「死」よりも「生」を映した作品
『余命10年』の物語はあくまでもフィクションですが、実際にご自身も難病に冒されながら小説を執筆した小坂さんの、“生きること”への強い想いが込められているのを感じます。それを藤井監督をはじめとする作り手たちが丁寧にすくい取り、身を削って演じる俳優たちとともに映画に焼き付けているように思います。小坂さんの目には世界がどのように映っていたのか、知る由もありません。しかしそれは、一瞬一瞬を懸命に生きる茉莉の姿や周囲の人々の温かさに反映されているのだと思います。
この手の作品を、「難病もの」などとラベリングしたり、ジャンル分けする傾向はかねてよりありますが、人の「死」を扱っている以上、決して安易に“消費”してはならないと筆者は常々思ってきました。その意味でも本作は、到底消費などできない作品です。なぜなら「死」や病に立ち向かう過酷さ以上に、限られた時間をいかに生きるかにフォーカスし、先に述べたように、俳優たちが懸命に生き抜いてみせているから。まぎれもなく、「死」よりも「生」を映した作品であり、“生きること”を肯定しようとする強い意志が感じられる作品なのです。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk