがうまくいかないので、担当に専念するように進化してきました。自分の担当外は、脳が見ないようにして、集中力を高めるのです。
このため「気づき制」の女性脳からしたら、「いつまで経っても、気づいてくれない」「私の具合が悪いのに、気の利いたことができない」=愛がないのでは?と見えてしまうわけ。
夫でも息子でも、家事は、日頃から担当制にして参加させておくこと。そうすれば、「生きている以上、顔を洗うように、家事も分担するもの」という習慣が身につきます。そうして初めて「この家を支えている1人だ」という自覚が芽生えるのです。
家を支えている自覚があれば、料理担当の妻が倒れたときは、「自分が担当を変わってあげなければいけない」と気づき、主体的な発言「○○しようか?」が出てくるわけ。家事への参加が明確でないから、ことが起こったとき、すべて、お伺いを立ててくるのです。
夫の言葉の裏読みをやめる
「夫のカチンとくる言葉」のほとんどは、無邪気なスペック確認です。
男性脳は、縄張りを守る機能が発達しているので、「自分が制している空間」に何か変化が起こると、そのスペック確認を急ぎます。新しいものを見かけると、「いつ、買ったの?」「なんで買ったの?」「いつまで、ここに置いとくの?」などと聞いてきますが、これは、危険回避のためのスペック確認。「こんなくだらないもの、何で買ったんだ?」とは言っていません。
同様に、出掛ける妻に「どこ行くの」「何時に帰る」「夕飯はどうするんだ」もスペック確認です。外出を責める意図はまったくありません。
マウンティングではなくスペック確認
妻は、これらのスペック確認をマウンティングされていると感じて、「主婦は家にいて、家事はすべてやるものを思われてる」と恨むことがありますが、これは誤解です。
まれに、皮肉で言ってくる夫もいるかもしれませんが、その場合だって、「5時に帰る。美味しいもの買ってくるね~」と明るく言えばいいだけ。皮肉に笑顔を返されると、取り付く島もないので、言った甲斐がないのです。
私は、夫の「どうする?」には、「どうしよう。なにかアイディアある?」と返して、今この瞬間の担当者が夫であることを明確に示します。若い頃には「なんで私に聞くの!? 私にやれってか」と腹を立てていましたが、とっくの昔に止めました。
このかたのケースは妻が甘えちゃえばうまくいくと思いますよ。万が一、「妻のくせに!」なんて腹を立てられてたら、「妻が寝込んでるのに、夫のくせに!」と言い返してやりましょう。
合理性が高い男性脳は繰り返すことで訓練される!?
もしも、このような状況で夫にやさしい言葉をかけて欲しいと思っているなら、具体的に言ってほしい言葉を伝えておきましょう。
「私が具合悪くて寝込んでいたら、まずは『大丈夫?』と声をかけて」という具合に。
そして、「今日のご飯、何?」と聞かれたら、素直に「具合が悪くて作れないから何か買ってきて」と素直に言って、それを2〜3回繰り返すと「何か買ってこようか?」と聞いてくれるように変わるはずです。
男性に多い問題解決型ゴール志向の脳は合理性が高いので、脳ができるだけ質問回数を少なくするようになっています。ですから、具合が悪いときに毎回「何か買ってきて」と答えれば、「今日のご飯、何?」と聞かずに、「何か買ってこようか?」と聞いてくれるようになるんです。
しかも、妻が毎回、「鍋焼きうどんを買ってきて」と頼んだとすると、そのうちに「鍋焼きうどん買ってこようか?」と聞いてくるようになりますよ。
男性脳は融通がきかないから夏でも鍋焼きうどんだったりするので、それはそれで腹が立つんですけどね(笑い)。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
構成/青山貴子