11月12日より公開中の林遣都(30歳)と小松菜奈(25歳)がダブル主演を務める映画『恋する寄生虫』。本作は、“人が恋に落ちるのは「虫」の仕業である”というユニークなアイディアを取り入れた、ファンタジックなラブストーリーです。変わった作品のように思えますが、視覚効果を用いた映像演出と俳優陣の鬼気迫る演技によって実現しており、多くの人々の胸に響く力作に仕上がっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
誰かを想う「心」の存在を解き明かすラブストーリー
本作は、コミック化もされた作家・三秋縋(31歳)による同名小説を、映画監督としてのキャリアを築きながら数々のテレビCMやミュージックビデオを手がけ、放送中の大河ドラマ『青天を衝け』(NHK)のメインビジュアルとタイトルバックの演出も担当している柿本ケンサク(38歳)が実写映画化したもの。
一組の孤独な男女が、「虫」の存在によって恋に落ちていく姿を描いており、映画『タッチ』や『種まく旅人 くにうみの郷』などの山室有紀子(53歳)が脚本を手がけています。
脳内にいる「虫」が恋をさせている?
物語のあらすじはこうです。高坂賢吾(林遣都)は極度の潔癖症によって、人と関わることができずに生きてきた青年。彼はある日、見知らぬ男から奇妙な依頼を受けます。その内容は、女子高校生・佐薙ひじり(小松菜奈)の面倒を見て欲しいというもの。彼女は視線恐怖症で不登校となっています。社会に対して反抗的で、孤独に苛まれている2人は似た者同士でもあり、やがて惹かれ合っていきます。
しかしそれは、脳内に存在する「虫」がそうさせているというのです。賢吾とひじりは互いに愛情を育みながらも、この「虫」に翻弄されていくことになります。
あらすじを眺めただけだと、風変わりな作品に思えるかもしれません。たしかに、人が恋に落ちるのは脳内にいる「虫」の仕業だなんて、変わっています。しかし本作は、特異な設定を取り入れながらも、普遍的なラブストーリーになっています。脳内の「虫」が恋をさせたのなら、誰かを想う「心」はどうなっているのか。
説明のつかない恋愛感情が生まれる理由を「虫」の存在に託し、「心はどこにあるのか?」を解き明かしているのが本作なのだと思います。
映像と音で訴えかける特殊な演出と演技合戦の掛け算
本作はラブストーリーではありますが、特異な設定の物語とあって、映像演出が非常に凝ったものとなっています。極度の潔癖症であり、他者との接触に底知れぬ嫌悪感を抱く賢吾と、視線恐怖症によって周囲の人々の存在にひどく怯えるひじり。2人が苛まれる恐怖感や、抽象的な「虫」の存在が、視覚効果によってグロテスクかつスタイリッシュに表現されています。
明確な言葉に頼らず、映像と音響だけで観客に訴えかける手法は、数多くのテレビCMやミュージックビデオを手がけてきた柿本監督ならでは。卓抜した手腕を持つ柿本監督らしさが、本作の随所に見て取れることでしょう。
林遣都、小松菜奈が監督の手法に見事に対応
さらに、そんな映像・音響の作品世界に主演の2人が見事に対応しています。今年、林は映画『犬部!』、小松は『ムーンライト・シャドウ』と、それぞれに単独主演を務めた映画が公開されました。両者ともにいまの若手世代を代表する俳優ですが、意外にも本作が初共演。“人と関わること”を避け、恐怖し、憎んできた男女の推し量ることのできない心情を、ときにデリケートに、ときにダイナミックに表現しています。
視覚効果による映像や音楽・音響などの効果は、撮影現場にはもちろんありません。つまり俳優たちは、“そこにないもの”を、あたかも存在しているかのように演じなければなりません。賢吾とひじりの日常的なやり取りや、感情をぶつけ合うクライマックスも見応えがありますが、特殊な映像に適応してみせるさまにも、林と小松が優れた俳優であることが表れていると思います。特殊な演出と演技合戦の掛け算が見事なのです。