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柳楽優弥、三浦春馬さんらが出演『映画 太陽の子』が今の時代に問いかけるものとは?

柳楽優弥(31才)主演の映画『映画 太陽の子』(配給:イオンエンターテイメント)が8月6日より全国公開中です。本作は、日本の“原爆開発”を物語の軸として、太平洋戦争下という激動の時代に翻弄されながら生きる若者たちの姿を描いた青春群像劇。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
写真9枚

共演に有村架純(28才)、三浦春馬さん(享年30)を迎え、原爆や戦争についてだけでなく、いまを生きる人々に多くの問いを投げかける作品となっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

10年以上温められた企画と名だたるキャスト・スタッフが集結

本作は、昨年8月にNHKにて放送された同名ドラマの劇場版。ドラマ版と同じく、日本の原爆開発を軸としながら、ドラマ版とはまた異なる視点で若者たちの姿を描いています。脚本と監督を務めているのは、有村がヒロインを務めたNHKの連続テレビ小説『ひよっこ』や、現在放送中の大河ドラマ『青天を衝け』などの演出を担当している黒崎博(52才)。

同監督が10年以上前に広島県の図書館で手にした若き科学者の手記が基となっており、長い年月温められた企画がドラマ化され、続いて映画化となったのです。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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この企画に、名だたるキャスト、スタッフ陣が共鳴。柳楽、有村、三浦たち若手が物語の中心に立ち、田中裕子(66才)、國村隼(65才)、イッセー尾形(69才)らが脇を固めています。立場の異なる若者たちの青春と苦悩、そしてそんな彼らを時に見守り、時に導く、大人たちそれぞれの立場に見られる葛藤も、本作の物語の見どころの一つです。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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音楽はニコ・マーリー、主題歌は福山雅治

音楽は、ケイト・ウィンスレット(45才)が第81回アカデミー賞で主演女優賞を受賞した『愛を読むひと』のニコ・マーリー(39才)が手掛け、主題歌は福山雅治(52才)が担当。劇中からエンドロールに至るまで、音楽の力が強いのも本作の魅力だと感じています。

物語のあらすじはこうです。1945年、太平洋戦争末期の夏。京都帝国大学に在籍する若き科学者・石村修(柳楽優弥)と研究員たちは軍の密命を受け、原子核爆弾の研究開発に日々没頭していました。そんなある日、建物疎開によって家を失った幼馴染みの朝倉世津(有村架純)が、修の家に居候することになります。

時を同じくしてそこへ、修の弟である裕之(三浦春馬)が戦地から一時的に帰郷。幼馴染みの3人はこの再会を喜び、幸福な時を過ごすものの、戦況は刻々と悪化していく。立場の異なる3人それぞれの思いが、交差していくことになるのです。

柳楽、有村、三浦がそれぞれの立場で訴える「戦争」

物語の中心に立つ主演の柳楽優弥演じる修は、どちらかといえば控えめな人物。日々研究に黙々と勤しむ彼の頭にあるのは、実験のことばかりです。しかしそんな修の元へ、彼が密かに思いを寄せる世津がやって来る。これによって、修の心に変化が表れ始めます。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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細やかな仕草で心の変化を表現

世津を前にしてはにかむような仕草は、彼が研究者である以前に1人の若者であることがよく伝わってきます。柳楽は、セリフばかりに頼ることなく、細やかな仕草だけでこの心の変化を的確に表現。それだけでなく、修の研究に対して異様なまでにこだわる一面や、自分たちのやっていることに疑問を抱き葛藤していくさまを、限られた表現の中で示しています。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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その姿からは、この時代を生きた1人の若者が現代の若者とかけ離れたものではないことを、静かに訴えているようでした。

この訴えに力を貸すのが、脇を固める俳優たち。本作は、戦時下の日本を描いた作品ではありますが、この時代を生きた若者たちにフォーカスした青春物語です。柳楽を中心に、有村、三浦がそれぞれ体現する若者像にも、時代を超えて胸に迫るものがあります。

印象的なのが、この環境下にありながらも有村演じる世津は“未来”を見据えているのに対し、三浦演じる心に傷を負った軍人は“いま”をどう生きるかに囚われてしまっていることです。立場が違うからこそ、当然その考え方も変わってくる。彼らのちょっとした視線の動きや細かな表情の変化が、それぞれの考え方やこの時代の捉え方の違いを雄弁に語っているのです。

田中裕子、國村隼などベテラン俳優陣の絶妙な“塩梅”

そして、ベテラン俳優たちの存在も本作には欠かせません。劇中での彼らは、次代を担う若者たちを見守る役割を担っています。修と裕之の母親を演じる田中裕子は、一歩引いた位置から言葉少なに彼らを見つめていますが、やはり時折、子どもたちを真剣に想う母の顔をのぞかせます。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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戦争に関わる子どもたちに対して抱く複雑な思いが、たった一言のセリフ、たった一瞬見せる表情からひしひしと伝わってきます。若者が中心となる本作において、その母である彼女の存在はとても重要なのです。

修をはじめとする若き研究者たちを見守り導く存在を演じる國村隼も、大きな役割を果たしています。彼が演じるのは、日本の原子物理学の第一人者。修たちを率いて実験を繰り返し、原子核エネルギーの秘密に迫ろうとしています。ところが、彼も修以上に、軍の命令で原爆を開発することに葛藤している人間です。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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しかし立場上、それをあからさまに若者たちに示すことはできない。このあたりの國村の表現の塩梅は絶妙で、「さすが」としか言いようがありません。修というキャラクターが体現する本作の一つのテーマを、彼の存在がより強固なものとしていると感じます。

現代に問いかける“いま”必要な姿勢

本作から読み取れるテーマ、受け取れるメッセージはいくつもあると思います。原子爆弾や戦争の悲惨さはもちろん、この環境下を必死に生き抜いた人々がいたこと、家族や仲間の尊さ、情熱を傾けられるものがある喜び。多くのメッセージが散りばめられていますが、筆者がもっとも強く惹かれたのは、戦争という時代にありながらも、未来のことを考える者が力強く描かれている点です。

「太陽の子」
(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ
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自分の意見を持ち続けることの大切さ

未来への希望は本来であれば誰もが等しく持って良いはずですが、戦時中はそうではありません。国民の全てが一つの方向に向かうことが求められ、それに応じなければ過酷なペナルティがありました。

しかし本作は、社会に向けてメッセージを発することが難しくとも、本当の心の中では他の圧力に屈することなく、間違っていることは間違っている、正しいことは正しいと自分の意見を持ち続けることの大切さも描いていると思います。

これは、現代にも当てはめられると思います。例えば、オリンピックのような国を挙げて臨むスポーツの祭典では、確かに“いま”しかチャンスがないものがあるかもしれません。ですが、コロナ禍という世界的な非常時に、“いま”ばかりが大切だと言い切れないのも事実です。そこではやはり、いかに大局を見て“未来”を見通せるかが大切だと思います。

このことを本作は、物語の登場人物たちの中だけで共有するのではなく、劇場を訪れた観客全員と共有しようとしていると感じます。過去を振り返りつつ、いまだけでなく、これからのことも考える。現代を生きる私たちに向けて、本作はそんな姿勢や問いを投げかけてきていると思います。

◆文筆家・折田侑駿さん

折田優駿さん
文筆家・折田優駿さん
写真9枚

1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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