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阿部寛と北村匠海、父子の絆が「泣ける」と話題に!映画『とんび』が“ハンカチ必須”の理由

『とんび』劇中写真
阿部寛と北村匠海の共演で「泣ける」と話題に(c)2022 『とんび』製作委員会
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主演に阿部寛(57歳)、共演に北村匠海(24歳)を迎えた映画『とんび』が4月8日より公開中です。本作は、不器用な父と息子の絆を描き出したもの。鑑賞した人からは「泣けた」「ハンカチ必須」「涙が止まらなかった」などの声があがっています。感動作といわれる本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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“親の視点”と“子の視点”で紡がれる父子の物語

本作は、作家・重松清(59歳)による同名小説を、映画『糸』や『護られなかった者たちへ』などを手掛けた瀬々敬久監督(61歳)が映画化したもの。映画『宮本から君へ』の港岳彦(48歳)が脚本を、これまでにも瀬々監督とタッグを組んできた作曲家、村松崇継(43歳)が音楽を担当し、人気フォークデュオ・ゆずによる主題歌『風信子』が感動の物語を美しく締めくくります。

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(c)2022 『とんび』製作委員会
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舞台は昭和37年の日本。運送会社で働く主人公のヤス(阿部寛)は、破天荒で不器用、些細なことで仲間とケンカを起こしてしまうような男です。けれども、不器用だからこそ周囲の人々に愛される男でもあります。そんなヤスの愛する妻・美佐子が妊娠し、彼は父親に。息子・アキラ(北村匠)と妻の3人でのささやかな幸せを掴むヤスですが、事故で美佐子を亡くしてしまいます。失意に暮れる日々を送るヤスは、人情に厚い町の人々の力を借りて、アキラを育てていきます。

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(c)2022 『とんび』製作委員会
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不器用な父と子が互いを思う姿

物語は北村匠海演じるアキラのモノローグによって語られていきますが、映画の作りとしては二部構成。父・ヤスが中心の物語から、やがて息子・アキラが中心の物語へと移行していきます。ヤスから見たアキラの姿と、アキラから見たヤスの姿が映し出され、“親の視点”と“子の視点”があることで、観る人によって感情移入するポイントは変わってくることでしょう。それでも一貫して描かれるのは、不器用な両者が互いを思い合う姿です。

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一言では語れない複雑な父子像を阿部寛と北村匠海が熱演

上映時間4時間38分の映画『ヘヴンズ ストーリー』や、錚々たる俳優陣が一堂に会した『64-ロクヨン- 前編/後編』など、骨太な社会派ヒューマンドラマを精力的に手掛け続ける瀬々監督の作品とあって、本作『とんび』も多彩な顔ぶれによって成り立っています。

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阿部寛はこれまでにも破天荒なキャラクターを多く演じてきましたが、ヤスは絵に描いたような破天荒ぶり。物語の舞台が昭和ということもあり、その豪快さは振り切れている印象ですが、もちろん阿部は、単純な破天荒キャラを演じたりはしません。破天荒さの中に、妻への優しさや、息子を想う厳しさを覗かせます。一見単純に見えて、実は非常に複雑なヤスというキャラクターを作り上げているのです。

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北村が表情や声で”愛情表現が苦手な息子”を表現

子役からキャリアをスタートさせ、映画を中心に自身の代表作を生み出し続ける北村匠海が演じるアキラもまた、とても不器用な人物です。彼にはヤスのような荒っぽさはありませんが、素朴で大人しく、父に気持ちを伝えるのが苦手。息子への愛情表現がヘタクソなヤスの子らしいアキラの一面を、北村は表情や声音の細かな変化で表現しています。

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こちらもまた、阿部演じるヤスと同様に単純化させず、一言では語ることのできない人間の複雑さを演じているのです。彼が主役級の役を相次ぎ担い、若手俳優の中でもトップクラスに位置付けられる理由も、ここで分かるのではないかと思います。

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父子の物語に色を添える名脇役たち

この2人の脇を固めているのが、薬師丸ひろ子(57歳)、杏(36歳)、安田顕(48歳)、大島優子(33歳)、麻生久美子(43)ら豪華俳優陣。ヤスとアキラの関係に深く関わるポジションに配されている彼らが、出番の多寡に関わらず各々の役割を全うし、父子の物語に色を添えています。彼らの手堅い演技が、この骨太なヒューマンドラマに強度を与えていると思います。

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いつの時代も変わらない“人を想う心”

『とんび』が実写化されるのはこれで3度目です。2012年には堤真一(57歳)が、2013年には内野聖陽(53歳)がそれぞれヤスを演じたテレビドラマが放送されました。なぜ今回、映画で実写化されることになったのか。それはやはり、いま必要な作品だからだと思います。本作が描くのは、変わりゆく大きな時代の流れの中でも決して消えることのない強い絆。時代が変わっても忘れたくない、忘れてはいけない、そんな“人を想う心”が映し出されているのです。

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「山あり谷ありの方が人生の景色はきれい」

薬師丸ひろ子が演じるヤスの姉・たえ子のセリフに「山あり谷ありの方が人生の景色はきれい」というものがあり、とても印象に残ります。ヤスもアキラも、大きな喪失を共有しています。また本作は、60年代前半から現代までの大きな時代の変化が物語の背景にあります。劇中で明確に描かれずとも、その時代を生きる人々それぞれに“山”や“谷”がある。たえ子のこのセリフには、“生きていくことを肯定しようとする気持ち”が表れているように思うのです。これもまた、『とんび』がいま必要とされる理由なのではないでしょうか。

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(c)2022 『とんび』製作委員会
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◆文筆家・折田侑駿

折田優駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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