理系男子はビビりでぼんやり
「うちの子、ビビりで困っちゃう」「こんなにぼんやりして、頭が悪いのかしら」という悩みもよく聞きます。けど、その度に、私は「理系の天才かもよ」と答えます。
あるとき、双子の男の子のママから、「片方はビビりでブランコにも乗れないのに、もう片方は積極的になんにでも挑戦する。この子のビビりを何とかしたい」と相談を受けました。
2人とも6歳でした。積極的な子は、明るくてイケメンでキラキラしていました。ビビりと言われた子は、ほんわかした男の子ではにかむ姿がなんともキュート。二卵性の双子ちゃんだそうで、同時に異なる個性の息子たちを手にしているママを、私はうらやましくなりました。
私は、「そのまま、放っておけば? ビビりな子は、集中力を作り出すホルモン=ノルアドレナリンの分泌がいい可能性が高い。将来、理系の成績がいいかもよ。そもそも、積極派と慎重派、2人の息子がいたら、安心じゃないの」と答えました。
10年後、ばったり会ったそのママが、満面の笑みを浮かべてこう言いました。
「あの子、あなたの予想通り、めちゃ成績いのよ。特に、数学が得意で」
「ぼんやり」も、理系男子に共通の特性です。空間認知力を進化させるとき、ぼんやりしてしまうからです。五感から入ってくる感覚情報を遮断して、脳の世界観を書き換えるから。
幼い息子が「ビビりで、ぼんやり」だと、母親は心配になって、つい直そうと躍起になってしまうものですが、直してしまったら、理系の能力は確実に落ちます。おおらかに見守ってあげてほしいなと思います。
ビビりを隠すために、皮肉屋に?
ちなみに、ノルアドレナリンは、脳神経信号を抑制するホルモン。いわば、脳のブレーキ役です。
脳にはセロトニンやドーパミンのように、脳神経信号を促進して、脳を活性化するホルモンもあります。アクセル役ですね。このアクセル役が働くと、脳は好奇心であふれ、「あれ、どうなってるの?」「あれが欲しい!」と走り出します。
しかしながら、アクセル役ばかりだと、多動傾向に。「あれ、どうなってるの?」「これ、も気になる」「えっ、それは?」みたいに、気が散って、1つのテーマに集中できないからです。
これらを抑制して、最初のテーマに集中させてくれるのがノルアドレナリンです。ノルアドレナリンは、アクセル役のホルモンと連動して、集中力を作り出す立役者。脳の学習能力に大きく貢献しています。ただし、ブレーキ役ですから、多めに分泌すると、「ビビりで消極的」に見えるのです。
脳の機能性を追求していくと、この世にダメなだけの脳は存在しないのがわかります。
相談者の夫も、もしかすると、ビビりタイプなのかもしれないですね。
ビビり屋さんは、母親にその性質をおおらかに見守ってもらえないと、自分のビビりを隠すために、人の欠点をあげつらう皮肉屋に育ってしまうこともあるからです。
大人の性格は直せないので、対処法しかありませんが、子どもの性格は、母親が何とかできます。
「欠点に見える言動」を、絶対悪だと決めつけないセンス。夫に優しくなるためにも有効ですが、子育てには不可欠な気がします。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん
株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
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