現在公開中の小松菜奈(26歳)と坂口健太郎(30歳)がダブル主演を務めた映画『余命10年』。本作は、とある難病によって「余命10年」と告げられた1人の女性の人生と、周囲の人々の交流を温かく描き出したもの。興行収入ランキングでも上位をキープし、鑑賞した人の感動の声があちこちから聞こえてきます。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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美しい映像を通して、ヒロインとともに四季を感じる
本作は、作家・小坂流加(享年38)さんによる同名小説を、数々の映画賞を受賞した映画『新聞記者』や『ヤクザと家族 The Family』、ドラマ『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)などの演出を手がける藤井道人監督(35歳)が実写映画化したもの。NHKの朝ドラ『ひよっこ』などの人気作を手掛けてきた岡田惠和(63歳)とドラマ『ムチャブリ!わたしが社長になるなんて』(日本テレビ系)の渡邉真子(35歳)が共同で脚本を担い、劇伴と主題歌はRADWIMPSが担当しています。
俳優陣のみならず、スタッフ陣も豪華な顔合わせが実現した座組となっているのです。
不治の病に侵された女性がかつての同級生と再会
物語のあらすじはこうです。20歳の時に、数万人に1人の確率で発症する不治の病に侵され、余命が10年であることを知った高林茉莉(小松菜奈)。彼女は生きることに執着しないよう、恋だけはしないと心に決めて日々を過ごしていました。そんなある日、中学の同窓会に参加した茉莉は、かつての同級生の真部和人(坂口健太郎)と再会します。これまで接点のなかった2人ですが、この出会いをきっかけに距離を縮めていくことに。
自身の病状の深刻さを隠し、和人との特別な時間を過ごす茉莉。しかし、最期の日はいつ訪れるのか分からない。やがて2人は、ある決断を下すことになります。
病に冒された主人公の作品は多くあります。本作もタイトルから想像できる通り、やがて物語は茉莉の“最期の時”へと向かっていきます。しかし、辛く苦しいだけの作品ではありません。恋だけはしないと決めていた茉莉が和人と出会うことで変わる日常、自身の中に芽生えた恋心を知ることで世界が色づいて見えるさまが、四季折々の美しい景色とともにスクリーンに映し出されます。
茉莉が過ごすかけがえのない日々を、映像を通して、ともに体験することができるでしょう。
“懸命に生きる姿”を体現する「小松×坂口」主演コンビ
本作は余命宣告された主人公の物語とあって、やはり終始胸を締め付けられる作品です。これを実現させているのが素晴らしい俳優陣の好演の数々。特に主演の小松&坂口コンビは作品の中心に立って、“人が懸命に生きる姿”を体現しています。
難病に冒されたヒロインを演じる小松は当然ですが、相手役の坂口も、本作で演じた役は非常に負荷の大きなものだったのではないかと思います。役を演じるというのは簡単なことではありません。観客がお金を払ってまで観るに耐え得るものを高い技術によって表現しなければならないのは俳優の大前提として、自分以外の誰かの人生を生きることには大きな責任がともなうものでしょう。
それも本作の場合は、原作者である小坂さんも茉莉と同じく難病に冒されていました。茉莉というキャラクターには、小坂さん自身のパーソナルな部分も反映されているはずです。
ヒロイン女性を全身全霊で”生きた”小松菜奈
いくら役とはいえ相当な覚悟がなければ務まらず、気力、体力、精神力と求められるものは大きかったでしょう。小松は撮影当時を振り返るエピソードとして、役にのめり込むあまり奥歯を噛み締めすぎた結果、歯がボロボロになってしまったことを語っています。スクリーンに映る彼女の姿を思えば、そうなるのも無理はないだろうと思わされます。
それほどまでに小松は、茉莉というキャラクターを、茉莉の人生を、全身全霊をかけて生きているように感じるのです。そしてこれを受け止め、支える坂口の好演の裏にも、やはり似たような苦労があったのではないかと思います。
もちろん、脇を固める共演者たちの功績も大きいです。山田裕貴(31歳)、奈緒(27歳)、黒木華(32歳)、田中哲司(56歳)、リリー・フランキー(58歳)、原日出子(62歳)、松重豊(59歳)といったキャストが並び、それぞれに友人や家族など、茉莉と和人を囲む者たちを演じています。茉莉と和人だけで成り立つ物語ではなく、彼らの存在があってこそ引き出される2人の一面は多くあります。彼らがいてこそ、物語は奥行きと深さを持ち、ただの“悲恋”に終わらない作品にもなっているのです。