
コロナ禍が長引くなか、犬を新たに飼い始める人が増えています。以前より自宅で過ごす時間が長くなり、自宅に犬がいてくれると気分が明るくなりそう、という期待もあるようです。新たに犬を飼うとき、健康管理や散歩などのお世話、しつけが比較的しやすい犬種があるとしたら、それを選びたいと思う人もいるかもしれません。獣医師の山本昌彦さんに「飼いやすい犬種」などについてお話をうかがいました。
“衝動買い”は絶対にダメ!
一般社団法人ペットフード協会の調査によれば、犬を1年以内に飼い始めた世帯の数は、2019年の31万1000世帯に対して2020年が36万1000世帯、2021年は38万世帯と、増加傾向にあるということです。背景には、コロナ禍によるステイホーム生活を充実させたい思いがあるようです。

しかし、犬を飼う場合は、健康管理だけでなく、毎日の散歩などのお世話や、吠えたり噛んだりしないようにしつけをすることも必要になります。お世話は一生懸命するつもりでも、しつけがうまくできるかどうか、病気の予防が適切にできるかどうかは、初めて犬を飼う人なら誰しも心もとなく思うところではないでしょうか。例えば、体が丈夫で性格が素直な犬種などがもしあれば知りたいところですが…。
事前に家族でよく話し合いを
「結論から言えば、そういう犬種はないと思います」と獣医師の山本昌彦さんは言います。「体質も性格も個体差が大きいので、この犬種なら、犬のことをよく知らなくても飼えると思うべきではありません。
犬を飼うなら、事前に家族でよく話し合うことが大切。ペットショップなどでの“衝動買い”は厳に慎むべきです。どんな犬を飼いたいか、自分たちはどんなお世話ができて、どんな犬を飼えそうか、家族みんなで十分に意見を出し合って犬を迎えましょう」
「ミックス犬は体が丈夫」は本当?
飼いやすい犬種、飼いにくい犬種などと簡単にくくることはできないというのが山本さんの答えですが、昔からよく聞く俗説についても、現場を知る獣医師の立場から回答してもらいました。まず、ミックス犬は体が丈夫だという説です。
「血が混じるから体が強いという話ですよね。私も聞いたことはありますが、真偽は不明です。動物病院では、重病にかかったミックス犬を診ることも当たり前にありますし、少なくとも私はミックス犬が特に丈夫だとは感じません」

小型犬より大型犬のほうが長生き?
なお、小型犬のほうが大型犬より平均的に長生きであるという統計はあります。アニコムの「家庭どうぶつ白書」によれば、小型犬の平均寿命は14.4歳、中型犬は13.4歳、大型犬は11.5歳です。
「しかし、あくまで平均した場合の話であり、個体差があることは言うまでもありません。それに、混血犬(体重10kg未満)の平均寿命は14.7歳ですから、小型犬の中で特に長いといえないのではないでしょうか」
「洋犬はフレンドリー」と言うけれど…
では、性格はどうでしょうか。日本犬より洋犬のほうがフレンドリーだ、日本犬は飼い主には忠実だが他の人にはなつきにくくガンコだ、といった説もよく耳にします。

「それも本当に個体差があります。フレンドリーな柴犬もいますし、逆にしつけがうまくいかず、飼い主さん以外は誰も触れない(触ろうとすると噛みつく)ゴールデンレトリーバーもいます。
犬種には国際畜犬連盟(FCI)が定めた10の分類があります。第9グループが愛玩犬ですので、第9グループに属する犬種なら飼いやすいとする考え方もあるのかもしれません。でも、愛玩犬を飼っている人に聞いてみたら、どなたも『しつけは簡単』『楽に飼える』とは言わないと思います。
大切なことは、どの犬種であれ、子犬の頃からしっかりとしつけをすること。幼い頃にかわいいからといって問題行動を放置してしまうと、成長して誰も触れない犬になり、病気やケガのときに満足な治療ができなくなってしまう可能性があります。また、その子がもしも人を噛んでしまった場合には、当の犬も被害者も飼い主さんも苦しむことになってしまいます」
「メスはおっとり」という説の真偽は?
それでは、オスメスの差はどうでしょうか。メスのほうがオスよりおっとりした性格だという説も昔からよく語られてきました。
「それも正直あまりピンとこない話です。オスの去勢手術の影響もあるかもしれませんが、オスだから気が荒い、メスだからおとなしいという傾向はあまりないかなと思います。私個人のこれまでの経験ではむしろ、メスで気の強い犬を見ることのほうが多かった気がします」
事前に同居家族全員のアレルギー検査も
まとめると、この犬を選べば難なく飼っていける、という犬種や性別は存在しないということになります。だからこそ、どう育てれば犬を幸せにできるのか、犬と共に楽しく暮らしていけるのかを真剣に考えて努力することが大切です。

「繰り返しになりますが、犬を飼うなら、ご自宅の環境やご家族の構成などを考慮して迎えてもらいたいと思います。分かりやすい例を挙げると、都心のマンションでラブラドールレトリーバーのような大きな犬を飼うのは無理がありますし、犬にアレルギーがある人が一緒に住んでいる場合、抜け毛の多い柴犬やコーギーは避けたほうがいいでしょう。また、ボーダーコリーなどの牧羊犬を飼う場合、散歩やドッグランなどでの運動量が他の犬種よりも必要かと思います」
アレルギー検査は一般的な項目に絞った検査なら費用5000~6000円ほど。採血して、犬や猫のほか、花粉やハウスダストなど39項目にアレルギーがあるかどうか調べることができます。
他方、飼い始めた犬の健康状態やリスクが高そうな病気などは、動物病院での健康診断で把握できます。
犬の個性に合わせてしっかり健康管理、お世話を
「しつけや健康管理の話は、動物病院に相談したり、購入したペットショップやブリーダーで教えを請うたりして、その子に最適なやり方を模索してもらえたらと思います。
“飼いやすい犬種”がいるのではなく、飼うと決めた犬の個性や体質に合わせて、しっかり健康管理やお世話やしつけをすることで、その子が“飼いやすい犬”になっていくと思ってください」
◆教えてくれたのは:獣医師・山本昌彦さん

獣医師。アニコム先進医療研究所(本社・東京都新宿区)病院運営部長。東京農工大学獣医学科卒業(獣医内科学研究室)。動物病院、アクサ損害保険勤務を経て、現職へ従事。https://www.anicom-sompo.co.jp/
取材・文/赤坂麻実
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