ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、今年8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護。ほとんど寝たきり状態だった要介護5の母ちゃんは、今では歩行器を使って外を歩けるまでに回復。しかし、母ちゃんが不満を言うことも増えてきた。そんなある日、母と娘が大げんかする“事件”が発生!
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「ヒロコがいなくなった!」
老人施設に”はいれ、はいらない”という親子バトルは介護の最大の山場。まさに死闘と言ってもいい。私もここ2週間は修羅場に次ぐ修羅場だったの。そのひとつが”妄想事件”。
私が仕事場にしているのは、おせんべいの製造・販売をしている藤永製菓が経営している『おかきカフェ』。介護疲れで、日に日に追い詰められていた私にとって原付きバイクで5分のカフェはオアシスよ。平日は静かだし、フリーWi-Fiもつながっている。それに何よりいい距離に山が見えて、パソコンに疲れた目が休まるの。
で、あの日も母ちゃんに「いつものとこで仕事してくるよ。暗くなる前に帰ってくるから」と言って家から出て、原稿書きして、さあ、そろそろ帰るかと夕方の5時前に立ちあがろうとしたその時なの。亡き義父ちゃんの弟のTさんから電話が入ったのよ。
「トシエさん(母ちゃん)から『ヒロコがいなくなった。探してくろ』って電話がかかってきたんだよ」と。
電話? ベッドの横のポータブルトイレしか1人では動けないはずの母ちゃんがどうやって電話をしたのか。
ベッドの中で目を光らせる母ちゃん
あわてて家に戻ると、母ちゃんはベッドの中でギンギラに目を光らせて、「ひと晩中、どご行ってたんだよ!」と怒っている。「ヒロコちゃんを男の人が迎えに来て、出て行ったって、そう言うんだよ」とTさんがうろたえると、「玄関で『ほら、早くしろ。間に合わなくなっと』って男が大声でヒロコを呼ぶ声、オレは聞いたんだ!」と母ちゃん。
はは~ん。最近、よく眠れないと言っていたけど、私が出かけた後、ガツンと深い眠りについて目覚めに寝ぼけたんだ。今、朝だと思っているのよ。
その時、気がついたんだけどティシュボックスの裏に油性ペンで数字が並んでいる。母ちゃんの筆跡なのよね。
「ヒロコがいねえがら、手押し車で押し入れまで行って、メモ帳を探してTさんに電話したんだっぺな!」
もう、このあたりから私の怒りが止まらなくなったのよ。
「今、朝早いんだっぺ? それでTさんを叩き起こしたのが!」と私が大声を出せば、「そら、ヒロコがいねぇんだがら、心配すっぺよ!」と母ちゃんも負けず劣らず声を張り上げる。
「なんだと、ごら! 私が介護がイヤになって男と逃げたっていうのがよ!」「男と逃げだなんちゃ、言ってねえべな」
くそっ。そんな甲斐性があったら田舎で93の婆さんのシモの世話なんかしたあげく、怒鳴り合ってっかよ。