本作が現代社会に問いかけるもの
被害者が福祉保険事務所の人物であることからも分かる通り、本作の核になっているのが社会福祉の問題です。助かるはずだった人が、福祉に従事する側の対応によって助からないことがある。そもそも、生活保護を必要とするほど追い込まれている人々が多くいるという社会問題が大前提としてあります。本作は、そこに怒りと悲しみを持って肉薄しています。
現在のコロナ禍も“災害”と言われたりしていますが、災害の有無に関わらず、生活に困窮している人々が数多くいます。やむを得ず、“何か”や“誰か”に頼らなければならない人も大勢いるはずです。しかし、誰もが自分のことで精一杯で、なかなか他人の痛みや苦しみにまで気付いてあげられないのが現状なのではないでしょうか。
本作は、そんな現状にもっとよく目を凝らし、周囲の声に耳を傾けなければならないことを改めて問いかけます。また同時に、助けが必要な人はどうか声を上げて欲しい、そんなメッセージも込められているように感じました。本作は、いまこの時代を生きる全ての人に贈られるべき映画だと感じました。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk