
正月明けの体重増加は、もしかしたら食べ過ぎ以外にも原因があるかもしれません。では、どんな要因が考えられるのか、またそれを予防するにはどうすればいいのか、あんしん漢方の管理栄養士・小原水月さんに教えてもらいました。さらに、正月太りをしてしまったときの対策として取り入れたい食材や漢方薬を教えてもらいました。
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正月には太りやすい理由がたくさん
正月太りの原因は単純に食べ過ぎだけではありません。短期間での飲食量の増加や栄養バランスの偏り、生活習慣の乱れによる代謝の低下も、太りやすい体の原因となるのです。
代謝とは、新しいものを取り入れて活用し、老廃物を排出するという循環を指します。代謝が低下することで、カロリーを消費しにくくなるうえ不要な老廃物も排出しにくくなるため、太りやすくなってしまうのです。
太りやすい体にならないために、年末年始は食事の変化と生活習慣の乱れに気をつけましょう。

食事内容の変化
正月は普段とは違ったごちそう、菓子や酒などの嗜好品を食べる機会が増えますよね。ハイカロリーな食事が続いたり、食事量が急に増加したりすると、消化器に負担がかかり、代謝を下げる原因になります。
もちろん、ごちそう中心の食事が続き、摂取カロリーが多くなると、直接的な正月太りの原因となります。
副交感神経が優位になりやすい
ゆったり過ごす正月は、食事の時間があいまいになり、だらだらと食べ続けることも食事量が増える一因です。いつも以上につい食べ過ぎてしまうことにも理由があり、リラックスした状態、つまり副交感神経が優位になった状態だと、胃腸のはたらきが活性化され、食欲が増してしまうのです。
さらに、ごちそうは消化器に負担をかけるたんぱく質と脂質の割合が大きいことが多いです。消化機能が落ちると老廃物がため込まれ、むくみが生じたり、便秘になったりすることもあり、それが体重増加の原因にもなります。

生活習慣の乱れ
正月に生活習慣が乱れることも、代謝が低下する原因となります。正月は連休ということもあり、就寝や起床の時間が変動しやすくなります。生活のリズムが崩れると、自律神経のバランスも乱れてしまします。
自律神経は体の代謝機能や内臓のはたらきなどをコントロールしているため、自律神経が乱れることで代謝が低下してしまうのです。
また、正月は通勤や買い出しなどの外出機会が減り、活動量が下がりやすい状況にもなります。活動量が少なくなると、消費エネルギーが減るだけでなく、血流が悪くなり、代謝低下に拍車がかかります。
代謝が低くなると食べたものを栄養としてうまく利用できず、脂肪や老廃物をため込みやすくなるので、太りやすくなるのです。
事前にできる正月太り対策とは?
正月太り対策として有効なのは、正月に入る前から体を代謝が高い状態にしておくことです。代謝が高い状態とは、すなわちエネルギーを消費しやすい状態のこと。太りにくく痩せやすい状態ともいえます。
正月太りがいつまでたっても戻らないのは、普段からの代謝の低下が一因となっています。そのため、正月前に体を代謝が高い状態にしておけば、正月太りをリセットしやすくなるのです。体の代謝を高めるには、胃腸の調子を整えることと、体温を上げることの2つが大切です。
胃腸の調子を整える
胃腸の調子を整えるには、「よく噛んで食べること」が有効です。
胃腸は食物から栄養を取り込み、老廃物を排出する代謝の要ともいえる器官。胃腸を含む消化器は一本の管でつながっていて、連動しながらはたらきます。人の体は、食事の際によく噛んで食べることで胃が動き、胃が動くと腸が動くようにできているのです。
つまり、胃腸を元気に動かすためには咀嚼(そしゃく)が大切だということです。また、咀嚼が不十分のまま飲み込むような食事が続くと胃腸に負担がかかり、消化機能の低下につながります。さらに、未消化物は腸にたまりやすく、腸内環境を悪化させる原因にもなります。
普段から、食事をよく噛んで食べるように気をつければ、代謝が上がって消化機能も高まり、痩せやすい体になるといえます。
体温を上げる
代謝を高めるためには、体温を上げることが重要です。体温が1℃上昇すると、代謝が約13%上がるといわれています。体温を上げる方法としては、普段から運動をする、入浴の習慣をつける、食事をしっかりとる、などがあげられます。
実際に、食事や運動、入浴後には体が温かくなるのを感じるのではないでしょうか。生活のなかにこのような体温を高める習慣を取り入れると、代謝が上がりやすくなります。また、食事の際は、エネルギー源となる炭水化物を十分に摂ることも重要です。体温を生み出し続けるためには膨大なエネルギーを必要とするため、炭水化物が足りないと体温を上げられません。
炭水化物とは、主にごはんやパン、麺など主食のこと。すみやかにエネルギーになる食品を毎食とることで、体温が上がりやすくなります。
正月太りをリセットする食べ物3つ
正月に増えた体重をすみやかにリセットするためには、疲れた胃腸の機能を高めることが重要です。そこで次に、胃腸に負担をかけずに消化機能を助けることで、機能回復が期待できる食材を、3つご紹介します。
きび

きびは、日本では五穀の1つとされる穀物の一種です。漢方医学において、きびは弱った消化器のはたらきを助けると考えられています。
栄養学的にはマグネシウムや鉄などのミネラルを多く含み、同時にビタミンも摂れるため、炭水化物の代謝を助けてエネルギーを熱に変えるのに役立つ食材です。
きび入りの雑穀ミックスを選び白米に混ぜて食べたり、きび団子やきびぜんざいのようにスイーツにしたりするといいでしょう。
梅干し

梅干しに含まれる酸味成分のクエン酸は、唾液や胃液などの分泌を促し消化を助けます。また、クエン酸はエネルギーを生み出すサイクルを活発にするはたらきがあり、疲労回復や、熱を生み出すのに役立ちます。
ごはんのお供やおにぎりの具が定番の梅干しですが、長芋などとの和え物にしたり、汁物の味付けやアクセントとして使ったりしてもおいしく食べられます。
みそ

実は、みそは食物繊維の優秀な供給源。食物繊維は消化されずに腸まで届き、腸内環境を改善する腸内細菌に利用されることで、菌の数を増やします。
加えて、便の体積を増やし、腸を刺激することでスムーズな便通を促し、腸を活発に動かすのにも役立ちます。
また、みそに含まれる麹菌(こうじきん)などの菌類は、腸内環境の改善に役立ちます。ただ、外から取り入れた善玉菌は2~3日で排出されてしまうので、毎日摂ることが大切です。
定番の味噌汁のほか、味噌炒め、味噌煮、トマトソースやクリームソースのコク出しなど、調理に取り入れてみましょう。
正月明けにダイエットをするなら漢方薬もおすすめ
生活習慣や食事に気を付けても正月太りが解消しないときは、内科の治療でも使われている漢方薬をのむという方法もあります。
漢方医学では、水分バランスや気の巡りなどが滞ることが、肥満につながると考えます。そのため、体内の水分バランスを調整したり、気の巡りをよくしたりなど、体の内側から乱れたバランスを整える漢方薬を取り入れ、正月太りの解消を目指します。
漢方薬には脂質を吸収しにくくするはたらきをもつものや、脂肪を便と一緒に排出するはたらきをもつものなどがあり、体質に合わせて選びます。

正月明けダイエットにおすすめの漢方薬2つ
以下に、正月太りのリセットにおすすめの漢方薬を2つご紹介します。
・防已黄耆湯
防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)は水分循環を促し、余分な水を排泄させます。水太りの肥満症の方によく使用されます。
・大柴胡湯
大柴胡湯(だいさいことう)は気の巡りを促してストレスを低減させ、便通も改善します。体の余分な熱を取り除き、肝のはたらきをよくして、脂質代謝を改善します。ストレスで食欲が増してしまう、便通が悪くがっちりした体型の方によく使用されます。
漢方薬を取り入れるときに気を付けたいこと
漢方薬は繰り返す不調に対して、根本からの改善を目指す薬です。そのため、食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、のみ続けて体質を変えることで効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
生活習慣の改善や食事、漢方薬など、自分にあった方法を取り入れ、太る心配などせずに楽しいお正月を迎えましょう!
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。